昨年は、4月に板門店で、9月に平壌で南北首脳会談が開かれた。
昨年6月のシンガポールでの歴史的な米朝首脳会談の後、世界が期待したような成果は現れていない。北朝鮮の非核化は進んでおらず、そのため北朝鮮に対する制裁解除も行われないままである。
金正恩は、確かにミサイル発射実験は行わなくなったが、アメリカが要求するCVID(完全、検証可能、非可逆的な非核化)は実現していない。これでは、制裁解除は不可能であり、アメリカは国連加盟国に制裁の継続を要請している。
北朝鮮は、米朝首脳会談というカードを切ったのに、何らの見返りもなく、失望している。中国やロシアは、制裁を実質的に解除する動きを見せており、アメリカと対決する姿勢を示している。
文在寅としては、アメリカと北朝鮮の仲介役を果たすことを狙っているが、仲介役以前の問題として、南北間の約束もまだ履行できていない状況である。
第二回目の南北首脳会談が行われた平壌では、大量動員された市民が文在寅大統領夫妻を熱烈に歓迎し、統一旗を振り、「祖国統一」を叫んだ。民族統一を願う気持ちはよく分かるが、それは容易には実現しそうにない。
朝鮮半島の分断は、ドイツ、ベトナムと同様に、東西冷戦の産物である。
ドイツは、ベルリンの壁崩壊という東西冷戦の終結を、ヘルムート・コール首相が最大限に使って実現させた。テルシーク首相補佐官と私は懇意にしていたが、ボンの首相官邸や自宅で会ったときに、モスクワに何度も行って統一の準備をしたことを教えてもらった。ドイツのケースは、ソ連邦の敗北がもたらしたものである。
ベトナム統一は、逆に北ベトナムが南ベトナムとアメリカに勝利したことにより実現したものである。アメリカがベトナム戦争に疲れ切り、国内の厭戦気分もあって、ベトナムから手を引いたからである。
朝鮮半島は、このいずれのケースとも異なっている。韓国の同盟国、アメリカは強力であり、また北朝鮮を支援する中国やロシアも弱体化するどころか強くなっている。
中国は、GDPで世界第二の大国となり、いまや世界の覇権をアメリカと競っている。ロシアは、ソ連邦の崩壊から立ち直り、プーチンの指導の下、クリミア併合に見られるように過去の大国を復興させる道を歩んでいる。
しかも、この三つの大国のいずれも、現状では朝鮮半島の統一を望んではいない。アメリは韓国による統一、中露は北朝鮮による統一を望んでおり、その両者の妥協が困難である以上、現状維持というのがベストなのである。
ナショナリズムや民族至上主義(エスノセントリズム)の呪縛は強いが、一民族一国家である必要はない。自由こそ最大の価値である。