September in the rain【新アルバム各曲解説】大人でシックな恋愛模様 | 保坂修平のピアノ音楽

保坂修平のピアノ音楽

東京藝術大学楽理科卒業。ジャズピアニスト、作曲家。

2023年12月27日にリリースした保坂修平トリオのアルバム「ボス・サイズ・ナウ」。

アルバム収録の各曲について、CDのライナーノートに書ききれなかったこと。

今日は5曲目の解説です。

 

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5, September in the rain 

 シンプルで小粋なジャズ・スタンダード。数々のシンガーが演奏しているが、初期のビートルズがカバーしていることも有名。インストゥルメンタルではジョージ・シアリングの演奏がクールで素晴らしい。このアルバムではソロ・ピアノによるバースから演奏が始まる。

 

 典型的なジャズ・スタンダードといっていい。AABAの32小節フォルム(僕はテーマアレンジですこし小節を足しているが)、愛らしい(軽い)失恋の歌詞、ブリッジの転調を含めたオーソドックスなコード進行。教科書のように美しい曲だ。

 そして、このシンプルで典型的な形式から、即興演奏を編み出すのがジャズ・ミュージシャンの方法。この方法のもとで、いったいどれだけの演奏がこの世でなされ、永遠に宙に消えていったことか…(遠い目)

 

 僕もジャズ・ミュージシャンのはしくれとして、オーソドックスなスウィングで、オーソドックスな曲を一曲収録したかった。僕はスウィングをとても大切にしているが、決して得意ではない。でも録音の日までたくさん練習し、最大限の集中力で弾いた。僕らしい演奏にはなっていると思う。共演の安田さん、長谷川くんは素晴らしかった。

 

 さて、この曲について一言触れたいのは、この曲が「9月の雨のなかでの恋の思い出」の話ということ。

 ジャズの歌詞においては、春、夏に恋することが多い。そして秋に失恋。冬を孤独に過ごす、このパターンが多い(典型的な「枯葉」参照)。

 本曲の「雨の降る9月の恋」。

 ここに、「大人」で「シック」な、そしてちょっと「控えめな」恋愛模様を感じてしまう。

 それが、いいんだよなあ(笑)。

 

 クルト・ヴァイルのSeptember songという名曲があって、一年を人生に例えている。春は思春期、夏は青春、秋は中年、そして冬。この曲の大意はそうして季節が秋から冬へと向かう、この残りの日々がますます貴重になっていくときに、大切なあなとと過ごしたい、というもの。

 September songとの比較で言うと、9月の恋は、ちょっと大人になってからの恋。「黄昏流星群」的な。

 

 春、夏の甘く激しくカラフルな恋とは少し違う、すこしブラウンな、そしてしっとりとした恋の歌なのではと勝手に思っている。そして、実際には、今は春。昨年の9月の恋を回想するという、悲しい曲なのだが。

 

 

 最後まで、ありがとうございます。

 

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