松田聖子『永遠のもっと果てまで/惑星になりたい」(single) | 半狂人の晩年

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石井恒の「生きていてわるいですか」


MATSUYAKKO降臨かと。matsuyakko170
怨み節調「赤いスイートピー」を目撃することになるなんて、
長生きしての紅白鑑賞も楽しいものね。
国民皆の予感どおり案の定声をタメてタメてタメまくる
ベテランシャンソン歌手風粘り腰唱法は、後半へと歌い進むにつれ
メロディとリズムをゆっくりゆるめていき、
1982年のリリース当時は、時折小首もかしげながら
練達のCandy Voiceとヤラれる表情で見る者皆キュン♡と虜にさせたラスト近く…
“♫こぉ≈のっままぁ≈≈≈≈かぁ≈え≈れっない≈≈≈≈!!!かぁ⤴え≈れっない≈≈≈≈”
…帰らせるのならばこの命の限り怨み倒してやるわと呪われそうなイカめしい顔つきで
“っ”で痛みをこらえるごとく一旦息を詰め、
腹の底で“おのれぇ~”と憎しみのあまり声もわななくようにドスの利いた低いビブラートを轟かせれば、
テレビで見てたかもしれないトシも、たぶん見てない明菜も、作曲したユーミンも
みんな、何事だよ/かしらと案じたはず。
手をかざしまばたきパチパチ天を仰ぎ見つつ“♫あぁーかぁーいぃ~~~スイ⤵ィトォーピィイ~~~~~!!!”と
さらにタメまくりつつ神主の祝詞奏上のような聖俗超越的ビブラートで締めくくれば……
松田聖子が美空ひばりに見える日が来るなんて!
ひっつめた髪型や、この二人しか似合わぬような
大物オーラを燦然と増幅させる真珠の輝きのドレスのせいもあり、
天国から不死鳥も降臨して乗り移ったかと見まごう重鎮的偉容。
「赤いスイートピー」の体を借りた「川の流れのように」を歌ってるみたいな貫禄。
あの頃の可憐なスイートピーは……どこにも見えない!
目に浮かぶのはドレス色の薄ピンクの菊の祭壇。もしくは、大ぶりな花弁の胡蝶蘭。帰らぬ人に捧げるように。

遂にひばりちゃんの歳を超え、
立ち姿の大貫禄や大ぶりビブラートは大トリにふさわしいとはいえ……あゝ無情!
松田聖子は美空ひばりのような女王ではないわ。
むしろ、裸の女王様のよう。
2年連続紅白大トリの歌じゃなかったわよね。
広告主様が恐いのか、記者会見出禁になるからか、多くのマスコミはスルーね。
金正恩と同じようにヨイショッ!しなきゃいけないのかしらん?北朝鮮と同じだなんて。
中国の媒体は、歌がアレ?だった時にはちゃんとダメ出しするわよ。共産中国より報道の自由がないなんて。
『We Love SEIKO - 35th Anniversary 松田聖子 究極(でも)オールタイム(でもない)ベスト 50 Songs -』の
~Bonus Track~「あなたに逢いたくて ~Missing You~」(Orchestral Ver.)も、alltimebest130
サビはbitter tasteのタメ歌い。
美しい日々が切れ切れに見え隠れするいにしえの遺跡に流れてるみたい。
「かこわれて、愛jing」も、フレーズ終わりは全部タメ歌いで徹底してたから、
昔から得意ではあったんでしょう…。
低音とファルセットなら難なく出るの、知っているわよ。
出したい声と、いま出る声……解っているわ。
時に冒険して…2013年末のライブDVD『2013 New Year's Eve Live Party』で201newyear'seve190
気品と貫禄たっぷりにしかと実演する
「Amazing Grace」「The Phantom of the Opera」
……近年の輝かしくまぶしい松田聖子も、知っているけれど……
“心はいつでも17才(seventeen)”的精神は確かに共通すれど
やっぱり明菜の方が合う気がするまりやに依頼した「特別な恋人」(2011)や、
31年ぶりとかナントカ仰々しい前宣伝だった昨年秋のシングルなど、
多情性ゆえの不意打ち以外は、ファンの祈りを知ってか知らずか
自作曲でまさに永遠のもっと果てまでヤリ遂げそうな体制も、naked queen?
その昨秋のシングルも美談みたいになってるけど、
「永遠のもっと果てまで」の方は、31年ぶりに聖子に書いた楽曲にしてはsplover110
ユーミンがさして乗り気でもなかったようなメロディじゃない?
「特別な恋人」同様、近所の散歩風にまったりしたテンポは、
今の聖子の年齢に合ってはいても…せっかくユーミンとのコラボなら、
Pineappleみたいな春色の花園に連れてってくれる曲を希求しちゃうのよね。
聴く方も、つい歳を忘れて。「特別な恋人」は
今の年齢だからこそ歌えるラブソングを、みたいな依頼だったっぽいけど、beyondforever150
ユーミンとの特別な機会に、歳相応の曲…聴きたくな~い!
31年前の「時間の国のアリス」より派手やかSFファンタジー
「惑星になりたい」でバランスを取ったつもりかしら。
妙なテンションでぶっ飛んだ
「Rock'n Rouge」っぽい懐かしいインパクトのこの曲、
31年前の『Tinker Bell』収録の宇宙ネタ「AQUARIUS」と続けて聴いても
31年ほどの隔たりを感じないのは、デジタルの魔法?
松武秀樹氏のComputer Programmingは、日本のポップサウンドを羽撃かせたわ。tinkerbell130
音楽は、センスね。
今を時めいてるからでなくても、
こちらの中田ヤスタカサウンドをメイン扱いにして
PVも作った方がよかったのに……とも思うけど、正隆さんの手前、それは無理ね…。

