これまで、歴史資料に基づいて、戦前日本で在日朝鮮人に選挙権も被選挙権もあった事実を述べてきた。
昨日のブログの写真資料(2)に掲げた記事に詳しいが、1930年1月31日に内務省は「朝鮮文字(ハングル)」での投票を有効とした。
しかし、その後、在日朝鮮人のリーダーたちが、「候補者の名前を朝鮮語の発音通り書いた場合も有効と認めるか否か」と疑問を呈してきた。
朝鮮語は日本語に較べて母音、子音とも数が多いため、日本の仮名に対しても、ハングルでの表記法が何通りもある上に、これに朝鮮音表記まで加えたら何十通りにもなる。これでは「候補者の識別を極めて困難とする」ので、内務省は、朝鮮音表記は認めず、日本語の発音に従ったハングルのみを認めることを決定している。
ハングルでの投票を認めたものの、現場の混乱を念頭に置いて、内務省は「日本語の発音に従ったハングル」のみを有効としたのである。{『福岡日日新聞』(1930年2月5日)}。
新聞は続けて記す。「当局は、この解釈は朝鮮文字を有効とした其の趣旨には反するが、事実上止むを得ないとして居る、尚ほ内務省では立候補届締め切りの日、十数通りの諺文(ハングル)で書き分けた対照表を各開票所に配布し、且つ出来得る限り朝鮮文字を解する人を嘱託として開票に立合わしむる」。
以上の通達に従うと、朝鮮人有権者が父の名前を朝鮮風に発音して、そのまま投票用紙に書けば無効となる。そこで、候補者である父のほうから、日本語の発音によるハングル表記を選挙ビラに明記したのである。朝鮮人有権者は、そのポスターのハングルのルビを書き写せば済む。父としては、貴重な一票を無効にしなくて済む努力をしたまでである。
これが父の選挙ビラにハングルのルビがふってある理由である。今の日本では、ハングルで候補者名を書いても、もちろん無効である。