>オリジナルフルアルバム

>タイトル:幻燈

>アーティスト:ヨルシカ

>リリース日:2023年 4月 5日

>記事作成日:2024年 1月 29日






聴きました!


ヨルシカの最新作。

ヨルシカが新作を出したのは知ってたんですが、ぶっちゃけ「なんかちょっとめんどくさそうな感じだし(詳細は後述)、まぁチェックしなくてもいっか〜」な感じでスルーしちゃってて(笑)。でも、ドラマ『魔法のリノベ』をレンタルで見始めたのですが本作収録の主題歌『チノカテ』が物凄く良くて。遅ればせながら、改心(?)して聴いてみた次第です。


この作品、物体としてのCDは付属しておらず、加藤隆さんという方の描いた絵で構成される“画集”なんだそうな。その絵にスマホのカメラをかざすと、音楽が聴けるとの事で。斬新というか、革新的というか、凝ってるというか…ではあるんだけど、ぼくは古い人間なので、そういう新しい事に対して、面白がるというよりは「めんどくさいな」って思ってしまったんです。本当にごめんなさい。

ぼくはサブスクで聴いてるので“10曲入り”でしたが、フィジカル(と言うのかすら分からんけど)で購入すると、計25曲入りの大ボリュームなんだそうな。




『都落ち』

ちょっと意外な始まり方。ヨルシカと言ったら、緊張感のあるクールな作風のイメージが強いので…この曲の、(緻密に編み込まれたアレンジである事は変わらないけど)ゆったりとしていてどこかほんのりとコミカルな雰囲気すらあるこの曲から始まる意外性。悪くない。


『ブレーメン』

ブラス(シンセか?生音だとしたら、だいぶ贅沢な使い方だよな…)も入った、華やかな曲。でも、そのブラスも別に“ゴリゴリ”ではなくて、要所要所でアクセント的に聴こえてくるだけなので、全体としてはさらりと聴けちゃうアレンジ。最近の音楽シーンはビフテキ!フォアグラ!角煮!みたいなコッテリした音の作品が多いので、こんな感じで“重たくない”音楽は貴重。重たくないけど、出汁は昆布で水から取ってるし、野菜は面取りしてあるし…みたいな丁寧さは行き届いていて(なんの話だ)。


『チノカテ』

これもまたサウンド・アレンジ面で素晴らしいけど、何よりもメロディラインが抜群に良い。一度聴いたら忘れられなくなるキャッチーさと、喜怒哀楽の全てが感じられる巧みな展開と。全体的には感傷が強めではあるけど、でも端々で気分が軽くなるようなポジティブなフレーズもあるし、静かな激情を感じる瞬間もある。

歌詞も秀逸。「飲み掛けの土曜の生活感」という歌詞があるけど、まさに生活感というか、日常の匂いを感じさせる世界観。でも、ただ日常の描写に終始しているのではなく、日常の中でも“その日常を、一歩進める瞬間”が描かれているようにぼくには感じられて。しかも、意気揚々と自信満々に踏み出す一歩ではなく、喪失感を抱えながらの一歩。ぼくも、「期待と希望に溢れての」とは言い切れない移住と転職を控えているので、この曲の温度感に過度に同調しちゃってるのかもしれない…。

それにしても、なんとも寺山修司を読みたくなる曲ですね(笑)。


『月に吠える』

タイトでシャープなサウンドが限りなくオシャレ。切れ味鋭いベースが、近年ベース音に傾倒し切っているぼくの耳に心地良い。

冒頭3曲の柔らかで和やかなサウンドとは真逆、とにかくクールで切れ味鋭く緊張感のある雰囲気。その緩急にヤラレます。


『451』

ゲストボーカリストさん?…でもフィーチャリング表記無いしな……と思ったら、なんと、n-bunaさんがメインボーカルだとの事。そういえば、他の曲でも入ってるコーラスと同じ声だもんな。ちょっとスモーキーな歌声、めっちゃカッコいいじゃんか! なんで自分が単独メインボーカルのバンドを組もうと思わなかったんだろうか(笑)。

