国際政治学講義⑧:(2)国際政治のactors ③ | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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(4)多国籍企業

 企業は、国境を越えて経済活動を展開する。諸外国に、その国の国籍を持つ現地法人を子会社として保有し、世界大に活動する企業を、多国籍企業(multi-national corporation:MNC、multinational enterprise, transnational enterprise)と呼ぶ。

 よく知られている例では、コーヒーのネスレ、石油のロイヤル・ダッチ・シェルやエクソン・モービル、食品・日用品のユニリーバなどがある。各経済分野で世界をリードする企業は、ほとんどがMNCであると言ってもよい。

 第二次大戦後、アメリカ企業は海外への直接投資を増やし、各地に生産拠点や販売拠点を現地法人の形で設立していった。ジェネラル・モーターズ(GM)のような自動車メーカーが、その例である。

 今日、日米欧の自動車メーカーはいずれもMNC化しており、日本車と言っても生産地がタイであったり、メキシコであったりする。したがって、貿易統計上も国別の管理、つまり主権国家を単位とした発想では実態が把握できないことになる。

 トランプ大統領が、「国境税」という脅しをもって、日本のメーカーに対してアメリカに工場を作れと要求しているのは、国内に雇用の機会を増やすためである。それは、支持層である白人労働者に向けたアピールである。

 世界経済のグローバリゼーションというとき、このMNCの活動の拡大によるところが大きい。企業は、人件費や材料費、地代などが廉価な地点に生産拠点を移していく。東南アジア諸国の工業団地を視察すると、MNCにとって魅力のある地点が、時代とともに変わっていくのがよく分かる。

 日本企業の例として、地下足袋のメーカーである力王の海外進出の歴史を見ると、台湾(1968年創業)、韓国(1973年創業、1984年閉鎖)、フィリピン(1979年創業)、中国(1982年創業、2014年閉鎖)、インドネシア(1999年創業)となっており、人件費の高騰などの理由があるのであろう、韓国や中国からは撤退している。

 第二次世界大戦の原因の一つは、世界経済のブロック化にあった。今日のように、MNCが世界経済に大きな比重を占めるようになると、自由貿易の拡大は不可避であり、それは保護貿易主義に対する歯止めとなる。

  物、金、人、情報が国境を越えて移動する今日の世界では、従来の主権国家の枠組みでは捉えきれない様々なアクターが活躍しており、MNCもその重要な一員である。そして、国家間関係だけ見ていると見逃してしまう点として、MNCの活動が世界各国の相互依存関係を強化している事実がある。