※ 特別機動捜査隊 まえがき

捜査担当班の詳細については、wiki特捜隊-キャストを参照、また、(本放送)とはNETでの放送、(再放送)とは東映chでの放送を指します。出演者については配役名を略していますが、本文で書くこともあります。なお、出演者をもっと知りたいときは、リスト特捜隊で検索。

また、(出演者)は、エンディングで、一列~三列で表示された男優・女優に限定しました。

1963年公開の、映画版・特別機動捜査隊全2作とは趣が異なることに注意。

 

☆・・・#704  人妻の虚像

 

 

 

(本放送)・・・1975年5月7日

(再放送)・・・2019年9月12日

(脚本)・・・松本昭典

(監督)・・・天野利彦

協力)・・・無し

(協賛)・・・無し

(捜査担当・オープニング表記)・・・三船班

田中係長(山田禅二)、鑑識員(田川勝雄)、鑑識員(西郷昭二)、

関根部長刑事(伊沢一郎)、石原刑事(吉田豊明)、水木刑事(水木襄)、

松木部長刑事(早川雄三)、畑野刑事(宗方勝巳)、三船主任(青木義朗)

 

(出演者)・・・

福田公子、萩原信二、長尾深雪、湯沢勉、伴藤武、吉沢信子、片山滉、

木之元恵美、山本浩司、外野村晋、渡辺千世、村田知栄子、富田仲次郎

 

 

(あらすじ・予告篇から)

・・・ ※当時のナレーションをそのまま聞き写しています。

 

夜ごと、若者との情事に溺れていく人妻・・・。

それをネタに、大金をせしめようと企んだ若い男女。

強請る相手を間違えたことから、

殺人事件の渦に嵌りこむ・・・。

事件現場に落ちていた1本のボールペンから、

人妻の身元が割れた。

良妻賢母の仮面の裏に潜んだ女の凄まじさは、

どこから現われるのか?

その見事な変身ぶりに、目を見張る刑事たち。

そして、飽くまで彼女に接近を図る若いふたりが、

思い描く夢とは・・・?

次回、特別機動捜査隊、「人妻の虚像」、御期待ください。

 

 

(備考)・・・

・実見すると、田中係長(山田禅二)の出演場面は見当たらない。

・脚本・松本昭典は、#671 リルのすべて 以降、リアルタイムで半年以上してからの再登板。

・たか子を演じた長尾深雪は、その後「横溝正史シリーズ・仮面劇場」(TBS、1978年9月16日-10月7日・全4回、古谷一行主演)で、中性的な雰囲気を醸し出す虹之助を演じる。

・福田公子主演ものとして、#695 現代母親教育論 と興味ある比較が可能(後述)。

・なお、検証本にある「葉山公二」の表記は、実見すると誤りで、「葉山幹夫」が正しい。

・葉山家の女中、田口の会社の女秘書は、吉沢信子、木之元恵美のいずれかと思われるが、顔が判別しづらいので、以下本文では未詳とする。

・今回は、かなり本ネタに突っ込んだ内容なので、気になる方は以下を読まずに、実見することをお勧め。

 

 

(視聴録)

・・・開始約20分後半まで

 

あるホテルの一室、葉山幹夫(外野村晋)の妻、英子(福田公子)は早川登(萩原信二)と情事に耽っていた。ひと段落したところで、早川はドアからひとりの女・たか子(長尾深雪)をこっそりと中に入れる。実は、早川はたか子に情事の写真を撮ってもらい、それをネタに葉山を強請ろうと考えていた。そうとは知らない英子は、情事を再開しようと早川にねだるのだった。。。

 

後日のある夜、早川は葉山の自宅を訪れ、写真をネタに500万を要求する。葉山は早川と自宅内で話そうと招き入れるが、突然恐喝されていると110番に通報する。その写真の女は妻ではないという主張に驚いた早川は、写真を持って逃げようとするが、葉山と争いになる。その後、駆けつけた警官(並木静夫、大平操)はお手伝い(未詳)に案内され、自宅内に入るが、居間で左胸にナイフが刺さり絶命した葉山を発見する。三船班は現場に急行するが、自宅外で見張りのたか子に早川が声をかけ、公園へと場所を移す。早川は、事前に「葉山幹夫・英子」夫妻のことは、葉山宅に電話して実在すると確認していたのだが、偶然も手伝い、偽名を使われたと憤り、女の素性をを突き止めようと、たか子に協力を求める。

