"りんごが鳴いていた"
ぽこぽこ音がするので
耳をすまして探したら
りんごが鳴いていた
皮は身をお洒落し
へたは冬のバス停だった
丸のまま剥いた
包丁を持つ手 逆の手にも
いつかの甘い昼の笑みと
酸っぱい夜の抗いが匂った
皮は途切れ途切れた
流し台は落陽の歩道になった
バス停まで丘を上ると
芯と恋を真二つにできない私と
十六分割の季節が
種を抱いていたことに気づいた
肌触るりんごを切り分け
駆けた後の息の純度で
鍋に蓋をし火にかけ蒸す
しびしびと音がするので
蓋を持ち上げると
いつかが匂って飛んでいった
霞みをかき混ぜながら
りんごに蓋をして待った
流し台の皮を拾ってかじった
外皮は硬くほろ苦く
内側に十分な実を残していた
冬の飛行機雲のように薄く
軌跡を剥くことはできるだろうか
おやつの鍋に砂糖をふるった
バスはもう行ってしまった
「イツカー」と鳴いてみてから食べた
りんごはじゃれた音を立てて溶けた
"日々を淡く含んだきいろ"
いつも
きいろい花
僕のうまれた日の
少し前に咲くよ
細い樹の
細い枝から
どんな黄色も
見透かすような
春のこどもと
夏のカーテンと
秋の食事と
冬の空気を
淡く含んだ花が咲くよ
僕のうまれた日
冬の光が椅子に座り
扉の取っ手に雪
時計は溶けて
褪せたこはく色
風を受けて暮らす
からだの草を摘み取って
お粥に乗せて食べよう
それから
うまれた日の少し後に
きいろい花を見つけにいこう
地球儀を回そう
恋に渦まく言葉で
僕と君は巡る
太い樹の
太い枝に
乗って見渡すんだ
あちらこちら咲いてる
月と日の花びら
透かして満ちた
僕と君とみんな
僕はうまれた日
季節に近づいていく
ろうそくの灯が
気持ちを照らすんだ
きいろい花は
いろんな愛を見透かすような
日々を淡く含んで咲くよ
おちばかき
夏に、明治神宮の参道で落葉かきの人を見た。
広い参道の真ん中に立ち、身長の二倍はあろうかという長い箒を左右に振りながら進んでいく。
敷石を乱さず、撫でるように美しい型で葉だけをかいていくおじさん。
夏の始まりにも落葉はあり、いつの間にか土に還る。
今日の風と雨は春の始まりのようであった。
山ほど落ちた紅葉した葉は冬の始まりのはずだった。
1日で四季をそれぞれ感じられる日があるのだなあ。
家の庭の盆栽が葉を落とし始めた。
リンゴとショウガをすりおろし、久しぶりにカレーを作った。
何曜日でも構わなくなった。
ストーブは一度付け始めると習慣になる。
熱に当たりすぎたふくらはぎが痒い。
カレンダーをめくるのを忘れていた。
エリックカールの12月は、籠の中の鳥とちょうちょと雪空だった。
雪を見たら泣いてしまうかもと思った。
いさぎわるさ
中華をごちそうになった。
おなかを満たされていく過程にある、とてつもなく大きな感謝と、とめどなく流れる時間を忘れてはならない。
贅沢な海老マヨに尊敬の眼差しを。
ごちそうさまでした。ありがとうございます。
新国立美術館でピカソ展を観た。
満たされた腹をベンチで休ませながら。
女性の横顔が好きだ。
解体された静が動き始める頃に、おなかはおさまり、きっと老いた筆は、観てきた時間から観ることのない時間へ橋を渡すのだろう。
日が暮れた美術館は沖に戻る船のようにやわらかい光。
下高井戸に店を開いたばかりの、僕に似ているという彼のコーヒーをいただきにいった。
笑顔をたやさないこと、好きな時間を耕せること。
おいしいコーヒーはいつも、休息と歩足を与えてくれる。
出会いを大切にしよう。
一言で片付けられないことを、二言三言で巡らせていくことにした。
いさぎわるさに対する挑戦。