半狂人の晩年

半狂人の晩年

石井恒の「生きていてわるいですか」

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どうしてFinal Spaceの沖縄会場だけこんなべらぼうに遠いのよ!?

沖縄ってだけでも遠いのに、例の宜野湾よりもっと向こうの沖縄市……

行こうかどうしようかしら…金が…でも行かないと一生後悔しそう……

…………――――…………――――…………

…………もうヤケクソだわ。ええ、行くわよ。

どうせ行くなら、amuro jetにも乗らなくちゃ。

でもamuro jetって、前日にならないとどの便がamuro jetで運航するのか判らないの。

羽田、中部、福岡――毎日本土の3カ所のどこかからは飛ぶとはいえ、

中部や福岡発なら乗る前夜までに自宅の埼玉からそこまではるばる移動しなきゃならないし…

行ける期間の数日前からamuro jetのサイトで

運航情報を毎日チェックして(もう忙しいったらないわ)……ある朝、

次の日のこの便!羽田発14時台、いい時間!空席わずか!乗るわよ!ってとっとと予約しようとしたら…

え?那覇じゃなくて石垣行き?…………瞬間手が止まるも、

その先のことなんぞ考えずとりあえず予約に決まってるわ。

17時35分に遥か行き過ぎの石垣に着いて、その日じゅうに那覇に飛ぶ便あるわよね……

あら?全航空会社満席╳╳╳╳。

石垣-那覇間の船便はあるかしらん?琉球弧を航海するロマンティックなフェリー、ありそうよね?

夜便だと宿代も浮くしいいわぁ…………ないの!?

その翌朝の石垣-那覇の飛行機は……これも空席わずか。すかさず予約…

義務的に泊まる石垣島のホテルも予約…

…羽田-石垣のamuro jet、石垣のひとりホテル、翌朝の石垣-那覇の飛行機…

主目的の沖縄会場にたどり着く前に既に計6万5千円…。

 

amuro jet搭乗日のウキウキの朝、しつこくその日の夜の石垣-那覇便をチェックしたら…

やだ、1席空いてる!予約よ、予約。

石垣のホテルにごめんなさいのキャンセル連絡をして、その夜の那覇のホテルをササッと予約して、

50の耳に無理矢理『DANCE TRACKS VOL.1』を流し込み、GO! GO!気分アゲながら羽田に向かったわ。

…96年7月に『SWEET 19 BLUES』が出るまでは、

安室奈美恵のアルバムはその『DANCE~』しかなかったから、

「Chase the Chance」「Don’t wanna cry」が街じゅうに流れ溢れまくり、存在が社会現象へ沸騰してた頃、

若い子たちがみんな微妙な『DANCE~』を聴いてた時代情景を思い出しながら…

いつもなら出発時刻20分前にしか羽田に行かないのに、amuro jetの機体写真も撮りたいから

出発時刻40分も前に羽田に着いたら…使用機材到着遅れのため50分延発ですって。

いいのよ~焦らしてちょうだい、amuro jetのためなら喜んで待つわ~。

新しい出発時刻の30分も前に、ラララ、搭乗口に行けば…あら?amuro jet様はどちら?

こちらからは見えない位置に駐機しております、とのたまう搭乗口の制服女。

え?どういうことかしら?機体の写真が撮れないじゃないのさ…

見渡せば…ソワソワしてるのは50がらみの派手なオカマ1人だけ。

みなさん、フツーに石垣島にバカンスにお出かけの家族連れとかカップルみたいなテンション。

そうね、わずか数名以外は、

amuro jet運航情報告示前からこの羽田-石垣便を予約なさってた行楽客のみなさんだもの。

どこかから機体が見えないかしらとあちこち動き回るも、amuro jetの気配さえどこからも見えやしないの。

右往左往せわしない実年のオカマはもう泣き顔になってたかもしれない。

石垣では見えると思いますよ、と再び搭乗口の制服女。

そうね、石垣で機体を撮ればいいわね、と他者発言をらしくなくやすやすと信じるオネエ叔父さん。

いつもなら最終案内でしか搭乗しないのに、

優先搭乗でそそくさと得意の速足オカマ歩きで先行く人々を抜かしまくって

乗り込もうとすると、入口右手に、奈美恵の写真がようこそ!

写真撮らなくちゃ…反応してるのは中年釜ただ1人。

あとのみなさんは気にも止めず黙々とご搭乗なさるのね…

amuro jet仕様座席カバーに興奮してるのも、周りでは1人だけ…

飛行中、ヘッドホンを付けてる人も周りでは1人だけ、ってことは

機内オーディオプログラムの奈美恵特集を聴いてる人も少なそう…

essential best、精選、って感じの絶妙な選曲なのに!

(7曲めまで『Finally』版だけど気にならない!)

「Don’t wanna cry」「SWEET 19 BLUES」

「CAN YOU CELEBRATE?」「NEVER END」「Say the word」

「GIRL TALK」「Baby Don’t Cry」「Mint」「Hero」「Finally」――

初期の代表曲4曲に、キャリアの転換点の曲と音楽的転換点の曲、

中期の最人気曲、近年の話題曲2曲に…締め。

(構成/ナンクルさん、素晴らしい!)

そして特にアナウンスもなくふいにモニターが下りてきて、唐突に「Contrail」のMVが始まるから

慌ててチャンネルを合わせるわけよ。

音声はヘッドホン経由なのに相変わらずヘッドホン人は周りにおらず、

それはビデオプログラム奈美恵特集を楽しんでる人もわずかってこと…

ちょっと、どうしてみんなそんなにクールなのよ!

解ってるわ、感動感激感謝のFinal Tourでさえ5/2東京ドーム天井際席では

小室時代曲以外座ったまま無反応観衆の多さに唖然とした後だから、

一般のみなさんがこんな風でも。

この貴重な機会をご体験なさらない方々…おかわいそうに。

小室時代曲のMVでも流れれば違ったかもしれないけど……権利関係かしら……

「Contrail」+『Finally』収録のMV曲-「Dear Diary」「Fighter」「In Two」

先の『DANCE~』の頃から、奈美恵楽曲には権利関係のモヤが漂っているよう。

(特に)docomoとコーセーのCMは、見る機会が限られるからうれしかったわ。

着陸したら乗客全員で拍手!って感動的情景を期待してたのに…なかったわ

ていうか降りる支度中、記念カードをもらってないことに秘めやかに気を揉み揉みするオネエさん。

降りる前に機上制服女に必ず訊かなくちゃ、忘れちゃダメ、必ずよ、と小声で唱えつつ

出口近くの制服女ににじり寄ったら…

あら、カードくれたわ、ありがとう。

お出口でamuro jetご搭乗記念のカードをお渡ししております、って

おっしゃっていただきたいわ。焦るじゃない。ていうか終始、

amuro jetに乗ってることを盛り上げるアナウンスとか何もないのよ!

まだ気を抜けないわ、機体の写真を撮らなくちゃ、

さぁお姿を見せてちょうだい、どこから見えるかしら?

出口→搭乗橋→搭乗口→と気を張って歩くも…

搭乗橋の小窓からかろうじて小さく見えただけ…

滞りなくamuro jetを後にする一般のみなさんの流れに乗らず、

羽田同様に半泣きでウロつく初老釜の他にもう1人、

あれ?見えないな…って表情で、搭乗口近くの降機ルート最後の窓から

機体方向を眺める男子がいたわ。同志…か?

