私の読書ノート(10) | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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Eduardo Porter  ‘Why low-skilled migrant are needed’(“New York Times” August 11, 2017)

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 「アメリカファースト」を掲げるトランプ大統領は、海外からの移民がアメリカ人の職を奪っている、だから特に不法移民は追放すべきだと声を高めている。メキシコとの国境に壁を作るという政策も堅持している。そのような主張は、ラストベルト(さびついた工業地帯)などの白人労働者層に支持されている。

 ここで紹介する論文の著者は、トランプのそのような見解に正面から反論している。

 アメリカでは戦後のベビーブーマー世代が引退時期を迎えている。そこで、著者は2014~2024年に、15の職業のうち、介護、アパート管理人、外食産業など8つが成長産業となり、そこには低技能移民労働者(LSMと略称)が必要となると言う。事情は、団塊の世代が定年退職しつつある日本も全く同じである。

 LSMがアメリカ人の職を奪うというが、第一に彼らがアメリカ商品の消費者であることを忘れてはならない。個人消費が伸びなければ経済成長はできない。その典型的な例が日本であり、日銀はインフレターゲットが達成できないでいる。第二に低賃金が経済成長、物価下落に寄与している。日本企業が海外に進出するのは、国内だと人件費がかりすぎるからである。第三に移民の子どもたちは上昇志向が強く、高度の技能を持つ労働者に育っていくが、それもアメリカ経済に貢献する。

 LSMは、アメリカ人の賃金を押し上げ、また新しい仕事を生み出すのに役立っている。特筆すべきはアメリカ人にとって英語は母国語であり、英語という点では移民より遙かに有利である。言葉を喋れない移民は、たとえば皿洗いの職に就かざるをえない。そこで、それまで皿洗いをしていたアメリカ人が、他人とのコミュニケーションが必要な職業に上昇していくことになる。カリフォルニア州の農園での苺採り作業は低賃金のLSMのおかげで成り立っており、もし彼らがいなければアメリカの苺は国際競争力を失い、農園は閉鎖、苺は海外から輸入する羽目になる。そうなると、苺栽培に係わる全産業がなくなるので、それはアメリカ人の雇用を奪うことになる。

 しかも、高校中退者や黒人などの「問題児」が、LSMの存在ゆえに他の層よりも上手く上昇気流に乗っている。まさにLSMのおかげで、アメリカは、他の先進国よりも高齢化社会対応がうまくいっているのである。

 以上のような議論を展開する論文を掲載する新聞があることは、アメリカの強みであり、救いである。アメリカの民主主義は機能している。アメリカにはquality paper(質の高い新聞)がある。私たちの日本では、政府機関紙まがいの主張を散りばめたり、他紙と横並びの何の特色もない記事で満足したりするようなマスコミに囲まれている。日本の民主主義に未来はあるのであろうか。全体主義に陥る危険性は、実はアメリカ以上だと心配している。