忘れられた画家たち(1) | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 地元出身の画家エティエンヌ・テルス(Etienne Terrus、1857~1922年)の作品の6割以上が贋作であることが判明したエルヌ(フランス南部のペルピニャン地方)の美術館。その後の報道を読むと、このような財政難の地方の美術館には専門知識のある学芸員もおらず、贋作のチェックも難しいという。

 美術館から鑑定を依頼された専門家は、作家が死んだ後の1950年代後半に建設された城塔が描かれていたり、手袋で触ると作家のサインが消え、その下に別人のサインが出てきたりと、すぐに偽物であることを見破ったという。

 ルノワールやピカソといった大作家の作品は、偽造しても厳しいチェックにあって見破られる。しかし、あまり有名でない作家の作品を地方の美術館に売るときは、容易に騙すことができる。蚤の市で5ユーロ(650円)で買ってきた同時代のものの上に油彩を施せば、キャンバスが古いので本物のだと思われて、3000ユーロ(40万円)で売れるという。

 ところで、テルスはフォービズム(野獣派)の先駆者とも言われ、マチスとも親交があった。また友人の彫刻家のマイヨールがパリでの個展を薦めたが、拒否して故郷のエルヌに帰ってしまった。そして、この地で風景画などを描き、生涯を終えた画家であり、その全体像は美術史家にもまだ不明だという。

 私は、フォービズムが好きで、その旗手であるマチスの絵は、小学生の頃から真似て描くのが好きだった。それだけに、テルスの贋作の話に興味が引かれたのである。

 野獣派の画家としては、マチスの他、ルオー、マルケ、ヴラマンク、ヴァン・ドンゲン、デュフィ、ドランなどがいる。彼らの展覧会にはよく足を運ぶが、とくに佐伯祐三や里見勝蔵が師事したヴラマンクの作品は数多く観ている。

 フォービズム研究を進めていると、テルス以外にも、日本では忘れられた画家がいることが分かる。たとえば、アンドレ=デュノワイエ・ド・スゴンザック(André Dunoyer de Segonzac、1884~1974)である。

 1950年の『みづゑ』(538、8月号)には、大久保泰の「スゴンザック」という解説が図版とともに掲載されている。同年発行の『別冊第二集ATELIER』の「現代絵画への発展、セザンヌ以後」という論文には、「パリ派」の1人として、ドラン、マチス、ピカソ、ブラック、ボナールらとともに取り上げられている(編者は大久保泰)。さらに、1952年1月号の『美術手帖』にも、大河内信敬の「フォーヴの揺籃、ヴラマンク、ドラン、スゴンザック」という論文が掲載されている。

 また、1979年には、久留米、東京、仙台でスゴンザック展が開催されている。しかし、その後、スゴンザックの名前は日本では忘れられてしまったし、彼の作品を収蔵している日本の美術館があるかどうかも分からない。

 彼の作品を扱う画廊がいなかったのだろうか。謎解きをしたくなる。