中森明菜『BELIE』『Vampire』(covers album) | 半狂人の晩年

半狂人の晩年

石井恒の「生きていてわるいですか」

よみがえった恐竜もどきの親分みたい。 belie260
脅し、怯えさせ、掴みかかり、なぎ倒し、
ぶっ刺し、ぶった斬り、ぶっ飛ばすような
危ないど迫力に満ち満ち満ちてゴリゴリ吼え轟かす
獰猛で雄々しい歌唱に、怖れおののき驚いているわ。
いろんなことを忘れさせてくれるのよ。
まず、聴いているのがいつなのか。
1988年?……明菜もファンも私も、
ありあまる若さに耽りまくっていたあの頃……
『BELIE』1曲目「サウダージ」~
4曲目「残酷な天使のテーゼ」に至る連続大爆唱は、
驚異&脅威的無尽馬力の超爆烈歌唱集『Stock』の続き?……
1994年?……『BELIE』7曲目「ステキな恋の忘れ方」の
万物を覆い尽くさんばかりに深く寒気立つ濃霧のような乳白色の歌唱は、
初代『歌姫』内の運命悲しい山鳩の絶唱「愛染橋」と同時録音?……
1985年?…………『Vampire』のジャケで牙をむくvampire260
超ノリノリ魔女ドヤ顏&shockingな唇の彩色は、
真の天下無敵時代を象徴して
80年代の12インチシングルで一番売れた「赤い鳥逃げた」と
同列インパクトの顔力で、前衛的+挑戦的+charming。
声量、歌技、熱情、鬼気、威勢、意匠…全部全開全力熟女。
リアルに、I Missed “The Shock” だわ。
うれしい。
時をかける妖女。
明菜の幾星霜のアルマージも、
明菜を聴いて聴いて
なんとか生き永らえてきたゥン十年の人生も、
その我が人生もとうにピークを過ぎ
既に老いさらばえかけていることも……すべてすべて忘れさせてくれる。redbirdflewaway140
時間ごと 体ごと、燃え上がる気焔迫り焦げそうな明菜の歌にさらわれ、
呑み込まれるのよ。

カバー…どんだけ……発売前、
なんとなく紅茶(レモンティー)のように冷めてしまっていたけど、
事前情報で期待の先走りが溢れ、とめどなく夢の中へとけて行ったわ。
まず、“BELIE”ってタイトルだと知り、
2015年の不思議英語シングル「unfixable」以上に使用頻度低く、
日本人にとって意味がLabyrinthの英単語難題を選んだ異能にまたまた恐れ入ったのよ。
特に2011年以降、認知症患者向けのように中1レベルの英単語をアルバムに冠し続けやまぬ聖子とは
こんなとこさえも相反して。永遠の陰陽伝説。crossmypalm120nampasen120almauj120tattoo120best2-120best3-120theheat120
be+lie=嘘↔︎になる→矛盾する(→裏腹?)——このタイトルの理由をさがしてさがして、
迷い迷わされながら 聴いて……ふと、思い当たる。
それが正解かは判らずとも、思案のロンリー・ジャーニーはいつも愉しいものよ。
そして、久々にツンと貴人的に気取って
鋭角ハの字形の美しい鼻孔を誇らしげに見せつけた上向き仰ぎ顔のジャケ写と知り、
フェティシズム共々興奮に身も心もじんじん火照ってたまらなくなったわ。
……1987年~88年…明菜史上最大規模プロジェクト『Cross My Palm』の
英語アルバムジャケでアンニュイの権化のように上向きポーズをキメた後、
「難破船」「AL-MAUJ」「TATTOO」…美貌でも天下無敵と驕らんばかりに
シングル3枚続けてツンツンツンと上向きジャケで煽惑し、
たいそうこの仰角の写真映えがお気に召したのか
1988年末の明菜最大セールスアルバム『BEST ll』LPジャケでも眩惑し、
微妙な時期(1992)の『BEST lll』でも一応、存分にツンと媚惑。
壮観の極致は、波瀾後の新世紀メジャー蘇生シングル
「The Heat」(2002)のジャケよ。
明菜史最大鋭角縦幅の偉容は、特別な場所・スペインを
メインテーマに謳った覚悟や自信にも押し上げられたみたいに、
万人を見惚れさせて天を高々と刺し聳えるマッターホルンのよう。
そして14年ぶり(!)の高々と自信放つ御仰ぎ……
そうよ私は孤高で気高く、世紀を跨ぎ今なお日本一美しい歌手……
モデルのような外表だけの美しさでなく、
自らの長い歴史を制した堂々たる圧巻の神がかった美しさ!
王女のようなジャケットの超美貌と、瞽女のように命の痛みまでむき出しの超激唱。
その意外性、ambivalenceが、BELIE?……
「飾りじゃないのよ涙は」のシングルを買った遠い昔を少しだけ思い出して。
そして、美貌も激唱も、34年目の奇跡!