 

単にトランジットの石垣空港で

石垣牛ステーキと八重山そばとジェラート食って

1時間半後に那覇行きに乗るミーハー釜。

今宵の石垣-那覇便用に、

「Get Myself Back」から始まるプレイリストを作りiPodに入れたわ。

那覇の夜のホテルで、

Final Space沖縄会場のプラザハウスまでのバスを小1時間かけて調べ…

…あら、複数の会社のいろんな系統のバスが

1時間に5本ぐらい那覇バスターミナルから出てて、よかったわ~。

翌昼、1996年に「おしゃれカンケイ」で好きな食べ物を訊かれ、

お母さんお手製の中身汁が空輸されてるのに、最初違うものを答えて

古舘伊知郎をしばしあたふたさせた天然奈美恵を懐かしみつつ

その中身汁を食ってから、いざプラザハウスよ。

奈美恵の巨大看板壁貼り中の琉球新報ビルを見上げて気分上がりつつ

那覇バスターミナルへ向かえば…え?工事中…

乗りたかった宜野湾会場近く経由の沖縄バス77番は、

那覇バスターミナルを名乗るも近くの道端から出るって案内に慌て、

どれでも着けばいいわと、ちょうど来た他系統バスに乗り、

ガラガラのまま那覇を後にすると…

…去年9月、列島大震撼直前、普通に25周年記念だと

のんきに楽しんだ沖縄ライブへの道中は

お友達と話が弾んで車窓をあまり見てなかったのね……

米軍基地のフェンスが左にも右にも現れ――――

――――リアル「ミスターU.S.A.」だわ!

やたら明るい米軍基地ソングとしか感じず

ずっとノリノリで聴き流してきた私のバカ。

いま実際に、ひたすら分け隔てて長々と続くフェンス、

そのフェンス越しに

広大な地上げのように街並みの中に白々とどっかり鎮座する米軍基地を目の前に見る。

言語はヤマトと同系だけど、生活文化的には中華要素もあり、琉球王国の歴史もあり、

日本固有の土地とは言えない沖縄。もし日本領になってなかったら

こんな無残な土地の使われ方はしてないでしょう。

第二次世界大戦での米軍も、沖縄を大襲撃したってヤマト政府には応えないことを早く解るべきだったのに。

幾重にも複雑な沖縄の歴史のようでもある安室奈美恵。

県民栄誉賞受賞の席で流した涙の静けさ。

その時の“すごくやさしい場所でもあるし、自分にきびしい場所でもある”という言葉の重さ。

ふと車窓に、普天間宮と書かれた幟と鳥居と、その奥に大きな赤いお宮さんが見える。

米軍基地名でヤマトでは知られている普天間が、

厚い信仰を集めていることが一目で判る堂々たる神社の名前だったなんて!

でもその普天間宮は、米軍の敷地に窮屈そうに囲まれていた…なんてこと!

(帰って調べたら、普天間宮は琉球王国時代から続く神社で、

首里から普天間宮への参道のほとんどは米軍普天間基地の滑走路の下に埋もれてしまったんですって。

とんでもないこと!)

安室奈美恵は引退の理由を明確に語らない――――

沖縄に来なければ見えなかった景色。来てよかった。

 

プラザハウス前バス停で降りると、坊主頭の(たぶん)中学生3人。

私が行った大阪グランフロントも、渋谷ヒカリエも、それぞれの都市でいま最先端で賑わうビルで、

それは日本最高最先端のシンガーの展覧会らしいロケーション。

プラザハウス…本当にここかしら?と仰ぎ見ちゃったけど、

低層の外壁からちゃんと奈美恵がこっち見てた。

幹線道路沿いの郊外の風に吹かれ、

誰もいない入口に置かれた灰皿前に腰掛け、

年配の婦人が1人タバコを吸ってたわ。

内部も人の数も、

ガランとしたショッピングセンター。

ただ、アメリカ時代の1954年オープンで、

当初米軍関係者向けではあっても、

日本初のショッピングセンターなんですって。

どこも定刻に行って、

大阪グランフロントは10分、

渋谷ヒカリエは30分並んだわ。

沖縄プラザハウスは当日券待ちの列数人のみで、一瞬で入れたわ。

いきなり、轟音。

Dr.クロノスも元気が出るテレビの空手シーンも、ライブ映像もMVも混ざりまくって、

どれもよく聞こえないの、フフフ。

大阪も渋谷も、数十人ごとに分けられ若いスタッフの説明を受けたfirst spaceがあったけど、沖縄は説明もなく

いきなり、展示会場。

他の会場で見た映像も、ここでもちゃんと順番に見ましょうね。

ふと、気づく。平日昼間、1人で来てるオジサンがわりといるの。

そして、老若男女全員展示を熱心にじっくり見てる。うれしい。

大阪では、彼女に連れて来られたのか興味なさそでつまんなそうな若いイケメンが何人も目障りだったわ。

渋谷では、衣装展示の真ん前で、展示とも奈美恵とも関係ない話を

大声でずっと続けて動かぬ下品な3人組が邪魔だったわ。

5/2東京ドーム天井際席観衆の7割は、小室時代曲以外では出番待ちのようにじっと座ってたわ。

会場内の人数の余裕のせいもあるだろうし、どこも行った日がたまたまそうだったのかもしれない。

でも、沖縄プラザハウスまではるばる来てよかった。

去年までのライブみたいな、会場の一体感が、うれしい。

各映像の音も一体化してるけど。

どこの展示会場も衣装がメイン。小室時代は若かったのに

パンツスーツが多くて、紅白の衣装も毎年黒っぽくて地味。

2003年以降、ミニスカートが増え、

デザインも一気に凝って可愛くなるのね。

沖縄ならではの展示?県民栄誉賞の記念品、綺麗な飾りのついた指輪と、

長いスプーンに見えた方は琉球の伝統工芸品のかんざしだったわ。

(帰って調べたら、沖縄に1人しかいない金細工職人さんの

首里石嶺町にある工房で作られたんですって。なんて偶然!)

あの時の奈美恵さん、花束はともかく、記念品も流れ作業のように

お付きの人にすぐ渡してたわね……どこまでもクールね……。

Final Spaceで一番うれしかったのは、ディスコグラフィー展示でも重~いパンフでも

「TRY ME」とかのプレ小室時代曲がエイベックス時代曲たちと同等の処遇だったことよ。

公式ホームページではとうとう最後まで、空白歴史のままね……。

実は大阪会場のグッズ売り場では修羅場に遭遇したのよ。

若くないイカついデブが、

お前ら奈美恵をダシにして金もうけしとるくせに何じゃい!って、

ブチ切れた時の私より大声で怒鳴ってたの(グッズ売り場スタッフは別に儲けてないわよね)。

その横にはヒステリーのPTA会長みたいな口調でまくし立てる若めの家族連れの母親。

さらに十数人、一様に怒った顔でズラリ(蛭子能収のマンガみたいな光景)。

そして泣きじゃくる若い女性スタッフ。

あとでその子に訊いたら、その日の分のガチャガチャが終わっちゃって、みんな怒ってたんですって。

大阪では、ガチャガチャは別にいいわ、アタシ大人だし、って流したんだけど…

沖縄のグッズ売り場の超余裕っぽいガチャガチャを前にして…

5回分のお金払ったらなぜか

上限の10回分のコインくれたから10回回しちゃった…

私の周りの奈美恵ファンたちったら、

「Hero」とか「Just You and I」の缶バッジが当たって

ビミョーって言ってたけど、

10回もやったら大好きな

「Big Boys Cry」が当たってラッキー!

渋谷で5回やったら、

もっと大好きな『PLAY』が当たってうれピー!