松本隆氏も、「惑星になりたい」で顕示した揚々たる余裕の詞、爽快痛快なハマりようは、
『Citron』(88)以来じゃなく『Windy Shadow』以来、これも31年ぶり。
でもやっぱり「永遠のもっと果てまで」の方が、正隆さんの手前か、じっとり気合いが入ってるのね。
サビの前半までは、日本の作詞家で最もロマンティックな文彩を編み上げる
人間国宝らしいSUPREMEなセンス全開で大好き!
“♫夕陽を絞ったジンジャーエール”…WoW!
紫綬褒章はもう授かったかしら?
Aメロで失恋して、サビの前半“♫永遠(とわ)の海の果てに立ちーー“…ここまでは完璧。
プルメリアの伝説のようなパシフィックの果て、名画(?)のクライマックス……なのに
聖子の歳相応って風情を、どこかで示唆せねばと送り送りサビの後半、
“♫生きてるって素晴らしいーーーっ! 両手広げ叫ぼう”…エエーッ!?いきなりレコードの針が飛んで
次の曲にイっちゃったみたいに、人生讃歌?!
しかもここだけ今世紀のJ-POPから借りてきた風の唐突感&迎合感&違和感が、
涙のようにあふれて止まらないわ。
イントロで鳥山雄司が海上に溶かし流す夕陽のコロナみたいなギターや
舞踏会ノリで贅を尽くして祝福するハープなど、
メロディを超越した絢爛な音の綾織りで華やぐ正隆氏のアレンジもユートピアなのに……
二題目の詞で、飛んだ間の心の軌跡が国宝らしい麗筆表現で綴り打ち明けられるけど、
“♫生きてるって……叫ぼう”------この森田健作風白痴行為のイメージが、
聴き終えても白い夏のように灼きついて離れないの。
そもそも、永遠のもっと果て、って、どこなのよ。
想像しても遠すぎて、人知の及ばないところ……beyondlarge170
ブラックホール?あら、それは明菜の領域ね。
神?宗教?……ちょっとデカ風呂敷すぎたようね。
3形態のあくどいリリースで、私もまんまとハメられ2種買っても、
オリコン最高11位。その週の12位が
中川翔子と小林幸子のユニット「無限∞ブランノワール」で、
しみじみしたものよ。
さらにふたたびの、はないかもね……

