J.ミアシャイマー解説②「ロシア・ウクライナ紛争の行方」【時事所感120】
国際政治リアリスト、シカゴ大学のJ.ミアシャイマー氏のロシア・ウクライナ紛争についてのお話です。
前回の「ロシア・ウクライナ紛争の全体像」に続き、
今回は「ロシア・ウクライナ紛争の行方、この先の可能性」です。
※(ロシアのウクライナ侵攻直後のJ.ミアシャイマー氏の話)
ーーー以下、J.ミアシャイマー氏ーーー
ミアシャイマー氏)
最早彼らロシアは交渉に関心を示さないでしょう。
彼らが望むのは「現状の変更」です。
大規模な軍事力増強が行われ、今回の侵攻より前から破綻していたウクライナ経済に打撃を与える結果となっています。故にウクライナの状況は更に悪化しています。
ロシアは欧米西側諸国に明確なシグナルを送っていました。
「もしも(西側諸国の)彼らが賭け金を吊り上げベットするなら、我々(ロシア)も賭け金を上げるぞ」
「ウクライナがNATOの一部になることは許されない」
これらが今日の我々が直面していることです。
今回の危機は2008年4月まで遡れますが、
ウクライナをNATOの一部にしようと決めたことが「起源」です。
そして2014年2月22日に危機は起こりました。
その危機は時間の経過とともに幾分か改善されていました。注意度注目度は低下したように言われてきましたが、
突如として再びそれは起きたのです。
現在、この危機を沈静化出来る何らか希望はあるでしょうか?
私は考え得る最善の解決策を申し上げます。
これは明白な解決方法です。が、今日現在では政治的に受け入れられないでしょう。
「ウクライナを中立的国家にする」ことです。
ロシアとNATOの緩衝地帯のような、
それは2014年以前は効果的でした。
1999年ソビエト連邦崩壊の際にウクライナは独立しました。
大まかに言うと1999年から2014年まではウクライナを巡る本質的問題は存在しませんでした。
米国とその同盟国側はウクライナを巡りロシアと争ってはいませんでした。
2008年のブカレスト会談NATO会議においてはウクライナを巡る論戦は事実在りました、
しかし危機は存在しませんでした。
理由は、1991年から2013年までの期間、ウクライナは一貫して効果的な「中立国家」であり「緩衝地帯」だったからです。
その状況を変えてしまったのはNATOです。
我々(米国)はロシアを悪者にするために、
レトリックを変えていたことにお気付きでしょうか?
こんな話を聞くでしょう。
「ロシアは再び第2のソビエト連邦再興を決意している」
「ロシアは『偉大なるロシア』の再興を野望としている」
「ロシア人達は悪者だ!」
これは2014年2月22日以降に創作されたストーリー筋書きです。
2014年2月22日以前にこんな話・議論をした人は存在していません。
2014年2月22日以前に「ロシアを封じ込める為にNATOを拡大しなければならない」と論じた者は誰もいません。
2014年2月22日以降に起きていること、それは我々西側諸国がウクライナをNATOに組み入れるための馬鹿げた戦略だったのです。
その戦略自体の欠陥のせいで、その戦略が台無しになった際、我々はその失敗を認めるつもりはありません。
寧ろロシアの責任にしたのです。
我々はこう言います。
「ロシアは東欧東ヨーロッパの支配を目論んでいる」と。
勿論今日でもこの議論は耳にするでしょう。
「ロシアは悪者、プーチンは極悪危険人物。だから我々はロシアと交渉することが出来ない」
それは「ミュンヘン会議」に等しく、別で表現すれば、
「プーチンは第2のアドルフ・ヒトラーである」と。
ウクライナを巡り取引することは、
1938年10月、チェコスロバキアを巡り取引したことに等しい、と。
それは純粋でおめでたくてナンセンスです。
2014年2月22日以前、ロシアの脅威など無かったのですから。
我々側が話をでっち上げているのです。
何れにせよ、より望ましい推察し得る状況はこうでしょう。
より中立的なウクライナを創り出すことでしょう。
それは1991年から2014年まで存在していたウクライナでしょう。
しかしながらそれも最早出来そうにありません。
何故なら、アメリカ人はNATO拡大について如何なる譲歩をする気は無いからです。
更に加えて、ウクライナの中立化についての試みですが、
キーフのウクライナ政府にとっても、(ウクライナ東部)ドンバス地域の親ロシア・ロシア語話者との間で
ある種の暫定協定に達することが重要になります。
これは有名な「ミンスク合意」です。
キーフにあるウクライナ政府はこのミンスク合意を実行する義務があります。
この問題が解決される前にドンバス地域とウクライナ西部の住民間の内紛は沈静化されなければなりません。
しかしながら現在のウクライナ政府の政治は、これを不可能にしています。
再度申し上げますように、現在の米国バイデン政権バイデン大統領がNATO拡大を断念する様を想像することは不可能です。
故にその結末は延々と続くこの危機なのです。
これが私の私見のなかの悲しい現実なのです。
J・ミアシャイマー氏解説①「ロシアのウクライナ侵攻の全体像」【時事所感119】
黒海沿岸のイギリス海軍航行や米軍機飛行のニュースは御記憶でしょうか?