希代加さん、お久しぶり、19年ぶりね。
意外性は『BELIE』DVDでも飽くことなく、全曲激唱勇姿披露もさることながら、
奈落の底から地上の平安を恨み尽くし上げる憎悪の火だるまの鬼の形相、
その凄絶さに、私の中に棲む希代加もどきも縮み上がった後、
炎の血しぶきのように煽られ火の命が再び燃え上がるのよ。
「冷たい月」みたいに役づくりでもなく、『BELIE』の曲世界とも違うのに、
なぜ希代加の顔で歌い呪い続けるの?
叶わなかった残夢をなお追い続けているかのように
歌い続けることが恨み続けることであるかのように……
……荒々しく揺れ揺さぶりながら燃え広がる炎の歌、
世紀を跨げど決して揺るがず容赦なく激しく逆巻き轟く私の歌……
全史リアル体験のファンがわりとピンと来ない(であろう)これまた意外な選曲の
『BELIE』冒頭4曲「サウダージ」「やさしくなりたい」「WHITE BREATH」
「残酷な天使のテーゼ」が、 無頼のBELIEに読めるほどの夜叉顔連激唱なのは……
……ロックのつもり(?)の男J-POPもアニソンさえも、私の歌の炎で
煉獄のように焼き上げてみせるわ……spiritual boulangerie?/roaster?
購入者が一層たまげるように、って悪巧みサービスだったりして。
“とにかくみんなをびっくりさせたい、飽きさせない”
“可能な限り、歌い方も変えて……”

ええもう、霊力、神通力のようにビックリ。
政治家になってほしいぐらいに志操堅固、鉄心石腸たる不断の有言実行、愛のように徹底的だわ。

ビックリは豪華アトラクションのように続けど、刺激だけじゃなく、
フッと肩が抜けるようなすかし技のビックリも。
続く5曲目「限界LOVERS」は、
さらなる絶頂絶倫の大爆唱、すわ世紀の女豹対決か!?という凡俗な期待をネグレクト、寸止め。
超弩級爆裂ロック歌曲は、クールを装いつつも妖しく火照るジャズアレンジで化かされ、
ボーカルは故意にじりじりじらすように、ツンと横目で冷笑しつつも坊やをなだめるように。
『艶華』(2007)で、天国のひばりちゃんもきっと口あんぐり、道義的責任を問われそうなほど歌わなんだ
「悲しい酒」 みたいに、先走りに濡れ怒張し過ぎた興奮の放置プレイ。
サド明菜のニクい歌技の一つね。
「謝肉祭」は……百恵が張りつめた魔性のパフォーマンスで釘付けにした最後のシングル曲……
夢遥か遠~~い記憶の宝物のような懐かしさが溢れ出てたまらないのはなぜかしら。
そして80年代歌手のうち、ひろ子の歌ばかりカバーし続けるのは、なぜかしら。
格かしら。
80年代初頭~中期……世俗の歌手たちとは異なる聖域に祀られたような地平で、特権階級的に清白な美声を、
純潔を守りぬく誓いのように誇らしげに天高く響きわたらせていたひろポン。
讃美歌唱法が霧のようだったせいか、10代の私が青い果実だったせいか……
「Woman “Wの悲劇より”」<Special Live 2009~Empress at yokohama> empressatY100
「スタンダード・ナンバー(≒メイン・テーマ)」(2015 『歌姫4 -My Eggs Benedict-』)
「ステキな恋の忘れ方」(2016 『BELIE』)
……明菜がカバーしてはじめて、どれも悲恋の歌だと解った私のバカ。
2009年は時期のせい?去年とおととしは意図的?——明菜は3曲とも異なる唱法。
「Woman “Wの悲劇より”」は、愛を失う終幕で凍えるやせた女がまざまざと息づく、
落ちる寸前の線香花火のように忍びやかな情炎で仄めく歌唱。
「スタンダードナンバー(≒メインテーマ)」は、解脱したようなムードで、重ねた年月を誇るみたいに堅調。
「ステキな恋の忘れ方」は……悲恋の歌なら私の歌よ……とうに純潔のはずもなく、
当時から純潔も霧だったかもしれぬひろ子と、
守りぬいたものは違えども今なら張り合える、みたいな乳白色唱法。
曲世界を冷たく厚い霧の歌唱で埋め尽くし、悲恋も愛憎も霧の底深く横たえ、
絶唱カバー「愛染橋」(1994)からの30余年の視界も世界も消すほどの、
白髪魔女に命を奪われそうなほどの霧。
「ステキな恋の忘れ方」が明菜に憑かれてしまっただけでなく、ひろ子が明菜に憑かれてしまったよう。
「愛染橋」を超える気魄…現実の年月のせい?明菜にとっても百恵とひろ子は違うから?
『BELIE』ラスト3曲男歌
「もうひとつの土曜日」「One more time, One more chance」「たしかなこと」は…
もう何度も充分ビックリさせてもらったから?
『歌姫3~終幕』の続きみたいな響き趣。
全史リアル体験ファンど真ん中選曲でキメる『Vampire』も待ってたから。


