ウクライナ戦争が生んだイタリア右派政権 | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 ウクライナ戦争は、民主主義国の政治にも大きな影響を及ぼしている。

9月25日、イタリアで総選挙が行われ、事前の予想通り、中道右派が勝利し、政権に就くことが確実になった。ジョルジャ・メローニが率いる「イタリアの同胞(Fratelli d’Italia, FdI)」、サルビーニ前内相が党首の「同盟(Lega)」、ベルルスコーニ元首相がトップの「フォルツァ・イタリア(Forza d‘Italia, FI)」などの中道右派連合政権ができるだろう。そして、得票率でトップのFdI党首のメローニがイタリア初の女性首相になる可能性がある。

 下院(定数400議席)でFdIは26.02%、同盟が8.78%、FIが8.12%を得票しており、中道右派連合全体では約43.83%となる。また、上院(定数200議席)でも、中道右派連合は44%の票を獲得した。

 中道右派の民主党や、左派の五つ星運動は振るわなかった。

 メローニは、1977年1月生まれの45歳の政治家で、若い頃にネオ・ファシスト党の「イタリア社会運動(MSI)」の青年組織「青年戦線」に参加した。その後、MSIが改変された国民同盟(AN)でも頭角を現し、2006年に29歳で下院議員となった。2007年、AN とFIが合同して、「自由の人民(PdL)」が結成され、2008年、31歳の若さで、第4次ベルルスコーニ内閣で青年政策を担当する無任所大臣になっている。

 2012年にベルルスコーニの汚職問題でPdLの求心力が失われると、メローニはFdIを結党した。2016年にはローマ市長選に出馬したが、敗北している。

 2018年の総選挙では、党勢を拡大したが、五つ星運動と同盟との連立政権には参加せず、閣外協力の立場をとった。2019年に、五つ星運動と民主党の左派連合政権が成立すると、野党に回り、移民政策などについて政権を批判した。

 ムッソリーニを敬愛するネオ・ファシストが率いる政党なぜ第一党にまで躍進したのだろうか。答えは、ウクライナ戦争である。

 ロシアがウクライナに侵攻した2月14日以来、光熱費、小麦粉など諸物価が高騰し、イタリア人の生活を直撃している。イタリアには原発はなく、ロシアからの安価な天然ガスに大幅に依存してきた。

 発電電力量の内訳(2016年)を見ると、44%が天然ガス、15%が水力、23%が水力以外の再生可能エネルギー(太陽光8%、風力6%、地熱2%、バイオマス・破棄物ガス7%)となっている。この数字を見れば、経済制裁によってロシアからの天然ガスの供給が途絶えたり、減少したりすると、電力供給が危うくなることがよく分かる。

 また、ガス代金も高騰しており、主婦が家庭で料理をするときにも、それを気にかけなければならないような状況である。その原因はウクライナ戦争、そして、それに伴う経済制裁にある。しかも、戦争が長引き、事態は改善するどころか、悪化している。なぜ、ウクライナのために自分たちが苦しまなければならないのかという怨嗟の声が聞こえてきている。

 その怒りと不満をに対応し、イタリアの国籍を優先する姿勢を鮮明にしたのがメローニ率いるFdIであり、支持率をぐんぐんと伸ばしていったのである。

 連立のパートナーであるサルビーニやベルルスコーニは、プーチンとは親しい間柄であり、経済制裁には懐疑的である。

 では、物価高騰に対して、どのような手を打つのか、現実的で実効性のある政策があるのか。前途には多くの困難が待っている。