 

会場を出たら、この一帯がライカムという地名で、それは

Ryukyu Command headquarters(琉球米軍司令部)の

略称って説明があったわ。

米軍による沖縄統治の本拠地があった場所ってことね。

なだらかに連なる丘の上。

沖縄会場になぜここが選ばれたのかは解らない。

那覇にいい場所がなかったのかもしれない。

プラザハウスも含め米軍に相当関係の深い場所であり、那覇からの1時間の道中、

普天間米軍基地や普天間宮を見ながら、

沖縄をリアルに感じながら来る場所…

本来、沖縄のファンのための開催で、

内地からはるばる飛んで来る物好きのために選んだ場所じゃないと思うけど、

華麗な経歴にふさわしい、東京や大阪、福岡のど真ん中のきらびやかな場所での開催だけでなく、

“自分に厳しい場所でもある”沖縄の、

深々とリアルに沖縄らしい場所での開催…

…帰りのバスから見えた海、それは宜野湾の海…「Tempest」を聴いたわ。

幻の20周年沖縄ライブで聴きたかったのに、

今回のFinal Spaceで初公開されたセットリストに……なかったわ……

 

那覇に戻り、琉球新報ビルで企画展<My Hero>を見たわ。

奈美恵の新聞記事の切り抜きが貼ってあって、手作り感が可愛いイベント。

大量の在庫ありの6/6奈美恵特集号を買って、

近くのタワーレコードでの奈美恵大プッシュも見て…

9/15~16の宜野湾イベントはオール落選でも、

Final Tour香港公演のアンコール前、

ある観客の呼びかけで会場みんなで歌った

“♫NE~VER E~ND NE~VER E~ND la~lalalalalala~la~la”が

目下の心の支え。

 

よみがえった恐竜もどきの親分みたい。 belie260
脅し、怯えさせ、掴みかかり、なぎ倒し、
ぶっ刺し、ぶった斬り、ぶっ飛ばすような
危ないど迫力に満ち満ち満ちてゴリゴリ吼え轟かす
獰猛で雄々しい歌唱に、怖れおののき驚いているわ。
いろんなことを忘れさせてくれるのよ。
まず、聴いているのがいつなのか。
1988年?……明菜もファンも私も、
ありあまる若さに耽りまくっていたあの頃……
『BELIE』1曲目「サウダージ」~
4曲目「残酷な天使のテーゼ」に至る連続大爆唱は、
驚異&脅威的無尽馬力の超爆烈歌唱集『Stock』の続き?……
1994年?……『BELIE』7曲目「ステキな恋の忘れ方」の
万物を覆い尽くさんばかりに深く寒気立つ濃霧のような乳白色の歌唱は、
初代『歌姫』内の運命悲しい山鳩の絶唱「愛染橋」と同時録音?……
1985年?…………『Vampire』のジャケで牙をむくvampire260
超ノリノリ魔女ドヤ顏&shockingな唇の彩色は、
真の天下無敵時代を象徴して
80年代の12インチシングルで一番売れた「赤い鳥逃げた」と
同列インパクトの顔力で、前衛的+挑戦的+charming。
声量、歌技、熱情、鬼気、威勢、意匠…全部全開全力熟女。
リアルに、I Missed “The Shock” だわ。
うれしい。
時をかける妖女。
明菜の幾星霜のアルマージも、
明菜を聴いて聴いて
なんとか生き永らえてきたゥン十年の人生も、
その我が人生もとうにピークを過ぎ
既に老いさらばえかけていることも……すべてすべて忘れさせてくれる。redbirdflewaway140
時間ごと 体ごと、燃え上がる気焔迫り焦げそうな明菜の歌にさらわれ、
呑み込まれるのよ。

カバー…どんだけ……発売前、
なんとなく紅茶(レモンティー)のように冷めてしまっていたけど、
事前情報で期待の先走りが溢れ、とめどなく夢の中へとけて行ったわ。
まず、“BELIE”ってタイトルだと知り、
2015年の不思議英語シングル「unfixable」以上に使用頻度低く、
日本人にとって意味がLabyrinthの英単語難題を選んだ異能にまたまた恐れ入ったのよ。
特に2011年以降、認知症患者向けのように中1レベルの英単語をアルバムに冠し続けやまぬ聖子とは
こんなとこさえも相反して。永遠の陰陽伝説。crossmypalm120nampasen120almauj120tattoo120best2-120best3-120theheat120
be+lie=嘘↔︎になる→矛盾する(→裏腹?)——このタイトルの理由をさがしてさがして、
迷い迷わされながら 聴いて……ふと、思い当たる。
それが正解かは判らずとも、思案のロンリー・ジャーニーはいつも愉しいものよ。
そして、久々にツンと貴人的に気取って
鋭角ハの字形の美しい鼻孔を誇らしげに見せつけた上向き仰ぎ顔のジャケ写と知り、
フェティシズム共々興奮に身も心もじんじん火照ってたまらなくなったわ。
……1987年~88年…明菜史上最大規模プロジェクト『Cross My Palm』の
英語アルバムジャケでアンニュイの権化のように上向きポーズをキメた後、
「難破船」「AL-MAUJ」「TATTOO」…美貌でも天下無敵と驕らんばかりに
シングル3枚続けてツンツンツンと上向きジャケで煽惑し、
たいそうこの仰角の写真映えがお気に召したのか
1988年末の明菜最大セールスアルバム『BEST ll』LPジャケでも眩惑し、
微妙な時期(1992)の『BEST lll』でも一応、存分にツンと媚惑。
壮観の極致は、波瀾後の新世紀メジャー蘇生シングル
「The Heat」(2002)のジャケよ。
明菜史最大鋭角縦幅の偉容は、特別な場所・スペインを
メインテーマに謳った覚悟や自信にも押し上げられたみたいに、
万人を見惚れさせて天を高々と刺し聳えるマッターホルンのよう。
そして14年ぶり(!)の高々と自信放つ御仰ぎ……
そうよ私は孤高で気高く、世紀を跨ぎ今なお日本一美しい歌手……
モデルのような外表だけの美しさでなく、
自らの長い歴史を制した堂々たる圧巻の神がかった美しさ!
王女のようなジャケットの超美貌と、瞽女のように命の痛みまでむき出しの超激唱。
その意外性、ambivalenceが、BELIE?……
「飾りじゃないのよ涙は」のシングルを買った遠い昔を少しだけ思い出して。
そして、美貌も激唱も、34年目の奇跡!

希代加さん、お久しぶり、19年ぶりね。
意外性は『BELIE』DVDでも飽くことなく、全曲激唱勇姿披露もさることながら、
奈落の底から地上の平安を恨み尽くし上げる憎悪の火だるまの鬼の形相、
その凄絶さに、私の中に棲む希代加もどきも縮み上がった後、
炎の血しぶきのように煽られ火の命が再び燃え上がるのよ。
「冷たい月」みたいに役づくりでもなく、『BELIE』の曲世界とも違うのに、
なぜ希代加の顔で歌い呪い続けるの?
叶わなかった残夢をなお追い続けているかのように
歌い続けることが恨み続けることであるかのように……
……荒々しく揺れ揺さぶりながら燃え広がる炎の歌、
世紀を跨げど決して揺るがず容赦なく激しく逆巻き轟く私の歌……
全史リアル体験のファンがわりとピンと来ない(であろう)これまた意外な選曲の
『BELIE』冒頭4曲「サウダージ」「やさしくなりたい」「WHITE BREATH」
「残酷な天使のテーゼ」が、 無頼のBELIEに読めるほどの夜叉顔連激唱なのは……
……ロックのつもり(?)の男J-POPもアニソンさえも、私の歌の炎で
煉獄のように焼き上げてみせるわ……spiritual boulangerie?/roaster?
購入者が一層たまげるように、って悪巧みサービスだったりして。
“とにかくみんなをびっくりさせたい、飽きさせない”
“可能な限り、歌い方も変えて……”