 

現場では、犯人の指紋が不鮮明なことに苦労していたが、凶器のナイフ、犯人が落としたらしい高級ボールペンを遺留品として押収、逃走経路は居間の窓であることが判明する。お手伝いの証言では、犯人をチラリ見ただけで、人相その他、恐喝の理由まではわからないということであった。そこで、三船主任は遺留品に重点を置く捜査を指示する。そして、松木・畑野はナイフの出処から、浜田しずお(伴藤武)の住むアパート1階を張り込み、浜田を連行するが、2階から降りてくる早川・たか子には気づくことも無かった。

 

その早川は、無くしたボールペンを気にしながらも、バイト先の赤坂のクラブへと出勤、英子と名乗る女は、店のママ(渡辺千世)が斡旋、商売としていることがわかる。早川は再度会いたい、待ち遠しいと訴え、ママから英子と名乗る女にアポを取ってもらおうとする。ママは早速「東京のこばやし」と名乗り、地方のある家に電話をかける。そこは、女中・ヤス(村田知栄子)を雇う邸宅であり、恵子(註・英子と名乗る女、以後は恵子と称する)が電話に出る。ママは同窓会と称し恵子を呼び出そうと誘い、恵子も来週ならと了承する。

 

一方、三船班は浜田のナイフは盗まれたもので無関係と判断・釈放、三船主任は焦りの中、残りのボールペンからの追跡に捜査を託す。そして関根・石原は、貴金属店へと聞きこみ。社員(片山滉)から、ボールペンのホールマークが「9375-T」というところから、神奈川県秦野市の田口伝次郎(富田仲次郎)という人物に3本販売したことが判明、急遽、現地へと向かう。

 

関根・石原はボールペンのメンテナンスと称して、田口の経営する会社を訪問するが、田口は仕事の傍ら、女秘書(未詳)といちゃついていた。そこで、3本のボールペンは、田口、女秘書が持っていることを確認、もう1本は田口の妻が持っているということで、富士見町の邸宅へと急行する。その邸宅ではヤスが2人を出迎えるが、田口や息子・敬一(湯沢勉)は女性関係にだらしがなく、恵子がしっかりしているから何とか体面を保っていると愚痴をこぼす。ほどなく恵子が現われるが、ボールペンは落としてしまったという返答、さらにそれを三船主任に報告したときの剣幕に、2人は途方に暮れるのだった・・・。

 

 

ストーリーはその後、特捜隊車両で田口邸近くを流していた関根・石原が、同姓同名の「葉山幹夫・英子」の表札を目撃、ようやく事件のとっかかりを見出します(註・視聴者は、上記本文でのヤスの出迎えで、英子と名乗る女→恵子→ボールペンの関連に気づきます)。そして、田口はやりたい放題で、明日からの海外出張と称する女遊びに憤る恵子は、東京のママに電話連絡。上京するのを明後日と前倒しさせ、はからずも早川・たか子の目論見が実現しようとするところで、興趣は後半へと引き継がれることになります。

 

 

当作は、一言でいえば面白い。

「刑事コロンボ」風のストーリー展開が上手く当てはまった作品であり、「刺殺事件→捜査→逮捕」という単純な流れの中に、様々なエピソードを挿入、展開に膨らみを持たせます。そして、ラスト、取調室の「ある男」・「ある女」・三船主任・関根の四者四様で上手く大団円を迎えるまで、非常に面白く描写されています。ボールペンの件を最後の最後まで引っ張る手法もあるのですが、これは脚本・松本昭典か監督・天野利彦の構成かは不明ですが、敢えて開始早々(開始約10分半ば)に明らかにする手法を用い、登場人物の人間模様に重点を置いた展開に仕上げたことで、全体に膨らみを持たせ、見ごたえある作品になったと思います。

 

刑事ドラマのテーマとしては、「人物A」の行為が、「人物B」に思いもよらない行動を誘発したことであり、序盤・終盤の対象人物を替えながら、対比表現させることに成功しています。これはまた、「葉山幹夫・英子」の東京と神奈川とでの取り違えにも繋がり、ママの台詞

>金と暇と体を持て余してる人

>小遣いが無くて体を持て余す人

というのもなかなか意味深であります。

これは(備考)で触れた、福田公子主演作の#695 現代母親教育論 (註・便宜上前作と以下略称)でいう、「刑事ドラマのスタイルを借りながら人間ドラマを描こうと脚色」した当作の松本昭典脚本を、天野利彦監督が再度刑事ドラマ風に肉付けしたものとも見えます。