年末の限定ミニアルバムは懐かしいものね。 seventeen100
オマケ語りはあれど既発曲&テキトータイトルのピクチャー盤
『セブンティーン』(1982)は、まるで子供向けだったけど、
キレイに開けるのに手こずった『SILENT LOVE』(1984)は、
それなりの概念的すと~り~仕立てでそれなりに楽しんだわ…。
グラフィカルディスクって仕立てより、silentlove100
BITTER&SWEET、水と火の両極の魔力に虜&取り憑かれてしまう3曲
『MY BEST THANKS』(1985)…
今なお一番好きな明菜の曲「ありふれた風景」は、私の命の泉。
やさしくやわらかでやすらかな暖色の声で、光にそっと照らされた悲しみを
大切にとっておきたいかけがえのない記憶の宝物のように丁寧に歌い包むの。mybestthanks160
中盤…“♫少しずつかげる 淋しい横顔……”…イマージュの翳り——
陽が少しずつ傾き薄れるような色合いで声も少しずつ翳らせ、
移ろい美しくうつむく女の横顔がありありと見えるわ。
“♫からめた指を ひとつひとつ ほどいて…”
…すこし震えながら宙でとまどう細い指先も。
レースのようにこまやかで、
淡い色づかいの水彩画のようなひかえめな声で描かれるのに、
ありありと見える風景。
「ありふれた風景」は、名画であり、名女優の名演。
歌の上手い女性歌手 ——ひばりちゃん、藤圭子、ちあきなおみ、岩崎宏美、八神純子、聖子、安室奈美恵……
誰もこんな繊細な声で巧緻に歌い描ききれない。
明菜って、本当に一流の表演芸術家。歌の人間国宝。
詞曲は「あなた」の小坂明子の奇跡。アレンジも1985年末の奇跡のよう。
この年末って、明菜の作風の分岐点。
「DESIRE」直前、水と火を偏執狂ギリギリまで極め尽くす前夜のひととき。
時代のサウンドも、デジタル徹底移行前、 まだアナログの温りも残っていた頃。
のちの暖色バラード「さよならじゃ終わらない」「痛い恋をした」も、遥か及ばぬ奇跡。若さの奇跡?
30余年延々縷々と陶酔し耽溺し渇愛し続けて変わらぬ…変われないのも奇跡のせい?
「予感」は、後にタイトルも詞もエスパーASKAの異能に恐れおののき、再録のなぜ?も霧散するほどに。
メロディに追いつくのがやっとの英語発音で依然ぶりっ子する半年前同年夏の聖子12インチ
「Dancing Shoes」~ アルバム『SOUND OF MY HEART』をぶっ飛ばすかのように威勢のいい英語唱法を、
「Don’t Tell Me This Is Love」ただ1曲だけで封印した遺憾の方が、なぜ?
性の秘奥を究めた『VAMP』(1996/限定盤じゃなかったかも)の20年後、語源の『Vampire』。
カバーアルバム発売1カ月後にカバーミニアルバム…
古漬ファン狙いうち選曲だからこっちの方こそ聴きたいのに
レコード盤だけの発売…こんなもったいつける手口も、サド明菜よね。
限定盤だし久々に『SILENT LOVE』並みに焦って買い急いでも…4カ月後vampirecd170
私もそう今はもうレコードプレーヤー非保持者向けの施しみたいに出たCDで
やっと落ち着いて聴けたわ。
そうね、獰猛アドベンチャー『BELIE』たちに比べたら唱法も慣れてて…
でもね、山本リンダ、アン・ルイス、世良公則、もんたさん——