ええもう、霊力、神通力のようにビックリ。
政治家になってほしいぐらいに志操堅固、鉄心石腸たる不断の有言実行、愛のように徹底的だわ。

ビックリは豪華アトラクションのように続けど、刺激だけじゃなく、
フッと肩が抜けるようなすかし技のビックリも。
続く5曲目「限界LOVERS」は、
さらなる絶頂絶倫の大爆唱、すわ世紀の女豹対決か!?という凡俗な期待をネグレクト、寸止め。
超弩級爆裂ロック歌曲は、クールを装いつつも妖しく火照るジャズアレンジで化かされ、
ボーカルは故意にじりじりじらすように、ツンと横目で冷笑しつつも坊やをなだめるように。
『艶華』(2007)で、天国のひばりちゃんもきっと口あんぐり、道義的責任を問われそうなほど歌わなんだ
「悲しい酒」 みたいに、先走りに濡れ怒張し過ぎた興奮の放置プレイ。
サド明菜のニクい歌技の一つね。
「謝肉祭」は……百恵が張りつめた魔性のパフォーマンスで釘付けにした最後のシングル曲……
夢遥か遠~~い記憶の宝物のような懐かしさが溢れ出てたまらないのはなぜかしら。
そして80年代歌手のうち、ひろ子の歌ばかりカバーし続けるのは、なぜかしら。
格かしら。
80年代初頭~中期……世俗の歌手たちとは異なる聖域に祀られたような地平で、特権階級的に清白な美声を、
純潔を守りぬく誓いのように誇らしげに天高く響きわたらせていたひろポン。
讃美歌唱法が霧のようだったせいか、10代の私が青い果実だったせいか……
「Woman “Wの悲劇より”」<Special Live 2009~Empress at yokohama> empressatY100
「スタンダード・ナンバー(≒メイン・テーマ)」(2015 『歌姫4 -My Eggs Benedict-』)
「ステキな恋の忘れ方」(2016 『BELIE』)
……明菜がカバーしてはじめて、どれも悲恋の歌だと解った私のバカ。
2009年は時期のせい?去年とおととしは意図的?——明菜は3曲とも異なる唱法。
「Woman “Wの悲劇より”」は、愛を失う終幕で凍えるやせた女がまざまざと息づく、
落ちる寸前の線香花火のように忍びやかな情炎で仄めく歌唱。
「スタンダードナンバー(≒メインテーマ)」は、解脱したようなムードで、重ねた年月を誇るみたいに堅調。
「ステキな恋の忘れ方」は……悲恋の歌なら私の歌よ……とうに純潔のはずもなく、
当時から純潔も霧だったかもしれぬひろ子と、
守りぬいたものは違えども今なら張り合える、みたいな乳白色唱法。
曲世界を冷たく厚い霧の歌唱で埋め尽くし、悲恋も愛憎も霧の底深く横たえ、
絶唱カバー「愛染橋」(1994)からの30余年の視界も世界も消すほどの、
白髪魔女に命を奪われそうなほどの霧。
「ステキな恋の忘れ方」が明菜に憑かれてしまっただけでなく、ひろ子が明菜に憑かれてしまったよう。
「愛染橋」を超える気魄…現実の年月のせい?明菜にとっても百恵とひろ子は違うから?
『BELIE』ラスト3曲男歌
「もうひとつの土曜日」「One more time, One more chance」「たしかなこと」は…
もう何度も充分ビックリさせてもらったから?
『歌姫3~終幕』の続きみたいな響き趣。
全史リアル体験ファンど真ん中選曲でキメる『Vampire』も待ってたから。


年末の限定ミニアルバムは懐かしいものね。 seventeen100
オマケ語りはあれど既発曲&テキトータイトルのピクチャー盤
『セブンティーン』(1982)は、まるで子供向けだったけど、
キレイに開けるのに手こずった『SILENT LOVE』(1984)は、
それなりの概念的すと~り~仕立てでそれなりに楽しんだわ…。
グラフィカルディスクって仕立てより、silentlove100
BITTER&SWEET、水と火の両極の魔力に虜&取り憑かれてしまう3曲
『MY BEST THANKS』(1985)…
今なお一番好きな明菜の曲「ありふれた風景」は、私の命の泉。
やさしくやわらかでやすらかな暖色の声で、光にそっと照らされた悲しみを
大切にとっておきたいかけがえのない記憶の宝物のように丁寧に歌い包むの。mybestthanks160
中盤…“♫少しずつかげる 淋しい横顔……”…イマージュの翳り——
陽が少しずつ傾き薄れるような色合いで声も少しずつ翳らせ、
移ろい美しくうつむく女の横顔がありありと見えるわ。
“♫からめた指を ひとつひとつ ほどいて…”
…すこし震えながら宙でとまどう細い指先も。
レースのようにこまやかで、
淡い色づかいの水彩画のようなひかえめな声で描かれるのに、
ありありと見える風景。
「ありふれた風景」は、名画であり、名女優の名演。
歌の上手い女性歌手 ——ひばりちゃん、藤圭子、ちあきなおみ、岩崎宏美、八神純子、聖子、安室奈美恵……
誰もこんな繊細な声で巧緻に歌い描ききれない。
明菜って、本当に一流の表演芸術家。歌の人間国宝。
詞曲は「あなた」の小坂明子の奇跡。アレンジも1985年末の奇跡のよう。
この年末って、明菜の作風の分岐点。
「DESIRE」直前、水と火を偏執狂ギリギリまで極め尽くす前夜のひととき。
時代のサウンドも、デジタル徹底移行前、 まだアナログの温りも残っていた頃。
のちの暖色バラード「さよならじゃ終わらない」「痛い恋をした」も、遥か及ばぬ奇跡。若さの奇跡?
30余年延々縷々と陶酔し耽溺し渇愛し続けて変わらぬ…変われないのも奇跡のせい?
「予感」は、後にタイトルも詞もエスパーASKAの異能に恐れおののき、再録のなぜ?も霧散するほどに。
メロディに追いつくのがやっとの英語発音で依然ぶりっ子する半年前同年夏の聖子12インチ
「Dancing Shoes」~ アルバム『SOUND OF MY HEART』をぶっ飛ばすかのように威勢のいい英語唱法を、
「Don’t Tell Me This Is Love」ただ1曲だけで封印した遺憾の方が、なぜ?
性の秘奥を究めた『VAMP』(1996/限定盤じゃなかったかも)の20年後、語源の『Vampire』。
カバーアルバム発売1カ月後にカバーミニアルバム…
古漬ファン狙いうち選曲だからこっちの方こそ聴きたいのに
レコード盤だけの発売…こんなもったいつける手口も、サド明菜よね。
限定盤だし久々に『SILENT LOVE』並みに焦って買い急いでも…4カ月後vampirecd170
私もそう今はもうレコードプレーヤー非保持者向けの施しみたいに出たCDで
やっと落ち着いて聴けたわ。
そうね、獰猛アドベンチャー『BELIE』たちに比べたら唱法も慣れてて…
でもね、山本リンダ、アン・ルイス、世良公則、もんたさん——
異端的インパクトあり過ぎ原色ギラギラの原唱が
生々しく歳月の深海から轟き上がり、
懐かしむ気はなくても心中のように引きずり込まれそう……
ところが、意図的かどうか、6曲のうちリンダとアンの女原唱曲を先に置き、
男原唱4曲を後にまとめてるせいか、
明菜のボーカルがだんだん男声に聞こえてくる不思議!
男歌カバー『歌姫3~終幕』(2003)の正規曲たちより、
漏れて『歌姫ベスト』(2007)に遺された「チャイナタウン」の方が男を感じさせたのも懐かしいわ…。
「宿無し」<「セクシャルバイオレット No.1」<「ダンシング・オールナイト」<「気絶するほど悩ましい」——明菜の気配が揮発し、どんどん明男の歌になってゆく恐~い面白さ。
『BELIE』冒頭4曲の雄々しい咆哮とは違う人格の歌。
道を極めて悟りきり、大声を出さずとも凄みで震え上がらせ鎮圧する大親分の歌。
我々古狸ファンは少し解るようではあるけれど、幼少期~思春期に聴き覚え
35年以上記憶の沼底深く棲んでいた異端曲たちには、最近曲のカバーではかなわぬ魔物も憑いてしまうのね。
存在感は先の昭和50年代異端者たちに匹敵すれど、
ボーカルは——70年代の若い男のなめらかで甘い肉体美——
飾らぬ剛毅木訥な生の男くささそのままだったchar「気絶するほど悩ましい」は、
原唱とは違う人格の曲へと歌い乗り移り尽くし果ててしまったわ。
同じ詞なのに別詞版のよう。暴挙のよう。
ドス効かせすぎボーカルが、どす黒いの。
狂いゆく執念のように。 血の固まりのように。裏社会の奈落のように。
“♫鏡の中で~口紅をぬりながら~”——女を見る明男の目は血走っているよう。
騙しやがる女を許さぬ猛禽類の目。血の匂いのするボーカル。
“♫うまく行~く恋なんて恋じゃな~い~~~~~~~~×2”
長い人生の重みを命のようにかけてこの世の色事すべてを否定するように。
そしてそのすべてに放火して残滓も無残に地の果てにかなぐり捨てるように。血を吐くように。
「気絶するほど悩ましい」は、明菜男歌カバーの最高傑作だと思うわ。
男歌カバーで、原曲を乗っ取ったのは、初めて?
明菜のカバー系列の愉しみは、
オリジナルでは作家たちがよう書かんような、触れたらいかんような詞の歌を仕組むように選び…
あの世直結の凄絶な鬼気を滾らせ、歌いえぐり出し驚かし脅し迫ること。
ファンが身の毛もよだち鳥肌も立ち、たまげることを解っていて、
つむじ風にさらい巻き込み、深く昏い明菜海へとわしづかみで沈めるのよ。
初代『歌姫』(1994)「愛染橋」、
『-ZERO album-歌姫2』(2002)「秋桜」、
『フォーク・ソング~歌姫抒情歌』(2008)「無縁坂」「時には母のない子のように」————
男歌カバー集『歌姫3~終幕』(2003)冒頭「傘がない」冒頭utahime3-100
“♫都会では~~~~…”————懐かしい戦慄を超える戦慄に出逢えるなんて。
明菜ちゃん、ありがとう。
安室ちゃんみたいにファンを(おそらく)永遠に置き去りにはせず、
しばし置き去りにはしてもちゃんと戻ってきてくれるのみならず
毎年刺激をくれる!いまゾクゾクする夢を追えるなんて!
カバー…どんだけ……と今年も冷めかけていたけど、
『CAGE』も、きっと脅迫してくれる、沈めてくれる……ええ、悦んで明菜の奴隷に。



