Richard Wyandsというピアニストは自分が大好きなMusicianのアルバムで結構ご機嫌な演奏してくれていて、ずっと注目していた。ところが、その実力のわりにLeader作が少ない。これは、かなり残念であるが、Wyandsが参加したアルバムは、必ずそれなりのQualityを約束してくれるわけで、本人がどう思っているかわからなないけれど、これほど名脇役で実力を発揮してきたピアニストであれば引く手あまたで、そっちの方で忙しくてLeader Albumを出すどころじゃないのかと思ってみたり。Bandleaderとしての野心を持たなかった、このCaliforniaはOakland生まれBerkeley育ちの名ピアニストは、7、8歳の頃からピアノを弾きClassical Musicの教育を受け、10代でプロとして演奏を開始しSan Francisco State Collegeで学んでいた。50年代初頭からSan Franciscoの人気のNightclub Black HawkのHouse Bandの一員として活躍し、その後Cal Tjaderと演奏したり、56年にはElla FitzgeraldのMusic Directorを務めたり、拠点を移したCanadaのOttawaのClubで歌伴をした後、Carmen McRaeとTourをして58年にNew Yorkに入ると、Jerome RichardsonやCharles Mingusのアルバムに参加、60年代に入ると Gigi GryceやOliver Nelson、Gene Amons、Etta Jones、Roy Haynes、Roland Kirk、Richard Williamsらのアルバムに参加、Illinois Jacquetのバンドで演奏し65年から74年まではKenny Burrellと一緒にやっている。そんな伴奏者として数々の一流の仕事をやり遂げた後、ようやく初めての自身のLeader Albumとなる本作をDenmarkのJazzcraft Recordsからリリースする。これが最高で、歌伴ピアニストのアルバムは名盤多しという説を裏付ける隠れた傑作となっている。次のLeader作が出るまでに長い時間がかかってしまったが。本作ではベースにはNina SimoneやBetty Carterの歌伴をしていたLisle Atkinson、ドラムスにはDizzy GillespieやRoy Ayers、Sonny RollinsとやっていたDavid Leeを迎えたPiano Trio。Standardも素晴らしいが自作曲も中々の出来である。
『Then, Here And Now』はRichard Wyandsが78年にリリースしたアルバム。
アルバム1発目はWyands自作曲の“Yes It Is”。イントロのBlock Chordsから激カッコイイ。Sharpなタッチから繰り出されてくる躍動感に満ちたフレージングに心が躍る。
名Trombone奏者J. J. Johnson作の“Lament”。Savoyから54年にリリースされたアルバム『Jay & Kai』に収録されたBalladの名曲でMiles DavisやChet Bakerも名演を残している。Wyandsもイントロから惹きこまれ、センスの良さを感じさせる演奏が素晴らしい。
Charlie HadenとHampton Hawesの演奏やFrank Sinatraの歌唱でも知られるStandard“As Long As There's Music”は躍動感に満ちた優美なWaltzで楽しませてくれる。小気味よいタッチで次々と流麗なフレージングを繰り出してくるWyandsに脱帽。これは最高。
自作曲“Lenora”は典雅な旋律を浮かび上がらせるBossa Nova調のリズム隊が心地良い。
56年公開の映画『The Scarlet Hour』のために書かれNat King Coleの絶品のVocalが楽しめる“Never Let Me Go”はWyandsのピアノ独奏で披露される。Bill EvansやKeith Jarrettが素晴らしい演奏を残してきたこの曲を、Wyandsもまた趣向を凝らしたイントロから独自の世界観で見事に演奏している。さりげなく技巧が散りばめられた演奏に注目。
Standardの“Yesterdays”はイントロのChordとMelodyの鳴らし方が絶妙でなんと心地良いツボを突いてくることよ。
最後をシメるのはDuke Ellingtonの“Blue Rose”。Ellingtonが同名タイトルのDebut AlbumをリリースしたRosemary Clooneyのために書いた曲。Wyandsの小粋にSwingする演奏がご機嫌である。
(Hit-C Fiore)