普段はこのユニットの作品にあまり出る事のない、パッショナブルな側面がフィーチャーされた曲。


『又三郎』

疾走感あふれるアッパーチューン。うん、ぼくのヨルシカへのイメージって、こういう感じだなぁ。

ボーカルラインも華やかだけど、とにかくギターの存在感が。動きも手数も多いギターが、ずーーーっと鳴ってる。でも、こんなにも奔放に“歌い”まくってるギターなのに、あくまでスタイリッシュでシュッとしているのが凄い。暑苦しさがゼロ。


『老人と海』

同じギターでも、前曲とはキャラが真逆の落ち着いた雰囲気。前曲のギターが体育会系だとしたら、この曲のギターは文系。

サビは、suisさんのメインボーカルにn-bunaさんがユニゾンでコーラスを重ねてる。こういうの聴くと、いつかぜひ、suisさんとn-bunaさんの“ツインボーカル”の曲を聴いてみたくなるな。どちらの歌声もかなりぼく好みなので、畳み掛けて欲しい(笑)。


『左右盲』

落ち着いた曲。でも、落ち着いた雰囲気の中に、情念を感じた気がする。歌詞からなのかなぁ…歌詞からなんだけど、言外に。言葉と言葉の隙間から、物凄い感情の動きを感じた。アレンジが落ち着いているからこそ、その感情の動きが強く伝わってきたのかな。

派手な曲ではないけど、なんというか物凄い曲だと思う。鳥肌が止まらない。


『アルジャーノン』

仕事柄、『アルジャーノンに花束を』は読んでいるし、そこで感じるものも多かった。この曲は、ぼくが解釈するあの物語とは雰囲気がちょっと違ったけれども、あの物語にある葛藤と喪失感は、この曲にもあって。だからなんか、泣きたくなった。


『第一夜』

ピアノを軸にした、儚げなオケ。ボーカルも、繊細で感傷的でぽつねんとした孤独感を放っている。淡いというか、幻想的というか…どこか現実離れしたような、朧げな輪郭。その感じが何かに似てるなと思ったんだけど、そうか、歌詞にもある“夢”だ。厳密には、夢から覚めたあとにそれを思い返した時のような、ちょっとぼんやりした感覚。




そんな、計10曲。


いやぁ…良かった。聴かずじまいで終わらせなくて、本当に本当に良かった。

多分、前作『盗作』で、ちょっとネガティブなイメージを持っちゃったんなよな。アルバムタイトルには、センセーショナルな言葉を使う事で耳目を集めようとしている印象を持ってしまったし、歌詞にはシニカルな表現や主張が多過ぎて“胃もたれ”してしまった。

でも、本作はどうだ? まさに文学的な、知的でスタイリッシュな曲タイトルが並び、歌詞には日常と地続きの喜怒哀楽が溢れている。アレンジや歌い方にも、“トゲ”が無くて聴きやすい。非常にマイルドな仕上がりじゃないか。聴き手として、凄く寄り添ってもらってる感覚がある。

本作を踏まえる事で、前作『盗作』の評価もぼくの中でだいぶ上がりました。今回のような穏やかな作品があるからこそ、皮肉と刺激に満ちた前作の存在価値が出来るというか。2枚を持って、人が持つ二面性とか多様性みたいなものの両方を補完してくれてる感じがするというか。


…なんか前作『盗作』の感想みたいになっちゃったけど(笑)、本作は本当に良作だと思います。ちょっとだけ疲れちゃった時とか、平気なフリして頑張んなきゃいけない時とか、そういう時に聴くと少しだけ肩の力が抜けるというか。「よぉし頑張るぞ!」というよりは、「まぁ、程々で行くか」と思えるようになる作品。ぼくにはそう感じられました。






お気に入りは、

#01 『都落ち』

#03 『チノカテ』

#04 『月に吠える』

#05 『451』

#07 『老人と海』

#08 『左右盲』

#09 『アルジャーノン』






この作品が好きなら、

・『THE BOOK』/YOASOBI

・『Sun Dance』/Aimer

・『Mining』/kojikoji

などもいかがでしょうか。






CDで手元に置いておきたいレベル\(^o^)/














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