今回のウクライナ紛争が起きる以前なのですが、
日本のテレビニュースでは数分程度の取り上げでした。
私個人は非常に気懸かりだったため記憶しています。
ロシアとウクライナや西側諸国の対立衝突は現実になり、これを含めお話しようと考えていました。
これについて米国シカゴ大学の著名な国際政治リアリスト、ジョン・ミアシャイマー氏が、ロシア侵攻直後に判りやすく時系列順に理論立ててお話されていたので御紹介します。
以下、長文ですが、是非皆様に知って頂きたい内容を判りやすく述べていらっしゃいます。
― 以下、J.ミアシャイマー氏 ー
ミアシャイマー氏)今回のロシア・ウクライナ危機について、主に二つの事を話します。
①『今回のロシア・ウクライナ危機についての全体像』
②『これから先はどこへ向かうのか』
この2点についてお話します。
① 『ロシア・ウクライナ紛争の全体像』
「今回のロシア・ウクライナ危機の責任はロシア、プーチンにある」
これが西側諸国や一般的見方です。
「私達米国や西側諸国は善であり、ロシアやプーチンが悪である」
はっきり申し上げて、これはシンプルに誤りです。
米国をメインにして西側諸国に責任が起因しています。
ロシア・ウクライナ紛争を理解するためには、2008年以降の米国・西側諸国が試みたことを知る必要があります。
この試みには主に3つの側面があります。
・第一は重要な点である「NATOの拡大」です。
これはウクライナを含めた東側へのNATO拡大です。
・第二は「EUの拡大」です。
この戦略を別に表現すれば、ウクライナをEU、つまり西側へ取り込むということです。
・戦略の第三は「カラー革命」です。
ウクライナの場合は「オレンジ革命」でした。
ウクライナを米国やイギリスのように「自由民主主義体制」へ変貌させることで、
米国との「自由民主主義同盟」関係を結ぶ戦略です。
これら3つの戦略はセットで必要でした。
何故なら、ロシアと国境を接するウクライナを西側の障壁にするための計画だったからです。
これらの戦略の最重要課題はNATO拡大です。
2008年のブカレスト会談(NATOサミット/NATO首脳会議)が計り知れない程に重要性を含みます。
「ウクライナとジョージアをNATOに組み入れる」ことを宣言し実行に移すと述べたのです。
この時点でロシアは「それは許さない」と明確にしています。
ロシアは越えてはいけない一線を示したのです。
皆さん御存知の通り2008年の会談以前、
NATOの拡大には二つの画期がありました。
一つ目は1999年、ポーランド、チェコ、ハンガリーをNATOに加えたこと。
二つ目は2004年、ルーマニアとバルト諸国をNATOへ取り込むものでした。
ロシアはこれらのNATO拡大の画期について激しい嫌悪を示しましたが、これらを受け入れました。
そして2008年にNATOは、
「NATOの拡大は今やウクライナやジョージアも含まれるだろう」と発言したのです。
この時にロシアは「越えてはならない一線」を設けたのです。
「それは許さない」
と公言したのです。
この意思表示は理解するべきものです。
2008年4月会談の数ヶ月後、
同年8月ロシアとジョージアが戦闘状態に入ったのはたまたまの偶然ではありません。
忘れてはならないのは、ジョージアはウクライナと共にNATO軍事同盟へ加盟する予定だったことです。
思い出して下さい。
ロシアは言いました。
「そんなことは許さない」
そして2008年のNATOサミット以降、ロシアとジョージアは戦争になりました。
2014年2月22日、ウクライナを巡り危機が起こりました。
これは主にウクライナ国内のクーデターにより引き起こされたもので、
親ロシア指導者政権を転覆させて親米派指導者政権を据え置くものでした。
このクーデターに、実は米国が関与していて、ロシアが激怒したことは当然であり不思議なことではありません。
このクーデターに激怒したロシアは2つのことを実行しました。
一つ目にはウクライナからクリミア半島を奪いました。
何故この地域を奪ったのか。
幾許かの人達はお気付きでしょう。
そこには「セバストポリ」と呼ばれる重要な海軍基地があります。
この重要なセバストポリがNATO海軍基地になることを、ロシアが許すはずが無いのです。有り得ません。
これがロシアがクリミアを奪った原理的理由です。