私はこのアルバムを、どこか宗教的な心持ちで聴き続けているの。
明菜教ということではなく、fixer260
悟りや誓いが込められた固い思いが貫き放たれ
それに導かれるようだから。
“生きる”------日本語曲9曲中7曲の詞に繰り込まれ
燠火のように発熱するこの言葉。
曲どうしそっと手を取り合い、
火を移すように、息づく命を手渡してゆくように。
バトンをつなぐように。
ロザリオの祈り、珠を手繰るように。
満ちゆく命が道を引かれゆくように、ラスト3曲では
“生きて行く/生きていく”…運命と思い定めるみたいに
未来へと唱えてゆくの。
そういう歌い手ではなかった!
もうあまりこの世の人ではなくなったような、あでやかで美しい亡国の王女のような伝説の明菜が
“生きる/生きていく”と歌い継いでゆく、思いがけぬうれしい不思議。
“鼓動” もそう。胸が高鳴る4曲。“鼓動”が続くと、高鳴りは増してゆく。
言葉だけではないの。
音像や意念、イメージも曲から曲へ手渡され、聴き手も手を取られて曲たちを巡りゆく。
曲調が地球を方々飛び回り世界旅行気分の前半、既発シングル内含曲が続けども
連なる熱い鎖は振り切れずに、巡り繰る。
歌詞カードに献花のようにめぐらされ咲きほこる花にも眩惑されて、
今の日本の世俗の感覚などすっかり別の世の瑣事のよう。

デビュー33年の燦爛も波瀾も、御歳もぶっとばす、ハイパー興奮剤的電子音の激湍!
大地の母の胎動、その果ての極みの痛みのように髄まで脈打つ、hushigi110
世界レベルの堂々赫々たるElectronic Hot Music!
しだいに照度や色彩を高めてゆく音像は、まるで復活劇のスペクタクル!
なのに、ファンへの感謝を謳ったとも取れる英語詞を
サビ風の“♫In The Shade Of L~ight”以外、
何語だかほぼ聴き取り不能の明菜語発音で歌いぬく非王道DIVA!
------1曲目「FIXER -WHILE THE WOMEN ARE SLEEPING-」の衝撃刺激のデカさは、crimson110
この1曲だけで『不思議』『クリムゾン』(1986)、
『resonancia』(2002)、『DIVA』(2009)など
歴代の一意専心入魂異世界コンセプトアルバムたちとおあいこなほど。
1994年、初代『歌姫』を聴いた時の感銘が記憶の地底湖からわき上がり、
中盤の掻き立てるようなギターソロでは、
雲の割れ間から微笑む太陽光に天上の高みへと招き上げられる幻覚。stock110
2015年、さらなるもう一つの明菜史が動き出したよう。
先行シングルが「unfixable」で、本アルバムが『FIXER』…
…こんなクールなアイデアをかましてくれる明菜だもの、
メディア露出がないのもいいかげんな噂どおりでなく、
単にカッコつけならうれしい血気方剛な霊魂の躍動!
“♫In The Shade Of L~ight”×3------------LIGHT AND SHADEでなく。utahime1-110
ステージ上の明菜……強いライト…
神秘の顔立ちの細い稜線は幻灯のように影を落とすのね。年を重ねるごと。
ライブ感の強さのせい?……“Shade”の中に自分がいるような気にもなるわ。
日本への出稼ぎ半島組のremixなんぞも手がける
LA在住Korean-AmericanのBrian Lee参与のこの1曲目から
浅倉大介的つまりT.M.Revolution的デジタル音メガ盛りで轟き荒ぶる2曲目resonancia110
「Rojo -Tierra-」へ、
世界水準、日本水準と趣致は違えど共にトランスをベースにした電子音猛撃追撃は、
絶倫爆唱歌曲集『Stock』(1988)さえ適わぬ
長い長い明菜オリジナルアルバム史上最上にハイな曲展開!
妥協など決して許さず極限までやり尽くさねば気が済まぬ情熱狂熱の歌姫、
極端で過激で凄烈な徹底主義はなおも不滅!diva110
やりきったわね。
聴けば、判る。私たちの大好きな明菜が、ここにいるわ。
これらの時流超越名盤『不思議』『クリムゾン』『Stock』
『歌姫』『resonancia』『DIVA』たちと同じく、
熱い片想いのようにひたすら聴き愛し炙られ続けているから、私は満たされて幸せ。

冒頭2曲の驚倒的熱波から3曲目「Endless Life」へ、炎のバトンが渡され、
明菜は“羽ばたく火の鳥”=不死鳥を歌う。
ひばりや百恵はキャリア終盤で記憶の不死鳥になったけど、
思いがけず明菜が有言実行?してくれそうなのも不思議……ええ、”喜びに満ち“ているわ。slowmotion80
デビューシングルB面「条件反射」から、ほんの前曲「Rojo -Tierra-」まで33年の人生一路、
明菜はひたすら歌に身を投じ浸して、主人公の女や楽曲の全景をありありと息づかせ、
灼熱から極北まで、
歌を演劇的/ドラマティックに聴かせ魅了し幻惑し耽溺させてきた表演芸術家。rojo80
明菜にはMusic Videoなんて要らない。
歌だけで聴き手の脳内スクリーンはたちまち迫真の明菜劇場名画座になるから……
……希代の歌唱冒険家は、6年半ぶりのオリジナルアルバムでも期待を超越し、
「Endless Life」で、もうこの世のアイデアではないような驚きの歌でおののかせてくれる。
曲スタート直後からラスト寸前まで4回どよめくサビは
一面の焦土と煤色の空に絶望するような重苦しい電子音がなだれひしめき、
火勢をやや収めたとはいえ依然ボウボウと燃え焼き尽くす炎の芯の焦げ色のような音色の中、
明菜は焦熱から身をずらし、
“♫La(さあ) Lai La La Lai La La Lai La Lai 心を踊らせて”ーーララ楽しげなこのフレーズを、
世俗の感情などとうに見限り、煩悩残夢すべて無く、
現世のエトランゼのように歌い鎮める非ドラマティック無我唱法!
五十路を迎え、なおもNEW AKINA!
サビ後の小康サウンドに守られ“悲しみ”“傷”を吐露しても、
続くサビ前フレーズで光線がしだいに増してゆくような音像を浴びつつ
“♫もう二度と………………しな~い”と生き方を決意しても、
悟道の高みに達したような無我唱法で歌い唱え貫き、
従来のように多情多感多恨なドラマにはしな~い。
5年前「特別な恋人」「涙のしずく」で年相応路線に傾きかけたものの
以降断ち人生など歌わぬ聖子は蚊帳の外に置き、生き方をテーマにしようもんなら
まりや「人生の扉」もユーミン「シャンソン」もみゆき「倒木の敗者復活戦」も、
熟女の実力をお聴き!とばかりにみんな感動の力作バラードを力んで歌い上げあそばす。
そんな熟女の類型からも身をずらし、想定外の曲想------暗灰色の電子音と無我唱法、
ドラマティックな半生に人知れず口づけするようにクール過ぎる人生讃歌を仕上げた明菜は…
やっぱり独創力の怪物。
これが、明菜道。導かれ続けてゆく。
後半、またもや雲間から注ぎ浄めるように投射されるインド音楽風フレーズと共に
“♫Believe in yourself~そう~情熱が沸きおこるの~”------あの頃ならきっと炎を歌ったでしょう。
NEW AKINAは情熱を、いま目覚めんばかりの原始の発熱のように。
そしてまた、それは旧市街の名画座でなく、辺境の地の実験劇場のように------------

