国際政治学講義⑭:(3)世界破局のシナリオ ⑤ | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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(5)国際経済システムの破綻

 

 第二次大戦の原因の一つとして考えられるのが、1929年のウォール街の株価大暴落に端を発する世界恐慌である。これに対応するために、保護貿易主義やブロック経済化が進んで行き、それが戦争の遠因となったと考えられている。 

 戦後も1987年10月19日の株価の大暴落(ブラック・マンデー)、2008年9月15日のリーマン・ブラザーズの破綻による株価の暴落(リーマン・ショック)と、株式市場に大混乱を来す出来事が生じている。

 これらは、株式市場や金融機関の健全性に問題を投げかけ、資本主義の未来に暗い影を落とした事件であった。1929年の大恐慌を引き金にして、ブロック経済化が進み、ドイツやイタリアや日本で軍国主義が跋扈し、戦争への道を歩んでいったことを忘れてはならない。

その反省から、戦後の国際経済システムは、自由貿易を推進するためにGATT(今はWTOに改組)を、また通貨システムを安定化させるためにIMFを創設した。その成果は着実に上がってきているが、その過程で様々な問題にも逢着してきた。

 第一の問題は、経常収支の不均衡(インバランス)である。2017年の統計によると、黒字国・黒字額は、上から順に①ドイツ2965.9億ドル、②日本1954.4億ドル、③中国1648.9億ドルである。逆に、赤字国・赤字額は①アメリカ4662.5億ドル、②イギリス1067.4億ドル、③インド512.1億ドルである。

 このような統計数字を念頭に、トランプ大統領は保護貿易主義的な政策を強力に展開している。鉄鋼やアルミ製品の輸入に、それぞれ25%、10%の関税を課すなど、「アメリカ第一主義」を推進している。またTPPからも離脱した。自由貿易の拡大によって世界は繁栄を享受してきた。これに逆行して保護主義が蔓延すると、世界経済の発展を阻害することになる。

 ドルを基軸通貨とする国際通貨システムについては、1971年に固定相場制から変動相場制に移行したが、その後も、何度か通貨危機(自国通貨の暴落)が起こっている。たとえば、1992~93年には通貨統合を目指す欧州で、94~95年にはメキシコで、97~98年にはアジアで、98年にはロシアで、99年にはブラジルで深刻な事態になっている。

 今日でも、アメリカの利上げの影響で、アルゼンチン、トルコ、メキシコ、ロシア、フィリピン、南アフリカなどで通貨危機の可能性が高まっている。公的債務を外貨建てし、また海外投資家に依存すると、資金引き上げによって、通貨の大幅な下落を招くからである。

 物、金、人、情報が国境を越えて移動する今日、変動相場制下で国際通貨システムの安定を図るのは容易ではない。