二つ目は、2014年2月危機直後にウクライナ東部で起きた内戦をロシアが利用したことです。
ロシアがこの内戦を焚き付けて、この内戦地域のロシア人やロシア語話者がウクライナ政府に打ち負かされないようにしたのです。
この地域の彼らロシア人やロシア語話者は、ウクライナ政府を事実上破綻させています。
ロシアの反応は二重になっています。
これを理解することがたいへん重要です。
2014年の最初のウクライナ危機は、2008年ブカレストでのNATOサミット会談に対する反応なのです。
ロシアは基本的にこう述べます。
「ウクライナがNATOへ加盟するならば、加盟が認可される前に我々はそれ(ウクライナ)を破壊する」
ここでひとつの問いをしてみます。
「何故ロシア人はそのようなことをするのか?」
です。
これはリアリティポリティクス(現実国際政治)の基本です。
西洋、特にアメリカやイギリスの人々は理解しないでしょうし、これ自体を理解出来ないということに私は度肝を抜かれます。
「世界一強大な国アメリカによって運営される軍事同盟が、ロシアの国境まで達してもロシア人は気を煩わすことは無いだろう」
こんな発想自体が考えられません。
我々アメリカにも「モンロー主義」があります。
「モンロー主義」はこう述べます。
「遠隔地にある覇権国家と我々の西半球にある国が軍事同盟を構成することは許されない。」
勿論その軍事力が西半球に入ることは許されません。
私は冷戦期の「キューバ危機」を思い出します。
起きたことは、ソビエト連邦がキューバに核ミサイルを配備したことです。
米国は「断固として受け入れられない」と言いました。
我々アメリカはキューバ危機を経て、
結果ミサイルは撤去されました。
その後ソビエト連邦はキューバ中部南沿岸の「シエンフェゴス」に海軍基地を建設しようとしたが、
正確な言葉は判らないけれども米国は言いました。
「シエンフェゴスへのソ連海軍基地建設は許されない。」
米国は西半球を自らの裏庭と見做し、
遠隔地の大国が入り込むのを防いでいるのです。
ロシアがウクライナを自らの国境に接する防壁とする米国に深く掻き乱されるとは考えられませんか?
当然のことでしょう?
そして2008年ブカレスト会談直後、ロシアは明白にしました。
「ウクライナはNATOの一員になってはならない」と。
米国とNATOはこれを聞き入れませんでした。
理由は、「我々は善良であり、我々(米国)は穏和な覇権国家である」
と我々の間で信じられているからです。
我々の欲することは世界中で何でも出来ました。
しばらくはそれが許されるようにみえました。
それは申し上げた通り、1999年最初のNATO拡大をロシアが受け入れたからであり、
その後の2回目の拡大も受け入れたからです。
しかしブカレスト会談後、ロシアは言いました。
「もうこれ以上は許されない」
そして2014年2月に大きな危機が起きました。
その危機はかなりな程度抑えられました。
そして昨年2021年秋から危機が強まり始めました。
勿論、私は今年2022年初頭についても話をしています。
それは本格的危機と化したのです。
ここでの疑問は、
「今になって何が起きているのか?」
です。
「何故この危機が再び突如として注目されることになったのか?」
この答えは、米国とその同盟国がウクライナを事実上のNATOメンバーに組み入れたことです。
今日様々なレトリック(屁理屈)を耳にします。
「ロシアに恐れるものはないーーー何故なら、誰もウクライナをNATOに組み入れるとは言っていないから」
これは本当でしょう、しかしながら我々米国NATO側が行っていることをみれば、それは事実とは異なります。
トランプ政権からバイデン政権に至るまで、
我々(米国)はウクライナを武装化しているのです。
我々米国のオバマ政権時はこれをしていませんでした。
2014年2月危機時、またそれ以降の数年間、オバマ政権が権力地位を占めている間は、ウクライナ武装化政策を拒否し続けていました。
何故なら、我々アメリカ人はロシア人を怖がらせ怒らせることになるのを知っていたからです。
ロシア人側の視点を理解しましょう。
ウクライナのNATO加盟、NATO拡大は彼らロシアの存立存続の脅威に等しいからです。
彼らロシアは西側諸国に明確なメッセージを送っています。
「我々(ロシア)はこの脅威を深刻に受け止めている。」
