ウクライナ南部のダム決壊、戦時の情報操作の凄まじさ、情報素人の日本人 | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 6月6日、南部ヘルソン州のドニプロ川にあるカホウカ水力発電所のダムが破壊され、大規模な洪水が発生した。そのため、1万6千人の住民が避難した。ウクライナはロシアが破壊したと主張し、ロシア側はウクライナによるテロ工作だとして、お互いに相手に責任をなすりつけている。真実はまだ分からない。

 ロシアにとっても、ウクライナにとっても、ダム決壊によるマイナスの影響は大きい。しかし、戦争であるから、軍事施設のみならず、インフラの攻撃が行われるのは想定しておかなければならない。

 ロシアが破壊したとという主張が西側諸国では支配的であり、また、そのほうが世論受けもよいが、本当のところは分からない。情報の専門家なら「分からない」と応えるはずだ。

 洪水で水没した地域が拡大したことは、ウクライナ軍が南部のヘルソン州、ザポリージャ州に攻め込むのを困難にする。そのため、ロシア軍が意図的にダムを爆破したという解説が出てくるわけである。

 一方、ロシアが併合したクリミア半島へロシア占領地の南部から水を送るのがむずかしくなる。クリミアは水資源の乏しい半島である。決壊したダムはクリミア半島の水瓶であり、その点を考えると、ウクライナによるテロ工作だという主張の補強になりうるだろう。

 また、ロシア軍が占領しているザポリージャ原発の冷却水もこのダムから供給されており、そこにも影響を及ぼす可能性がある。万が一、原発の稼働に支障を来すということになれば、ウクライナにも占領軍のロシアにも喜ばしいことではない。

 さらには、広大な農地が冠水しており、南部ウクライナの肥沃な大地が失われることになる。ドニプロ川右岸のみでも1万ヘクタールが被害を受けており、ロシアが支配する左岸も加えると、想像を絶する農業被害となる。それは、世界の食糧供給にも深刻な影響を与えるであろう。

また、洪水で地雷が流出しており、今後、地雷除去に気の遠くなるような努力が必要になる。

 このように考えると、ウクライナ、ロシア双方にとってダムの破壊は好ましいことではなく、老朽化などによる単なる事故であった可能性も捨てきれない。

 嘘をつくのはロシアで、ウクライナやアメリカやイギリスの言うことが100%正しいなどと信じている無邪気な国民は日本人だけである。戦争は、情報戦であり、とくにSNSが発達した現在では、情報を制するものが勝利する。嘘は当然の手段である。

 アングロサクソンは、すぐれた諜報能力を有しているが、国益を守るために諜報活動の成果を活用するときには、なりふり構わぬ傍若無人ぶりを発揮する。当然、嘘もつきたいだけつき、しかも巧妙に真実であるかのように見せかけるのが得意である。嘘という点では、KGB・FSBと同じであるが、メディアを利用しての宣伝工作ではロシア以上である。

 ウクライナ戦争の展開を見ていると、今のロシアのFSBの能力は、ソ連時代のKGB以下になっているのではないかと思う。嘘のつき方もあまりにも稚拙である。

 それに比べて、英米の諜報能力は格段に向上しているように思う。つまり、ロシア以上に嘘のつき方が上手くなっているということである。日本人も、もう少し嘘の手法を学んだほうがよいが、インテリジェンスの重要性を理解しない日本のポピュリスト・マスコミに囲まれている現状では、それは無理であろう。

 東アジアで朝鮮半島や台湾で武力衝突が起こるような事態に対して、軍事以前に、情報戦で日本は敗退するのではなかろうか。