------------サウンドは鎮火しすっかり冷えても
暗灰色の音像や実験性は続いたままの謎多き「unfixable」で北欧へ飛び、
続く明菜史上最高水準楽曲之一のフラメンコ「La Vida」では、北海から地中海まで
不思議な力のミステリーのように欧州を縦断し、特別な場所スペインへ。
ここまでの5曲が世界旅行気分なのは、時差ボケしそうなほど各々曲調が異なるゆえのみならず……
フェイントスパニッシュの浅倉大ちゃん作編曲「Rojo -Tierra-」以外の4曲に
程度に差はあれど、どれも外国人が濃密に関わってるからでもあるでしょ。
「Endless Life」「La Vida」の作曲/編曲者のkoshin(胡臻)は、上海出身の中国人でしかもまだ若いのに、
80年代半ば、数年後に沸いたブームに先駆けいち早くworld musicを織り込んだ明菜音楽に、
大海を越え遡り、正しい歴史認識を持っているよう。
インド~フラメンコという流れは、「ジプシー・クイーン」を意識してるかしら……
日本も世界も危なげに内向きになってる時下、
前半だけでも音楽性も作家たちも国際色とりどりのアルバムは------
“とにかくみんなを喜ばせたい、びっくりさせたい、飽きさせない” ------ええ、そのとおり。うれしい。

6曲目「雨月」以降は
日本の若い作家たちの曲を丁寧に、新しい歴史を織るように、祈るように歌い進んでゆくの。
恩を返すように聴こえる時があるのはなぜかしら?gypsyqueen90
「ジプシー・クイーン」(1986)以降、断続的に続けるこの新進作家登用慣習、
30年経っても揺るがぬこれも明菜道。
竹内まりや、(chara)、ユーミン&松本隆、中田ヤスタカなど
生き残りに焦るがごとく有名人と組みまくる近年の聖子とは
相も変わらずどこまでも相反した生き方のまま、死後もきっと永遠の妖女と永遠の少女のまま。
前作『DIVA』の日本制作曲群は同一人物作だったから、destination90
その前の『DESTINATION』(2006)に近い、ちょっと懐かしい聴き応え。
曲毎に作家は違えど、明菜世界の風格に鑑みて編まれた詞やメロディやアレンジ------
咲きほこる花を手渡してゆくような曲構成にそっと導かれてゆくわ。
「雨月」から「とどけたい ~voice~」へは“一輪”という詞、続く「欲動」へは“道”、
これら3曲の歌唱は、陽の光が朝もやに滲んでるみたいな響き。
少しかすんでいても、しだいに熱を帯びて射し迫り、涸れかけた王国の花を咲かせるように届くの。
その次の「kodou」へは曲調も含めた“動”、さらに“生きる”“導かれて”------と手渡されるものも息づいてゆき、
何より誰より得意なラテンロック調に血が騒いだのでしょう、
「kodou」では「ミ・アモーレ」起源の魅惑的緩急唱法------
------メロディや詞のアルマージに乗り、吐息まじりに声を虚空へ解き放ったり、
声を張って聴き手の領域にグッと踏み込んだり、めくるめくその連続技で眩惑させて虜にしてしまう------
まさに明菜らしいノリノリの歌唱が復活して、その嬉しいことといったら!
冒険歌曲もいいけれど、十八番曲を聴くのもいいものだわ。
気持ち良く歌えたから気に入られたのかどうか、「kodou」の作曲/編曲の宗本康平はfixer-s100
後にシングルカップリングなのに変則的1曲目「ひらり -SAKURA-」にも抜擢され…
…ハウス仕立てにしちゃったのは、“可能な限り自分を変えて、歌い方も変えて、
みんなに新しい中森明菜を見てもらおうって気持ちが一番”
と力説した
明菜のアイデアかもしれないけど。
次のシングルは…koshin(胡臻)くんの作曲/編曲で驚きたいわね…。

『DIVA』で熱い気持ち溢れやまぬ後衛曲を5曲も作った新屋豊、お久しぶりねだから?「雨月」は
ヘヴィすぎる内容&『I hope so』に入ってた?って空耳で飛ばし気味になっちゃうんだけど、
“生きていく”と繰り返す「Lotus」は、永遠の妖女をなおなまめかせ秘密めくメロディ&アレンジのせいか
明菜の歌声もつややかに濡れ、電子音胡弓と共に夢幻の仙境を舞い踊っているよう。
最後は、歌い慣れたはずの…川江美奈子作詞「Re-birth」で、ホッとしたように。帰り着いたように。
単に心温まるバラードで終わらないのは……spoon100
“♫友達が大きな夢を叶えた 自分のことのようにとても嬉しかった”と
これもシブい時代の佳作『SPOON』(1998)の「祝福」以来?
他者の幸せを祝うお題が含まれてるから。
私も嬉しくて。
“♫嬉しかった”のところで、やわらかにほころぶ笑顔がほのぼのと見える…見えるわ!
…川江氏のHP、明菜の名前があって然るべき処にないのね…それも明菜?…
オリジナルアルバムは最後暖色バラードでも、「Going Home」…どこかnervous?
「APRIL STARS」…ちょっとstylish?
こういう心ほころぶやさしい曲、はじめましてみたいに。
カバー曲では聴かせてくれていたやさしさを、オリジナル曲でもやっと聴けたみたいに。
敢えて分け続けてきたようなオリジナル曲とカバー曲の唱法が、ようやくふんわりとけ合って。
そんなドラマを見ることができて……私もまだ生きていくわ。
明菜に生きる力をもらう日が来るなんてね 嬉しい。幾重にも、嬉しい。



戦国時代の動乱の一幕を同時代見聞したみたいな、鎮まらぬ胸のざわめき。
刀剣のように乱れ飛び止まず累々たる流言は、どこまでが本当なのか判らないけれど、
5人のファンでなくたって
他人事と見過ごせずに、イ女史や4人の味方をしてしまうのは私だけじゃないはず。
伊勢谷ユースケが“あほくさ”と見下すのは象徴的。
容姿にも才能にも恵まれすぎ、チヤホヤされ飽きてるような貴人には無縁の顛末でしょうけど、
(でも、あのリテラシーの用法はピンとこなくない?リテラシーは情報を発するメディア側でなく我々受け取る側の能力よね…)
スケールは甚だしく違っても、私みたいな庶民なら経験済みの、普遍的で身につまされるあれこれなのよね……

……まず、自分が良かれと思って努めて励んできた仕事が上役に認められない、ってよくあることよね。
元来イ女史は5人のために四半世紀にわたって才略を発揮し続けてきたわけでしょう。
なのに、今さら羊ちゃんったら“踊れないじゃない”とかトンチンカンに毒づいて。
羊ちゃんや研二ちゃんが遺憾な底意地のために認知症風でも、
我々庶民はイ女史と5人が築き上げた輝かしい功績を日本経済のように誇りに思って止まないわ。
ただ、庶民は力がないし、力を持つ重職にはメリジュリ伏魔殿に屈しない気骨ある義士なんておらず、
長いものには巻かれるしかないのねぇ、み~んな。憂き世のさだめ。

