感染症の危機管理:新型インフルエンザ対応の教訓(20)ワクチンの発注 | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 新型コロナウイルスについては、一日も早い特効薬やワクチンの開発が望まれる。SARSやMERSについてはワクチン開発に成功しなかったが、今回はどうか。特効薬については、既存の抗HIV薬やインフルエンザ治療薬が効くケースが報告されている。

 新型インフルエンザのときは、厚労大臣として、国民に必要なだけのワクチンをどう確保するかが大きな課題であった。

 ワクチンの輸入については、海外メーカーであるイギリスのGSK(グラクソスミスクライン),スイスのノバルティスの2社と交渉を進めていった。2009年8月27日時点で、国産ワクチンの生産量は1800万人分と見積もっていたが、ノバルティスからの輸入量は1250万人分が上限であった。

 そこで、その合計で2050万人分である。厚生労働省の担当官は、GSKからは4000万人分の輸入を提案したが、それでは、総計6050万人分にしかならない。私は、本来は国民全員に行き渡るべきだと考えていたので、せめてその半分以上、つまり6500万人分くらいは確保すべきだと強い指示を出した。

 大阪から直接何度も担当局長に電話し、大臣判断でGSK分を700万人分増やして4700万人分とすることに決めた。これで6750万人分である。輸入ワクチンの安全性について問題視する意見もあったが、ワクチン不足こそ当時の最大の問題であり、国民の不安の的であった。

 秋から冬にかけて、ワクチンが足りないという苦情が各地の医療機関から寄せられ、また乳幼児を持つ親からの苦情も相次いだ。年が明けて2010年になると、新型インフルエンザの流行が下火になり、ワクチンも余りぎみになったが、2009年8月当時の状況を考えれば、私の判断は間違っていなかったと思う。

 ワクチン準備の過剰なよりは不足こそが、国民の不安感を増幅させることになるからである。河村官房長官とも相談して、もし余れば発展途上国に援助品として渡すことを検討することにしたのである。

 このように着実にインフルエンザ対策を進めていったが、8月30日に、予想通り、自民党敗北、政権交代という結果になってしまった。しかし、厚生労働大臣の職を辞するまでは、公務をきちんと遂行していくのみである。インフルエンザ対策も、その重要な柱である。

 ワクチン接種の優先順位、ワクチンの海外からの輸入量については、ほぼ方針を固めることができたので、あとは新政権がその方針を実行に移すのみである。

 しかし、政権交代をめぐる様々な混乱があり、しかも長妻新大臣の興味は年金記録問題にしかなく、医療問題については全くの素人という状態であり、それに乗じて厚生労働省の旧悪が復活してきた。

 五月蠅い大臣がいなくなり、無知な新大臣が来たとなっては、役人の思う壺である。まさにタイミングの悪いときに政権交代となったのである。