「この脅威を取り除くために必要ならば、武力を準備し行使する用意もある」
ロシア側は真剣に大真面目に述べているのです。
それ故に2021年に起きたことーーー、
これはトランプ政権時からですが、ウクライナを武装化してきたことです。
我々がウクライナの武装化について話をするとき、
それはウクライナの軍事力であり、ウクライナ東部のロシア同盟者達とも戦い得るものです。
ロシア人を極めて脅えさせたこと、
そのひとつにはトルコがドローンをウクライナへ提供したことです。
ドローンは戦場では極めて効果的な兵器になっています。
※(2020年 ナゴルノ=カラバフ戦争)
アゼルバイジャン人の視点からもアルメニア人に対して実証、証明されていました。
アゼルバイジャン人はトルコ製ドローンを使用していたのです。
トルコ人がドローンを、そして米国人や英国人が有りと有らゆる兵器をウクライナに提供しているのです。
勿論我々は、それらの兵器を「防御用兵器」と定義するでしょう。
しかしながら、理論家の洗練された観点を以てすればおわかり頂けるように、
「防御用兵器」と「攻撃用兵器」に意味ある違いはありません。
「安全保障のジレンマ」
というやつです。
我々にとって「防御的」なものが相手にとっては「攻撃的」なものに映るのです。
ウクライナ人にドローンを供与したら、ロシア人はそれを防御的兵器と見做すでしょうか?
私はそうは思いません。
米国や英国が行ったようにウクライナが軍事訓練を始めても、
ロシア人はそれを脅威と見做さないとお考えになりますか?
私は保証します。
「彼らロシア人はそれを脅威と見做す」と。
今ここで何が起きているのか。
我々西側諸国がウクライナを武装化し訓練し、
我々がウクライナと外交上如何に向き合っているのかを見れば、
我々がウクライナを基本的に同盟国やパートナーであるかのように議論している。
それは我々がウクライナについて議論する際に使われるレトリックの一種です。
外交的且つ軍事的に、我々西側諸国や米国とウクライナの紐帯は硬く結ばれているように見えます。
同時に我々はウクライナの外側で挑発的行為を行っています。
それはロシアを極めて刺激しています。
昨年夏に愚かにも、イギリスは英国海軍駆逐艦を黒海ロシア領海を航海させたことです。2021年6月のことです。
米国は米軍航空機を黒海のロシア側沿岸上空に飛行させました。
これらはロシア側に極めて嫌悪を抱かせました。
驚くまでもなくここで見えてくることは、
ロシア人がNATOの東方(ロシア側)拡大を強く実感していること、正にロシア国境までNATO軍事同盟が迫ってきていることを感じ取っていることです。
ウクライナがこの軍事同盟の実質的なメンバーになっていることが主たることです。
それと挑発的政策行為としてイギリス海軍駆逐艦や米国空軍機飛行があるのです。
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は「沸点に達した」と述べています。
彼らロシアは沸点に達したのです。
最早彼らは交渉に関心を示さないでしょう。
(続)
「当事国の人々が外交政策を決めていると勘違いしている」【時事所感118】
以前に紹介した回に引き続き、
国際政治リアリズム派のジョン・ミアシャイマー氏と
現代ロシア史歴史学者スティーブン・コーエン氏が、
男性の疑問に答える動画から抜粋しました。
男性) 「同盟に参加するか否かは、その国に決める権利があるのでは?」
ミアシャイマー氏、コーエン氏) 「ありません。」
ミアシャイマー氏)「国際政治においてはそれは馬鹿げた考え方です。」
男性)「私はその人達について話をしています。つまりNATOに加盟したがっている国々は、『私達は、ロシアの圧政に長年苦しめられてきた。だからNATOに加盟したい』と言っている」
ミアシャイマー氏)「・・・・・。(この男性の思考に唖然)」
コーエン氏)「貴方は、人々が外交政策を決めていると思っている。」
コーエン氏)「ロシアと国境を接する如何なる国にも、ロシアに対しての歴史的憎悪を持ち込もうものなら、我々はその国を破滅に導いてしまうことになるだろう。」
ミアシャイマー氏)「確かに。その通り。」
ミアシャイマー氏)「ロシアや中国が、米国と国境を接するカナダやメキシコと軍事同盟を結んだら、私達米国は座視することは出来ない。」









