私の読書ノート(12) | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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真野俊樹 『医療危機—高齢社会とイノベーション』(中公新書、2017年)

 

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 日本の国民医療費は、2015年度に41兆5千億円にのぼり、GDPの11.2%に当たる。高齢化・長寿化はさらなる医療費増をもたらす。国の予算規模が約100兆円であることを考えると、その高額さが再認識できる。

 厳しい財政制約の下、国民皆保険制度を維持するにはどうすればよいのか。著者は、アメリカ、インド、シンガポール、ドバイ、スイス、エストニアなど諸外国の実情を紹介しながら、日本での改革の方向性を示そうとしている。

 アメリカについては、オバマケア以前には公的保険のカバーが少ないことが強調されてきたが、医療機関への支払い方式改革、CCRC(介護つき高齢者生活共同体)、ICTの活用、IHN(広域医療圏の医療統合体)などのイノベーションが実行されている。目的は、「よい質、安いコスト、よいアクセス」の併存である。

 因みに、トランプ大統領はオバマケアの撤廃を主張しているが、規制緩和による保険者間の競争を促進したり、消費者に医療費の明示を義務づけたり、州を越えて医療保険販売を自由化させたりと、共和党的な一定の改革方針を示している。

 医療の世界のイノベーションの実態については、CT、MRI、PET、低侵襲手術のように医療費の高額化をもたらすビッグチケット技術もあれば、血液自動分析装置、ジェネリック医薬品のように医療費を減少させるリトルチケット技術もある。また、技術のみならず、トヨタの「かんばん方式」の採用、メディカルスタッフの活用といったプロセスイノベーションもある。

 さらに、インドのような新興国で「安さ」を売り物にしたり、エストニアのような小国でICTを全面的に活用したり、学ぶべき例が多々ある。

 医療改革は医師だけに求められているのではなく、患者の主体的な努力が不可欠であることを著者は強調する。たとえば、救急車の利用回数や大病院の外来回数を減らす、かかりつけ医を持つ、ホスピスなど終末期医療を検討するなどである。まさに、「長生きがリスクになってしまったことが問題」なのである。

 もちろん医師のほうにも、改革努力が必要である。専門医のみならず、家庭医、総合医が重要になってくる。私は厚生労働大臣のとき、その点での改革を促した。また、チーム医療もますます重みを増してくる。医療改革は全国民の課題である。

 本書は、そのための有益な視点を提供している。