そして、言ってはいけない暴言が引き金となり、多くの人を巻き込む取り返しのつかない惨劇が炎上するのも、ありがちね。
どんなに腹が立っても決して口にしてはならない、それを言っちゃあおしまいよ、ということがあるでしょう。
“5人を連れて出ていけ”なんて、前後にどんな言葉があろうと火種となり、
感情はボウボウと燃え盛ってしまう。
動乱の発端は、理性を失った羊ちゃんなのに、責任を取るべき人が責任を取らないのが、日本のさだめ。
いくら相手が嫌いでも、仕事だもの、みんな表面上は平静を装って接しているのよ。
理性を無くした人間は、醜いわ。早く地の底からお迎えがおいでになるといいわね~♡

さらに、40を過ぎた人間なら、組織に身を置いたまま安定を選ぶか、
実力を試すつもりでいっそ独立するか、考えることもあるはず。
育ててもらった恩義は十分感じながらも、折り返し地点を過ぎた人生を思い切って変えてみたい…
…あの日の黒装束の5人を見たわ。理性を保った姿からこぼれた慎吾ちゃんの沈黙、中居くんのため息…
操り人形じゃなかった!理性と感情を併せ持った人間らしさ!

久しぶりに消息を聞いた名前…おシズ。
彼女がキムタクを説得した、って風説もあるわね。
でもこんな家庭内の出来事、キムタクが打ち明けない限り本当ではないし、
仮に説得されたとしたら、これも戦国大名の北政所っぽい逸話だけど、そういう打ち明け方するかしら…
デキ婚だったにもかかわらず、伏魔殿の羊ちゃんともうまくやっている、
さすが日本一の勝ち組の女!onenightaffair170
“♫わ~からな~い~ わ~からnhな~い~ どうな~るのか~~≈≈≈≈”
“♫どうな~るの~かなんて わ~か~り~≈たくなんnhか~な~い~~≈≈””
松井五郎の詞、いいわね…3月に出るベスト『松井五郎コレクション』も楽しみだわ…
おシズといえば、1988~90年のセールス絶頂期のこういう曲たちが、
しゃくり上げるような婀娜っぽい唱法と共に脳内でループし出すのは、悲しい性ね。
でもこの頃の曲って、後藤次利のアレンジがドタバタうるさすぎて好きじゃないのよ。
おシズの真価は、1994年のヤンキー恫喝ロック「Blue Rose」を皮切りに
セルフプロデュースに転じてから。
同様に威嚇しまくる「Jaguar Line」「7」「Blue Velvet」、aphrodisiacfromlips170
くすぐり声でよろめかせる耽美曲「Moon Water」「蝶」とか、
天然の魔性とテクニシャンぶりをフルスロットルで脅したり甘えたり、
時には清楚に、と様々な声を使い分けつつ
聴き手を捕縛して溺れさせる妖女。
日本一の勝ち組の女に成り上がっちゃったことで、
やや見えにくくなっているおシズの芸道は、
次の作品に感応した折に、またねっとりと。



MATSUYAKKO降臨かと。matsuyakko170
怨み節調「赤いスイートピー」を目撃することになるなんて、
長生きしての紅白鑑賞も楽しいものね。
国民皆の予感どおり案の定声をタメてタメてタメまくる
ベテランシャンソン歌手風粘り腰唱法は、後半へと歌い進むにつれ
メロディとリズムをゆっくりゆるめていき、
1982年のリリース当時は、時折小首もかしげながら
練達のCandy Voiceとヤラれる表情で見る者皆キュン♡と虜にさせたラスト近く…
“♫こぉ≈のっままぁ≈≈≈≈かぁ≈え≈れっない≈≈≈≈!!!かぁ⤴え≈れっない≈≈≈≈”
…帰らせるのならばこの命の限り怨み倒してやるわと呪われそうなイカめしい顔つきで
“っ”で痛みをこらえるごとく一旦息を詰め、
腹の底で“おのれぇ~”と憎しみのあまり声もわななくようにドスの利いた低いビブラートを轟かせれば、
テレビで見てたかもしれないトシも、たぶん見てない明菜も、作曲したユーミンも
みんな、何事だよ/かしらと案じたはず。
手をかざしまばたきパチパチ天を仰ぎ見つつ“♫あぁーかぁーいぃ~~~スイ⤵ィトォーピィイ~~~~~!!!”と
さらにタメまくりつつ神主の祝詞奏上のような聖俗超越的ビブラートで締めくくれば……
松田聖子が美空ひばりに見える日が来るなんて!
ひっつめた髪型や、この二人しか似合わぬような
大物オーラを燦然と増幅させる真珠の輝きのドレスのせいもあり、
天国から不死鳥も降臨して乗り移ったかと見まごう重鎮的偉容。
「赤いスイートピー」の体を借りた「川の流れのように」を歌ってるみたいな貫禄。
あの頃の可憐なスイートピーは……どこにも見えない!
目に浮かぶのはドレス色の薄ピンクの菊の祭壇。もしくは、大ぶりな花弁の胡蝶蘭。帰らぬ人に捧げるように。

遂にひばりちゃんの歳を超え、
立ち姿の大貫禄や大ぶりビブラートは大トリにふさわしいとはいえ……あゝ無情!
松田聖子は美空ひばりのような女王ではないわ。
むしろ、裸の女王様のよう。
2年連続紅白大トリの歌じゃなかったわよね。
広告主様が恐いのか、記者会見出禁になるからか、多くのマスコミはスルーね。
金正恩と同じようにヨイショッ!しなきゃいけないのかしらん?北朝鮮と同じだなんて。
中国の媒体は、歌がアレ?だった時にはちゃんとダメ出しするわよ。共産中国より報道の自由がないなんて。
『We Love SEIKO - 35th Anniversary 松田聖子 究極(でも)オールタイム(でもない)ベスト 50 Songs -』の
~Bonus Track~「あなたに逢いたくて ~Missing You~」(Orchestral Ver.)も、alltimebest130
サビはbitter tasteのタメ歌い。
美しい日々が切れ切れに見え隠れするいにしえの遺跡に流れてるみたい。
「かこわれて、愛jing」も、フレーズ終わりは全部タメ歌いで徹底してたから、
昔から得意ではあったんでしょう…。
低音とファルセットなら難なく出るの、知っているわよ。
出したい声と、いま出る声……解っているわ。
時に冒険して…2013年末のライブDVD『2013 New Year's Eve Live Party』で201newyear'seve190
気品と貫禄たっぷりにしかと実演する
「Amazing Grace」「The Phantom of the Opera」
……近年の輝かしくまぶしい松田聖子も、知っているけれど……
“心はいつでも17才(seventeen)”的精神は確かに共通すれど
やっぱり明菜の方が合う気がするまりやに依頼した「特別な恋人」(2011)や、
31年ぶりとかナントカ仰々しい前宣伝だった昨年秋のシングルなど、
多情性ゆえの不意打ち以外は、ファンの祈りを知ってか知らずか
自作曲でまさに永遠のもっと果てまでヤリ遂げそうな体制も、naked queen?
その昨秋のシングルも美談みたいになってるけど、
「永遠のもっと果てまで」の方は、31年ぶりに聖子に書いた楽曲にしてはsplover110
ユーミンがさして乗り気でもなかったようなメロディじゃない?
「特別な恋人」同様、近所の散歩風にまったりしたテンポは、
今の聖子の年齢に合ってはいても…せっかくユーミンとのコラボなら、
Pineappleみたいな春色の花園に連れてってくれる曲を希求しちゃうのよね。
聴く方も、つい歳を忘れて。「特別な恋人」は
今の年齢だからこそ歌えるラブソングを、みたいな依頼だったっぽいけど、beyondforever150
ユーミンとの特別な機会に、歳相応の曲…聴きたくな~い!
31年前の「時間の国のアリス」より派手やかSFファンタジー
「惑星になりたい」でバランスを取ったつもりかしら。
妙なテンションでぶっ飛んだ
「Rock'n Rouge」っぽい懐かしいインパクトのこの曲、
31年前の『Tinker Bell』収録の宇宙ネタ「AQUARIUS」と続けて聴いても
31年ほどの隔たりを感じないのは、デジタルの魔法?
松武秀樹氏のComputer Programmingは、日本のポップサウンドを羽撃かせたわ。tinkerbell130
音楽は、センスね。
今を時めいてるからでなくても、
こちらの中田ヤスタカサウンドをメイン扱いにして
PVも作った方がよかったのに……とも思うけど、正隆さんの手前、それは無理ね…。