……思い出すのは、その時点で11年ぶりだった松本隆作詞集『永遠の少女』(99)。
同じ永遠でも、こっちの方がずっと好きだわ。
つい買っちまった「永遠のもっと果てまで/惑星になりたい」の
シングルレコードサイズジャケを見たところで、これも31年前の年末から突如定番になった
ニタッベタッと貼り付くようなつくり笑顔だけしかないけど、聖子37歳時forevergirl190
『永遠の少女』のジャケで、本当にタイトルになりきり
ちょこんと小首かしげた顔を見ると、いつも失笑しちゃう。
失笑も笑いだもの、楽しいわ。
聖子史的には、聖子&小倉良&鳥山雄司トリオの鉄板時代から、
5年カットインした原田真二時代への移行期の狭間。
トリオの予定調和曲調にゲンナリ気味だったから、
十年砂漠ののちに恵まれ巡り会ったオアシスのような
人肌の潤いと温かみあるサウンドもうれしかったし、
やっぱり何より、冬の湖 氷の鏡のように冴えわたる松本隆氏の詞!
全曲ではないけれど、初婚前の至宝アルバムたちと同じぐらい聴き浸ったものだわ。
大村雅朗作曲で公認の名曲「櫻の園」の他にも、
久々に詞も曲もアレンジも歌唱も完璧で四位一体となった楽曲がいくつも。
冒頭から言葉の幻想曲“♫月のしずくで髪を洗う 星の湯船に身体横たえ”…「月のしずく」は、
サビへと近づくにつれ詞は憂いを帯びてゆくけれど、
心休まり安らぐメロディとサウンドはまるでアロマバスのよう。
これも水平線から届けられる光の道のきらめき“♫鳴り響く夕陽のオルガン”…「エメラルド海岸」のCメロ前、
翳りゆく秋の夕暮れの海の淋しさを奏で染める長めのギターソロは、ボーカル優先の聖子の曲では貴重な
演奏に耳傾き引き込まれるひととき。SUNSET BEACHに連れられ冷たい潮風にさらされ……
聖子の曲で、季節感あふれる情景があざやかに広がるのも…なんて久しぶり!boatofsorrow190
季節感……1989年以降、セルフ作品になっていちばん失われた大切なもの!
この時期の隠れた珠玉作品、
先行シングル「哀しみのボート」のカップリング「葡萄姫」も、
“♫十月の絵の具が燃え上がる森へ”…彩りさざめく季節感から始まる
本来の聖子の楽曲の基本です。
例の31年前、前年の1983年までと異なり、
大人の失恋をドラマ仕立てで巧緻に描き下ろした名曲
「いそしぎの島」「今夜はソフィストケート」、
月日を経、そのハイグレードな文彩も筆あざやかに、
その15年後のハプニング的な束の間のほんの小さな不倫を
コメディタッチで、でもちょっと危なげに詞でスケッチ。
松本隆が、30代後半の聖子に、その年齢に合った小悪魔的なズル可愛い詞を書く神業に感服したものよ。
そしてその国宝級才能に、後の15年間全く頼らなかった裸の女王様!redsweetpee190

「赤いスイートピー」、さらに「制服」の清新さが際立ってるから、
時間の経過のせいもあって
聖子の名曲=ユーミンの作品みたいな
平たいイメージになりおおせてるけど、他の作家の曲だって
「風立ちぬ」(81)から「ガラスの林檎/SWEET MEMORIES」(83)までは
シングルすべて、詞曲アレンジ歌唱も四位一体の
永遠に輝き続ける響き豊かな名曲のJewels。
B面の「愛されたいの」(82)「レンガの小径」(83)や、
アルバム曲「いちご畑でつかまえて」(81)「P・R・E・S・E・N・T」(82)pineapple140
「未来の花嫁」(82)「マイアミ午前5時」(83)も…
…一段落した時点でのベスト盤、初代『Bible』(91)で、
「渚のバルコニー」(82)から「ガラスの林檎」(83)までの
ユーミン作3曲含む宝石シングルA面6曲をすっ飛ばし、
代わりにアルバム曲をぶち込むという、
帯曰く“聖子自身がベスト・チョイス!”な男選び同様大胆すぎる曲構成は、
この時期はシングルよりむしろアルバム曲に自信アリのcandy140
デラックスな充実期だったことの証でしょう。
聖子史のみならず日本のポップス史上最強の夏曲の一つ
「マイアミ午前5時」を残した来生たかお氏は、
作家別&nice remastered BOX『SEIKO SUITE』のライナーで
自分の書いた曲がシングルにならなかったことを嘆く必要は少しもないのよ。
次の企画曲は来生氏もいいし、
「水色の朝」「愛されたいの」「未来の花嫁」「レンガの小径」などのutopia140
名曲を生んだ財津和夫氏や、
「ブルージュの鐘」「天国のキッス」「ガラスの林檎」を書いた
細野晴臣氏もいいわね。
「真冬の恋人たち」「SWEET MEMORIES」の作曲者・大村雅朗は
もう叶わないけど……急いで……早くね……。

「特別な恋人」
『A Girl in the Wonder Land』(album)
『Count Down Live Party 2011~2012』(DVD)