"アラブの恋人たち"
北へ向かう列車の中で
アラブの恋人たちと乗り合わせた。
谷川へ差し掛かる頃
太陽は霧の幕に和らぎ
ちらちらと雪が舞い始めた。
アラブの恋人たちは
アラブのことばで話し込んでいたが
雪を見つけると唇を止め
目を輝かせたのち
「ゆき」と儚く発音した。
私は読書を止め
アラブの恋人たちに耳をすまし
車窓から白む里を眺めた。
谷川は関心と同じ速度で深くなり
雪は列車の揺れと木々に合わせて濃くなっていった。
アラブの恋人たちは
アラブのことばで会話を続けていたが
もう「ゆき」とは言わなかった。
男の方の柔らかく浮かぶようなジェスチャーに
女の方が頷き笑みを見せ
アラブの恋人とことばたちは降ったり止んだり笑ったりした。
短いトンネルを幾つか抜けると
肌が張るような風雪が飛び交う終着駅で
アラブの恋人たちは肩越しに消えた。
乗り換えの列車が待っていた。
溶けかけたアイスクリームに見えた。
ホームの雪に足をすくわれながら
私はつるつると乗り込んだ。
アラブの恋人たちと乗り合わせた。
谷川へ差し掛かる頃
太陽は霧の幕に和らぎ
ちらちらと雪が舞い始めた。
アラブの恋人たちは
アラブのことばで話し込んでいたが
雪を見つけると唇を止め
目を輝かせたのち
「ゆき」と儚く発音した。
私は読書を止め
アラブの恋人たちに耳をすまし
車窓から白む里を眺めた。
谷川は関心と同じ速度で深くなり
雪は列車の揺れと木々に合わせて濃くなっていった。
アラブの恋人たちは
アラブのことばで会話を続けていたが
もう「ゆき」とは言わなかった。
男の方の柔らかく浮かぶようなジェスチャーに
女の方が頷き笑みを見せ
アラブの恋人とことばたちは降ったり止んだり笑ったりした。
短いトンネルを幾つか抜けると
肌が張るような風雪が飛び交う終着駅で
アラブの恋人たちは肩越しに消えた。
乗り換えの列車が待っていた。
溶けかけたアイスクリームに見えた。
ホームの雪に足をすくわれながら
私はつるつると乗り込んだ。
"ピアノ"
椅子
そこに
何事も
樹の皮を剥ぐ
画鋲で昨日を留めている
すぐにすぐにすぐにすぐに
お茶着いて
群青色の足音
夜型
靴下の穴を押さえ
協奏曲第五番にしておけや
滅法弱い声よ
何度も
ピアノっていくよ
日曜日
木目調
群青に高まって
消えてしもうた
鍵盤は
続く限りの音色を
たまに虹にしてみせる
遅れてきた毛虫は
蝶になるために果汁ばかり摂るので
秋には机にお花を飾って
お祈りするの
それから
外国の甘いチョコレートを食べる
椅子に持たれ
ピアノを聴いて
たまに書いてる
うそはない
そこに
何事も
樹の皮を剥ぐ
画鋲で昨日を留めている
すぐにすぐにすぐにすぐに
お茶着いて
群青色の足音
夜型
靴下の穴を押さえ
協奏曲第五番にしておけや
滅法弱い声よ
何度も
ピアノっていくよ
日曜日
木目調
群青に高まって
消えてしもうた
鍵盤は
続く限りの音色を
たまに虹にしてみせる
遅れてきた毛虫は
蝶になるために果汁ばかり摂るので
秋には机にお花を飾って
お祈りするの
それから
外国の甘いチョコレートを食べる
椅子に持たれ
ピアノを聴いて
たまに書いてる
うそはない