Betty CarterのScatは、やっぱりいつ聴いてもスリリングでカッコイイ。Jazz Vocalといわれたら、やっぱりBettyのように、まるで楽器が演奏するように即興性を取り入れたScatを盛り込んで、演奏者たちと丁丁発止することができるSingerであることが重要である。勿論、Jazz Vocalのもう一つの視点として、旋律やChord進行と共に歌詞が描き出す世界観を如何に情感豊かに伝えるかということもある。Betty Carterといえば、前者を代表する圧倒的技巧と高いCreativityを持った代表的存在であることが知られている。ややもすれば、その高い技巧ゆえにBettyは後者の世界については相応の評価を得られていないようにも見受けられる。自分もかつてはBettyのScatの技巧のみを追求していて、全くBettyのそういう才能と魅力に気づかないでいた。そして本盤に出会い、針を下した時の衝撃を今でも忘れない。なんという情感に満ちた世界観をBettyは描き出しているのだろう。そこには抑え気味に歌いながら、Melodyと歌詞の持つ世界観を見事に解釈し、Carmen McRaeがかつて“ There's really only one jazz singer-only one: Betty Carter.”と語っていたように、Jazz SingerがJazz Singerであるお得意のImprovisationnalなScatも披露しながら独自の世界を作り上げているBettyの才能が見事に発揮されている。技巧的なScatはむしろ控えめで、Jazz SingerのInterpretationとして、ここでBettyが自らの持てる力を出し切っているようにも思える。ピアノに名手Harold Mabern、ベースにSonny Rolinsとの演奏で知られるBob Cranshaw、ドラムスにはThe Cannonball Adderley QuintetのRoy McCurdyというPiano Trioをバックにして、必要最小限の研ぎ澄まされた4人が生み出す音世界。それは、なんと美しく深みを湛えたものなのであろうか。Bettyの歌声が流れ出した瞬間に時が止まってしまう。
『Inside Betty Carter』はBetty Carterが64年にリリースしたアルバム。本作はBetty Carterの自作曲が初めて収録されたアルバムである。
アルバム1曲目はChet Bakerも歌っている大好きなStandard“This Is Always”。典雅なピアノで始まり、しっとりと歌い上げるBettyのVocalは最高としか言いようがない。
ベース・ランニングで始まるRichard Rogersの“Look No Further”。前半のベースのみをバックに歌い上げるBettyの歌声にゾクゾクさせられる。ここではBettyお得意のScatが飛び出し、その技巧が存分に発揮されたナンバー。
これまたピアノとベースとBettyのVocalだけで独自の世界を作り出しているStandard“Beware My Heart”。しっとり抑え気味に歌うBettyのなんと情感豊かなこと。もう、いつまでも浸っていたい世界。
疾走感に満ちたリズム隊にのってBettyの圧倒的な技巧がは本領発揮の“Something Big”。緩急自在のリズムで見事な歌いっぷり。
抜群のリズム感でキレキレで歌い上げる“My Favorite Things”。これまたカッコイイっす。
これまたBettyの抜群の歌唱力が光るSammy Cahn、Jule Styne作の珠玉のBallad“Some Other Time”。ここでも抑えたVocalではあるが、伸びやかな歌声といい、タメをきかせた歌い方といい素晴らしい。
上述のBettyの自作曲“Open The Door”。ここでは淡々と歌いながら深みのある世界が徐々に展開されていく。
アルバム最後をシメるのはFran Landesman作詞Tommy Wolff作曲の“Spring Can Really Hang You Up The Most”。59年に上演されたBroadway Musical『The Nervous Set』にFeatureされたStandard。ゆったりとした曲調でのBettyの情感に富んだ深い味わいのある表現力に脱帽。
(Hit-C Fiore)