国際政治学講義㊶:(4)20世紀の意味 ③ナショナリズム・・❸                 | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 企業が国境を越えて活動するとき、主権国家の枠はない。トランプ大統領が発動するような保護貿易政策は、企業にとっては障害となる。その意味で、アメリカ第一主義のようなナショナリズムを排除しようという動きが、企業の側から出てくる。

 6月15日、アメリカが総額500億ドルにのぼる中国産品に対して25%の関税を課すことを決めたが、中国は同額のアメリカ産品に対して同率の報復関税を課すことを決めた。こうして、米中貿易戦争という由々しき事態に至っている。両国の多くの企業にとっては、恩恵よりも損害のほうが大きい。

 まさに主権国家の横暴さを感じさせる出来事であるが、長期的には経済のグローバル化は国民国家の死につながっていく。ヒト、モノ、カネ、情報は国境を越えて自由に移動する。

 廉価な労働力を求めて、資本が移動し、工場が移っていく。近代国民国家は、領土、つまり一定の空間と、国民、すなわちそこに定住する人口の上に成立していた。しかし、多国籍企業には領土の制約もなければ、調達する労働力の国籍の制約もない。

 さらには、近代国家の中央政府は、市民の日常生活の問題に対応するにはあまりにも巨大になりすぎているとともに、地球規模の問題の解決にはあまりにも非力である。今や、ナショナリズムの超克こそが必要なのである。

 ところが、このような世界経済の動きを逆行させようとしているのが、トランプ政権である。自由な労働力移動を、移民や難民の排斥、メキシコ国境における壁の建設などで妨げようとしている。また、保護関税によって、自由な企業の活動を阻害している。

 現代は、情報や知識が権力の源泉になる時代である。正確かつ迅速な情報、広汎かつ深淵な知識が影響力に転化し、それがパワーとなる。そのような情報社会では、主権国家や企業よりもさらに細分化された個人こそが、パワーゲームの主人公となる。そこでは、ピラミッド型のヒエラルキーではなく、多元的なネットワークが力を発揮する。

 アメリカ第一主義のようなナショナリズムは、多元的なネットワークを寸断させようとする動きだと言ってもよい。