松本隆氏も、「惑星になりたい」で顕示した揚々たる余裕の詞、爽快痛快なハマりようは、
『Citron』(88)以来じゃなく『Windy Shadow』以来、これも31年ぶり。
でもやっぱり「永遠のもっと果てまで」の方が、正隆さんの手前か、じっとり気合いが入ってるのね。
サビの前半までは、日本の作詞家で最もロマンティックな文彩を編み上げる
人間国宝らしいSUPREMEなセンス全開で大好き!
“♫夕陽を絞ったジンジャーエール”…WoW!
紫綬褒章はもう授かったかしら?
Aメロで失恋して、サビの前半“♫永遠(とわ)の海の果てに立ちーー“…ここまでは完璧。
プルメリアの伝説のようなパシフィックの果て、名画(?)のクライマックス……なのに
聖子の歳相応って風情を、どこかで示唆せねばと送り送りサビの後半、
“♫生きてるって素晴らしいーーーっ! 両手広げ叫ぼう”…エエーッ!?いきなりレコードの針が飛んで
次の曲にイっちゃったみたいに、人生讃歌?!
しかもここだけ今世紀のJ-POPから借りてきた風の唐突感&迎合感&違和感が、
涙のようにあふれて止まらないわ。
イントロで鳥山雄司が海上に溶かし流す夕陽のコロナみたいなギターや
舞踏会ノリで贅を尽くして祝福するハープなど、
メロディを超越した絢爛な音の綾織りで華やぐ正隆氏のアレンジもユートピアなのに……
二題目の詞で、飛んだ間の心の軌跡が国宝らしい麗筆表現で綴り打ち明けられるけど、
“♫生きてるって……叫ぼう”------この森田健作風白痴行為のイメージが、
聴き終えても白い夏のように灼きついて離れないの。
そもそも、永遠のもっと果て、って、どこなのよ。
想像しても遠すぎて、人知の及ばないところ……beyondlarge170
ブラックホール?あら、それは明菜の領域ね。
神?宗教?……ちょっとデカ風呂敷すぎたようね。
3形態のあくどいリリースで、私もまんまとハメられ2種買っても、
オリコン最高11位。その週の12位が
中川翔子と小林幸子のユニット「無限∞ブランノワール」で、
しみじみしたものよ。
さらにふたたびの、はないかもね……

……思い出すのは、その時点で11年ぶりだった松本隆作詞集『永遠の少女』(99)。
同じ永遠でも、こっちの方がずっと好きだわ。
つい買っちまった「永遠のもっと果てまで/惑星になりたい」の
シングルレコードサイズジャケを見たところで、これも31年前の年末から突如定番になった
ニタッベタッと貼り付くようなつくり笑顔だけしかないけど、聖子37歳時forevergirl190
『永遠の少女』のジャケで、本当にタイトルになりきり
ちょこんと小首かしげた顔を見ると、いつも失笑しちゃう。
失笑も笑いだもの、楽しいわ。
聖子史的には、聖子&小倉良&鳥山雄司トリオの鉄板時代から、
5年カットインした原田真二時代への移行期の狭間。
トリオの予定調和曲調にゲンナリ気味だったから、
十年砂漠ののちに恵まれ巡り会ったオアシスのような
人肌の潤いと温かみあるサウンドもうれしかったし、
やっぱり何より、冬の湖 氷の鏡のように冴えわたる松本隆氏の詞!
全曲ではないけれど、初婚前の至宝アルバムたちと同じぐらい聴き浸ったものだわ。
大村雅朗作曲で公認の名曲「櫻の園」の他にも、
久々に詞も曲もアレンジも歌唱も完璧で四位一体となった楽曲がいくつも。
冒頭から言葉の幻想曲“♫月のしずくで髪を洗う 星の湯船に身体横たえ”…「月のしずく」は、
サビへと近づくにつれ詞は憂いを帯びてゆくけれど、
心休まり安らぐメロディとサウンドはまるでアロマバスのよう。
これも水平線から届けられる光の道のきらめき“♫鳴り響く夕陽のオルガン”…「エメラルド海岸」のCメロ前、
翳りゆく秋の夕暮れの海の淋しさを奏で染める長めのギターソロは、ボーカル優先の聖子の曲では貴重な
演奏に耳傾き引き込まれるひととき。SUNSET BEACHに連れられ冷たい潮風にさらされ……
聖子の曲で、季節感あふれる情景があざやかに広がるのも…なんて久しぶり!boatofsorrow190
季節感……1989年以降、セルフ作品になっていちばん失われた大切なもの!
この時期の隠れた珠玉作品、
先行シングル「哀しみのボート」のカップリング「葡萄姫」も、
“♫十月の絵の具が燃え上がる森へ”…彩りさざめく季節感から始まる
本来の聖子の楽曲の基本です。
例の31年前、前年の1983年までと異なり、
大人の失恋をドラマ仕立てで巧緻に描き下ろした名曲
「いそしぎの島」「今夜はソフィストケート」、
月日を経、そのハイグレードな文彩も筆あざやかに、
その15年後のハプニング的な束の間のほんの小さな不倫を
コメディタッチで、でもちょっと危なげに詞でスケッチ。
松本隆が、30代後半の聖子に、その年齢に合った小悪魔的なズル可愛い詞を書く神業に感服したものよ。
そしてその国宝級才能に、後の15年間全く頼らなかった裸の女王様!redsweetpee190

「赤いスイートピー」、さらに「制服」の清新さが際立ってるから、
時間の経過のせいもあって
聖子の名曲=ユーミンの作品みたいな
平たいイメージになりおおせてるけど、他の作家の曲だって
「風立ちぬ」(81)から「ガラスの林檎/SWEET MEMORIES」(83)までは
シングルすべて、詞曲アレンジ歌唱も四位一体の
永遠に輝き続ける響き豊かな名曲のJewels。
B面の「愛されたいの」(82)「レンガの小径」(83)や、
アルバム曲「いちご畑でつかまえて」(81)「P・R・E・S・E・N・T」(82)pineapple140
「未来の花嫁」(82)「マイアミ午前5時」(83)も…
…一段落した時点でのベスト盤、初代『Bible』(91)で、
「渚のバルコニー」(82)から「ガラスの林檎」(83)までの
ユーミン作3曲含む宝石シングルA面6曲をすっ飛ばし、
代わりにアルバム曲をぶち込むという、
帯曰く“聖子自身がベスト・チョイス!”な男選び同様大胆すぎる曲構成は、
この時期はシングルよりむしろアルバム曲に自信アリのcandy140
デラックスな充実期だったことの証でしょう。
聖子史のみならず日本のポップス史上最強の夏曲の一つ
「マイアミ午前5時」を残した来生たかお氏は、
作家別&nice remastered BOX『SEIKO SUITE』のライナーで
自分の書いた曲がシングルにならなかったことを嘆く必要は少しもないのよ。
次の企画曲は来生氏もいいし、
「水色の朝」「愛されたいの」「未来の花嫁」「レンガの小径」などのutopia140
名曲を生んだ財津和夫氏や、
「ブルージュの鐘」「天国のキッス」「ガラスの林檎」を書いた
細野晴臣氏もいいわね。
「真冬の恋人たち」「SWEET MEMORIES」の作曲者・大村雅朗は
もう叶わないけど……急いで……早くね……。

「特別な恋人」
『A Girl in the Wonder Land』(album)
『Count Down Live Party 2011~2012』(DVD)