問題だらけのトランプの外交政策:マティス国防長官が辞任した理由 | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 トランプ大統領の指示によって、米軍はイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したが、そのため中東戦争勃発かという危機一髪の状況にまで陥った。トランプが展開する首尾一貫しない政策が、むしろ世界を戦争の危機に追いやっている。イラン側が自制したため、今回は大事に至らなくて済んだが、このような無能な指導者が世界一の大国の指導者であることは問題である。

 マティス国防長官は、2019年1月1日付けで辞任したが、マティスは、トランプ宛の辞任表明の書簡を公表し、「アメリカは自由世界で不可欠の存在としてとどまるが、強い同盟を維持し、同盟国に敬意を見せなければ、同盟を守ることができない」とトランプへの書簡に記している。これは、米軍のシリアからの撤退に反対することを意味する。

 彼は、軍人であり、しかも最も危険な任務に当たる海兵隊の大将という経験から、戦争がいかに悲惨であるかを知り尽くしており、それだけに外交的解決の重要性を強調しつづけてきたのである。

 マティスは、書簡に「我が軍は紛争において勝利し、米国の世界的な影響力を維持するため、必要な能力を維持し続ける」と書いた。その「必要な能力」を持っていながら、大統領の独断と偏見で紛争地から撤退することは世界の平和にもアメリカの国益にもならないと、彼は判断したのである。

 マティスは、イランとの核合意からの離脱、米韓合同軍事演習の中止、同盟国への負担増要求、ロシアへの接近などについて、トランプの政策には疑問を呈してきたが、シリアからの米軍撤退に至っては、もう一緒に仕事をすることは不可能だと判断したのである。1年前の話である。

 シリアからの米軍撤退が中東を不安定にすることを、トランプという「小学校5〜6年程度の理解力」(マティスのコメント)では分かるはずはないのである。

 シリアにおけるアメリカのプレゼンスは低下し、その空白に乗じてロシアやイランの影響力が増す。マティスが「抗議の辞任」を決意したのは当然である。そして、事態はマティスが懸念した通りになっている。

 しかも、アフガニスタンからも、現在展開している1万4,000人の米軍を半減させるべく、タリバンと交渉しようとしている。中村哲医師殺害に見るように、駐留米軍が減れば、タリバンなどのテロ集団の活動が増え、アフガニスタンのみならず、世界に不安定要因を拡散する危険性がある。

 「アメリカは中東の警察官になりたいのか。他人を守るのに貴重な命や何兆ドルを費やしても何も得るものはない」とトランプは言うが、中東への関与はアメリカの国益にもかなうものである。

 マティスが国防長官だったなら、ソレイマニ司令官殺害には絶対に反対したであろう。