異端的インパクトあり過ぎ原色ギラギラの原唱が
生々しく歳月の深海から轟き上がり、
懐かしむ気はなくても心中のように引きずり込まれそう……
ところが、意図的かどうか、6曲のうちリンダとアンの女原唱曲を先に置き、
男原唱4曲を後にまとめてるせいか、
明菜のボーカルがだんだん男声に聞こえてくる不思議!
男歌カバー『歌姫3~終幕』(2003)の正規曲たちより、
漏れて『歌姫ベスト』(2007)に遺された「チャイナタウン」の方が男を感じさせたのも懐かしいわ…。
「宿無し」<「セクシャルバイオレット No.1」<「ダンシング・オールナイト」<「気絶するほど悩ましい」——明菜の気配が揮発し、どんどん明男の歌になってゆく恐~い面白さ。
『BELIE』冒頭4曲の雄々しい咆哮とは違う人格の歌。
道を極めて悟りきり、大声を出さずとも凄みで震え上がらせ鎮圧する大親分の歌。
我々古狸ファンは少し解るようではあるけれど、幼少期~思春期に聴き覚え
35年以上記憶の沼底深く棲んでいた異端曲たちには、最近曲のカバーではかなわぬ魔物も憑いてしまうのね。
存在感は先の昭和50年代異端者たちに匹敵すれど、
ボーカルは——70年代の若い男のなめらかで甘い肉体美——
飾らぬ剛毅木訥な生の男くささそのままだったchar「気絶するほど悩ましい」は、
原唱とは違う人格の曲へと歌い乗り移り尽くし果ててしまったわ。
同じ詞なのに別詞版のよう。暴挙のよう。
ドス効かせすぎボーカルが、どす黒いの。
狂いゆく執念のように。 血の固まりのように。裏社会の奈落のように。
“♫鏡の中で~口紅をぬりながら~”——女を見る明男の目は血走っているよう。
騙しやがる女を許さぬ猛禽類の目。血の匂いのするボーカル。
“♫うまく行~く恋なんて恋じゃな~い~~~~~~~~×2”
長い人生の重みを命のようにかけてこの世の色事すべてを否定するように。
そしてそのすべてに放火して残滓も無残に地の果てにかなぐり捨てるように。血を吐くように。
「気絶するほど悩ましい」は、明菜男歌カバーの最高傑作だと思うわ。
男歌カバーで、原曲を乗っ取ったのは、初めて?
明菜のカバー系列の愉しみは、
オリジナルでは作家たちがよう書かんような、触れたらいかんような詞の歌を仕組むように選び…
あの世直結の凄絶な鬼気を滾らせ、歌いえぐり出し驚かし脅し迫ること。
ファンが身の毛もよだち鳥肌も立ち、たまげることを解っていて、
つむじ風にさらい巻き込み、深く昏い明菜海へとわしづかみで沈めるのよ。
初代『歌姫』(1994)「愛染橋」、
『-ZERO album-歌姫2』(2002)「秋桜」、
『フォーク・ソング~歌姫抒情歌』(2008)「無縁坂」「時には母のない子のように」————
男歌カバー集『歌姫3~終幕』(2003)冒頭「傘がない」冒頭utahime3-100
“♫都会では~~~~…”————懐かしい戦慄を超える戦慄に出逢えるなんて。
明菜ちゃん、ありがとう。
安室ちゃんみたいにファンを(おそらく)永遠に置き去りにはせず、
しばし置き去りにはしてもちゃんと戻ってきてくれるのみならず
毎年刺激をくれる!いまゾクゾクする夢を追えるなんて!
カバー…どんだけ……と今年も冷めかけていたけど、
『CAGE』も、きっと脅迫してくれる、沈めてくれる……ええ、悦んで明菜の奴隷に。