官僚の責任意識:社会保険庁の年金記録問題の教訓をいかせ。 | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 私は厚労大臣として、年金記録問題の解決に努力した。政権の屋台骨を揺るがすような大問題の背景には、社会保険庁の資料管理の杜撰さがあった。私が驚愕した例を以下に挙げる。詳細は、拙著『厚生労働省戦記』(中央公論新社)を参照してほしいが、残念ながら絶版となってしまっている。

 厚労省も財務省も、年金記録問題から何の教訓も得ていないのであろうか。正確なデータこそが行政の基礎であり、それが無ければ行政は国民に信頼されない。

 以下の文章(私の回想録)を読めば、最近の厚労省の裁量労働制に関する資料管理との相似点がよく分かるであろう。

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 社会保険庁という組織は、政治家が大方針を決め、役人はそれを実行するために全力をあげるという近代官僚制の基本すら分かっていない所であった。私が大臣に就任したから数ヶ月は、サボタージュ、隠蔽体質、国民ではなく組織を守ることが第一、コスト感覚の欠如といった悪弊を無反省にまだ続けているような状況であった。

 そこで、与謝野官房長官に相談して、大臣キャビネのような組織を作り、問題に取り組もうと考えた。これは、大臣直属の組織で、厚労省や社会保険庁に批判的な専門家も入れた強力な機関である。

 私が、その考えを直ちに実行すべきだと実感したのが、年金記録が台帳の形で保管されている倉庫を視察したときである。この埼玉県にある民間の倉庫には、「旧台帳」が保管されている。旧台帳とは、1957年までの厚生年金の記録で、社会保険庁のコンピューターに入力されている記録の原本である。数は約1365万件である。

 2008年1月16日、この倉庫を視察したが、中に入ってまず目に入ったのが、約4300個の段ボールである。この中に旧台帳が都道府県別に年金番号に基づいて整理されているはずである。ところが、約6万件分は、職員が利用した後に基の位置に戻さずに、別の箱に保管していた。

 少し説明すると、コンピューター上の記録について質問や疑義が呈されると、職員は原本に当たって調べる必要が出てくる。そこで、全国各地の社会保険庁職員がこの埼玉の倉庫に出張してきて、調べるべき原本を段ボール箱から引き出してきてチェックをするのである。ところが、その作業が終わったら、元の場所に戻さずに、放っておいた記録が積もり積もって6万件にもなったというのである。

 実にひどい話である。こんな職業倫理に欠けた職場が他にあるだろうか。直ちに元の位置に戻すべきである。そうしないと、次の調査に来る者が、必要な原本を探し出せず、そもそも原本が存在しているのか否かも分からなくなってしまう。

 このようないい加減な仕事ぶりが、まさに社会保険庁の積年の病弊なのであった。

 そこで私は、この6万件を元に戻すとともに、もっと効率よく検索できるシステムを考えるように、社会保険庁の担当官に指示した。