政治家の判断ミス:イギリスは、EU離脱をなぜ国民投票で決めたのか | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 EU離脱をめぐる2016年6月の国民投票は、政治家の無責任な思い込みや誤算の連続によって、行われたものである。最大の責任者はキャメロン前首相である。

 当時保守党は親EUの自由民主党と連立を組んでいたが、保守党内の離脱派を懐柔させるために、残留派のキャメロン首相は国民投票で決めると言ってしまった。また、離脱の可能性を見せておかないと、反EUの有権者がEU離脱を唱えるイギリス独立党(UKIP)支持に流れる危険性があった。

 そこで、キャメロンは、2015年の総選挙の公約に国民投票実施を盛り込んだのである。それは、総選挙で保守党が単独過半数を得ることはなく、連立政権が続くと予想したからである。保守党の公約がどうであれ、連立のパートナーの自民党が国民投票を阻止するので国民投票の実施はありえないと高をくくっていた。

 ところが、選挙で保守党が単独過半数を確保してしまった。ただ、たとえ国民投票を実施しても、承認されるはずはないとキャメロンは考えたのである。

 面白半分に離脱に投票した有権者も、離脱はありえないから「遊んでやれ」という感覚だった。こうして、離脱となったときの不利益など真剣に議論もされないまま、国民投票に突入したのである。

 実は、離脱強硬派のボリス・ジョンソンも、ほとんどの国民同様にキャメロンが総選挙で負けると予想し、その責任を追及して後継党首、つまり首相の座を獲得することを狙ったのである。しかし、保守党が勝って単独過半数を獲得したため、党首辞任はありえなくなった。

 国民投票では、ボリスも離脱が過半数になるとは思わなかったので、親EU派のキャメロンに対抗するために、反EU路線を鮮明にしたのである。彼もまた、「まさか勝つとは!?」と国民投票の結果に驚愕した。まさに、首相の座を狙うことしか念頭になかったのである。

 国民投票の結果、52%対48%で離脱組に敗れ、キャメロンは辞任する。ボリスは後継党首に立候補する予定だったが、EU離脱を過激に主張しすぎたため、国の分裂を恐れる離脱派仲間の反感を買ってしまった。これもボリスには誤算であった。

 つまり、①総選挙で保守党は単独過半数をとれない、②国民投票は実施されない、③実施しても否決される、④ポスト・キャメロンに立候補するという、キャメロンとボリスの4つの誤算が重なって、メイ首相が誕生したのである。

 彼女は、「離脱が国民の意思なので離脱の道を進む」という硬直的な方針を堅持したため、政策選択の幅が狭められてしまった。

 政治指導者の判断が間違うと、このような悲劇が生まれるのである。日本も他山の石とすべきである。