コロナ禍のISU。2020年の財務状況は? | siennaのブログ 〜羽生君応援ブログ〜

siennaのブログ 〜羽生君応援ブログ〜

羽生結弦選手の現役時代をリアルタイムで体験できる幸運に心から感謝しつつ、彼のスケートのここが好きあそこが好きと書き連ね、ついでにフィギュアにも詳しくなろうと頑張る欧州住まいのブログ主です。

気がつけば、国際スケート連盟(ISU)の20年(1〜12月)の決算が6月8日付けでアニュアルリポートと共にサイトにアップされていました。

 

過去記事で19年の財務状況をチェックした手前、新型コロナのパンデミック初年度となりISU主催の大会が次々とキャンセルされてしまった20年はどんな数字が出てくるかと、興味津々に待っていたのです。その割にサイト全然チェックしてなかったけど←

 

20年の最終的な数字はもちろん赤字でしたが、まず、把握しておくべきことは、メール投票で承認された20年の予算が10'278'000スイスフラン(フラン)(約12億円)の赤字予算だったということです(注釈中に記述あり)。したがって、20年に確定した赤字4'648'830フラン(約5.5億円)は、想定損失額の半分以下でした。

 

決算書には「20年予算と20年決算の比較」や「19年決算と20年決算の比較」など詳細の注釈が添えられているので、これらを参考にパンデミックがISUの懐にもたらした影響を自分なりにまとめてみると共に、21年決算の見通しについても、今年前半を終えて無観客や観客人数制限の下に開催されたISU主要大会の財政上の影響や、今後ISUが検討するとしているプロジェクトなどが記載されたアニュアルリポートの内容をつまみ食いしつつ簡単に紹介したいと思います。

 

なおブログ主は毎年仕事で地味に決算作業に携わりはしますが、本業というわけではなく、日本語の専門用語その他、間違っていたりする恐れアリアリなので緩く読んで下さいね(冷や汗)。一応、貸借対照表と損益計算書をコピペしますが、コマコマしてるので数字探しなどはリンク先を開いていただいた方がやりやすいでしょう。文中で上げている数字にはこれら決算書上には現れず、注釈テキスト中に分析のために示されているものが多いです。

 

貸借対照表

 

損益計算書

 

 

 

さて、20年と21年(現時点)の大きな違いの1つに、20年はワールドやGPS(一部)とGPFなど主要大会がキャンセルされ、21年はワールド、国別が無観客・人数制限で実施されたという点があります。

 

20年は、キャンセルによる放映権・広告料収入減が主な原因で、営業利益が前年比で1400万フラン(約16億7000万円)の減収となりました。これに対し、キャンセルで浮いた金額もあります。大会開催に対する助成金や賞金負担を合わせた670万フランをはじめ、旅費100万フラン、ディベロップメントプログラム(理事会プロジェクトであるJGPSもこれに含まれる)の縮小・中止等による210万フランなどです。

 

赤字が想定よりも縮小した理由ですが、予算に組み込まれていたGPS/GPF等、20年後半の大会が結局無くなり支出が減った分が、同じく予算に計上されていたけれど流れたディベロップメントプロジェクト分と合わせて890万フランあるので、これが大きな要因の1つとなっています。一方で放映権・広告料収入の減少幅は予算より220万フラン多いだけにとどまっています。

 

それから、20年にキャンセルとなったチャンピオンシップのキャンセル保険が200万フラン下りているのに注目です。あ、やっぱり出たんだね、という感じです(損益計算書中おそらく雑収入Various Incomeに含まれている)。開催地の政府がキャンセルを決定した場合、そうだろうと。ただし、ISUの世界選手権でキャンセルされたのはフィギュアだけでなく、シンクロもショートトラックもなので、モントリオールだけの金額ではないかもしれません(様々なポジションは詳細は分からないものが多い)。

 

その他、19年予算でコロナ危機用に計上された500万フランの引当金の半分に当たる250万フランと、債券為替差損引当金のうち500万フランを実際に取り崩した計750万フラン分がプラスになったのも大きいです(債権為替損は1300万フラン予算を上回りポジションは大きいが、実際には損失が確定していない含み損)。

 

ちなみにISUから所属の各国連盟に対するコロナ危機関連の支援金としては、通常の助成金総額280万フランに加えて総額216万フランを特別支給した他、チャンピオンシップのキャンセルで浮いた賞金を出場予定国連盟にエントリー数に応じて按分したりしています。21年前半に決行されたISU主催大会については、無観客開催でチケット収入を失った開催国連盟に対して損失の埋め合わせも行ったということです。先述の引当金は感染防止衛生対策の他こうした支出を補い損失幅を小さくするために計上されたのでしょうね。

 

最後に今後の運営方針について、スポンサーの獲得・つなぎとめのためのマーケティング戦術や(ファンデータベースの導入など。ファンの特性をデータベース化してスポンサーに提供するんでしょうか?)、プロモーションとしてソーシャルメディアやアプリの活用などが挙げられていますが、フィギュアスケートの特性としての「ショービズ・音楽産業との距離の近さ」も積極活用するという項目があり、その中に、20年に導入のスケーティングアワードのオンライン実施は成功したため今後も継続されるという記述がありました。うーん、何を持って成功と評価したのか分かりませんが(投票数や視聴数だろうけど)、そっち方面に行かなきゃいけないのかなあ。

 

救いはISUが検討中の有望プロジェクトとして「データ分析とAIの活用」が挙げられていることでしょうか。急がば回れ。スポーツとしての魅力を高めるためには、バブリーなアワードよりも、こっち方面に進む方が、最終的には正しくサステナブルな道だと思います。該当部分、訳します。

 

「ISUで検討されているもう1つの有望なプロジェクトが、データ分析と人工知能(AI)の活用だ。スポーツの世界は数値化できる要素が多く、AIの利用には理想的な環境だ。ISUは、スポーツにおけるAIの応用がプラスの影響や能力向上をもたらすと認識しており、これを踏まえて専門家と協議しつつ、審判らが選手のパフォーマンスを評価したり最大限に公正で客観的な決定を下したりできるよう、より向上したツールを提供するためにAIの可能性を探っている。これは同時に、スケーターやコーチに対しても、パフォーマンスを評価・改善し、目標達成に向けた足取りを記録するための新たな測定・分析ツールを提供することにつながる。さらには、様々なプラットフォームを有し、瞬時にイノベーティブな統計データやグラフィックを表示できることから、マルチメディアの視聴者を拡大するという可能性も秘めている」

 

羽生くんが卒論で追求したテーマと重なるプロジェクトの検討、世の中の流れを考えれば当然すぎるし遅すぎるほどです。羽生くんが提言したくなるのも当たり前。ちなみに20年のIT/AIプロジェクト関連支出は約5060万円で、19年の1060万円の4.8倍ほどの増額でした(追記:項目名にもAIなどは見当たらず、ビデオリプレイシステムじゃジャッジングシステムのメンテナンスという名称でした)。21年の予算ではどのくらいの金額が付いたかな。