刑事ドラマ風の肉付けとしては、特捜隊の作品が面白いときの共通項として「対比」があると言いましたが、当作ではそれを天野利彦監督も採用・踏襲しています。三船主任の「不機嫌さ」(関根からの報告時)と「思いやり」(ラストの取調室でのある心遣い)とを交互に描写するのも一例ですが、詳しくは実見していただければ、その他にも作品内に散りばめらているのに気づくと思われます。

 

その天野利彦監督の感嘆すべき演出技法のひとつが、ナイフ所有者・浜田の連行の場面にあります。

【アパートの外で張り込む松木・畑野】

→部屋(2階)にいる早川・たか子が、あることであたふたする

→そして、外に出ようとドアを開ける早川・たか子

→目つきが変わる松木・畑野

→と、そこに帰ってきて、部屋(1階)に入ろうと鍵を取り出す浜田

→(早川部屋前の外階段が、浜田部屋前に直に下りることができる構造)

→下りてくる早川・たか子と、ドアを開けようとする浜田

→そこに、松木が駆け寄り、浜田にナイフを見せての訊問

→外階段途中で、この状況を見つめそそくさと下りて歩いて行く早川・たか子

→そこを、2人とすれ違いに松木のもとへ駆け寄る畑野

このような内容なのですが、「こんなのありか」と思う反面、2人がが捕まるのか否かドキドキする効果を生み、運のいい2人だなと思う場面でもあります。そして、この場面を見終わったとき、これからの展開に期待をもつ効果も生み出しています。今となっては古い技法とも思われがちですが、天野利彦監督がドンと構えて、余裕ある演出に専念できているとも見られます。#693 情熱の海 での好調さは、当作でも続いているようです。

 

そして、前作#695 現代母親教育論 との比較でも、恵子の息子への溺愛は無く(邸内での敬一との会話)、夫以外の男性(早川)に寄り添うことで、日頃の不満を晴らすとともに、いずれ来るであろう「老い」から逃げようとする姿を、福田公子が上手く演じています。前作では、正直「気持ち悪い」役柄であったのですが、当作ではそれを払拭する役柄でもあります。平成・令和の近年でしたら、わざわざ旧友の斡旋を受けることなく、自身で盛り場をうろつくか、駅前にでも立っているかと思うのですが、昭和のこの頃はそこまでは「冒険」できないのだろう、今よりは多少はマシかというのが、再放送された現在の見方なのかもしれません。

福田公子の活躍ぶりは、共演者を霞む存在にさせてしまう、芸達者の村田知栄子と共演しても色褪せることなく、#620 ある恐怖の記録 やさしい女 よりも「女性」を演じきったとみて良いでしょう。ちなみに、再放送の週に東映chで放送された、「非情のライセンス・第2シリーズ #115  女一人」でも「女性」を上手く演じています。

wikiでみると、1932年11月22日生まれで放送当時は43歳。「リスト特捜隊」だと、当作が特捜隊での最終出演作となります。これが正しければ、特捜隊初出演とされる特別機動捜査隊(第30回)歪んだ罠 から13年、円熟期の掉尾を飾れたともいえるのではないでしょうか。

 

また前述の、取調室の「ある男」・「ある女」・三船主任・関根の場面も印象深い。

・真摯に告白する「ある女」

・顔を曲げ、左右の三船主任・関根を見ながら動揺する「ある男」

・2人の間にある封筒を、さりげなく取り上げる三船主任

・明後日の方向を見つめながら、瞑想する関根

の場面から、

・取調室を出て、「ある男」を連行する関根と石原

・取調室を出るが、関根たちとは真逆の方向を歩いて行く三船主任

・取調室に残される「ある女」

の場面への繋がりも、また上手い。視聴者からは、いくら「ある女」が真摯な姿勢でも、裁判をやれば実態が明らかになるのにとか、時の流れは非情なのに(特に、ラストの顔のアップが効果的)とか、ラストのその後まで考えてしまうところもあり、なかなか見ごたえがありました。

単純なストーリーでありながら、ラストまで勢いよく引っ張れたのは、脚本・監督・出演者が上手く噛み合ったからともいえ、特捜隊の特徴でもある辻褄が合わない場面が少ないことも一因で、秀作の評価を与えても良いのではと考えます。