Mingus Moves/Charles Mingus | BLACK CHERRY

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 今年はCharles Mingus生誕90年である。初めてMingusを聴いた時は、どこが良いのかさっぱりわからなかった。2度目に聴いた時はMingusのベースが上手いことは良くわかった。Mingusの良さを本当に理解できるようになるのには結構時間がかかった。いや、今でもわからないところがあるかもしれないが、Mingusの作品は殆んど、どの作品も大好きになってしまった。Mingus食わず嫌いの人は結構多いのではないだろうか?大体、先入観が邪魔をしすぎているわけで、Mingusの場合は音楽以外の部分での話が先行しすぎて、実際の音楽そのものに対する純粋な入り方をする前に、まず構えてしまう人が多いんじゃないだろうか?
 それと代表作として取り上げられるのがいつも『直立猿人』というのもどうかと思ってしまう。Jazz史上に残る素晴らしい作品であり、Mingusの名を一躍有名にした作品である事は事実であるが、Mingusにはもっと入りやすい作品やRhythmが躍動的な作品、分かり易い作品、音楽性が高い作品やカッコイイ作品がたくさんあるのである。勿論、Mingusの場合、その灰汁が強い作品ほどMingusらしさが出ているわけで、一度その魅力にとりつかれてしまえば、抜け出せなくなるのだが、最初に、そういう作品で固定観念を持ってしまうと、他の素晴らしい作品に対して純粋に接する機会を失ってしまうかもしれない。比類なきComposerであり、Bandleaderであり、BassistであるのMingusは実に多彩な顔を持つ音楽家である。『直立猿人』もMingusの、その幅広い音楽性が発揮されている多くの作品の中のほんの一部分でしかない。自分は、初めてMingusのカッコ良さを感じたのはMingus晩年の作品を聴いた時であった。その後、Mingusの作品を手当たり次第に聴きあさり、その奥深さを知って今では一端のMingusian気取りである。64年のMingusや50年代後半からの黄金時代だけではなく、70年代のMingusやBethlehem時代や50年代初期のMingusも最高にカッコイイのだ。
 特に最近、復活後の70年代Mingusの作品とDebut時代の作品を何回も聴き返している。『Let My Children Hear Music』のMingus自身によるLiner Notesを読んだ時の感動は忘れない。Gentle Giantの『Acquiring The Taste』の有名なあの言葉と同じ位、自分にとって大きな影響と指針を与えてくれた言葉である。音楽を知れば知るほどMingusの奥深さを少しは理解できるようになってきたMingusの仕掛けた謎を解き明かしていくのは、この上ない楽しみである。70年代のMingusも是非、多くの人に聴いてほしい。

 『Mingus Moves』は73年AtlanticからリリースされたCharles Mingusのアルバム。しかし、これまたなんというジャケットなんだろうか?こりゃ、普通は購買意欲を失うわな。Eric DolphyJaki ByardTed Cursonもここにはいない。けれど、 George AdamsDon Pullenというツワモノが新戦力として加わったのが大きい。Trumpet奏者のRonald Hamptonも加わった。何より長年Mingusとコンビを組んできたDannie Richmondが戻ってきた事も嬉しい。
オープニングは崇高なムードで始まる“Canon”。AdamsとHamptonが交互にThemeを吹き、タイトル通り厳かなムードに満ちた精神性の高いナンバーで、AdamsもPullenもやけに大人しいと思っていたら、続いてMingusがBeatを刻みHamptonがThemeを繰り返すバックでAdamsさんが爆発しとりやす。と思えば、すぐにまたThemeに戻ってあっさり終了。
続く“Opus 4”は、タイトルが謎だ。どういう意味での作品 4、そして2曲目の配置なんだろう?MingusはRhythmパターンが鮮やかに変化しながら曲に緩急をつけるのが得意であった。70年代Mingusは、さらに民族音楽のRhythmや現代音楽のメロディーを絡めながらSwingyに展開していく手法が際立つ。この曲もハチロクの躍動感を効果的に取り込んでいる。Polyrhythmなパターンを挟みながら刻々と変化するRhythmにのってPullenやAdamsが痛快に暴れまくる。
MingusのバンドにもいたドラマーDoug Hammond作の“Moves”。Mingusの名曲を歌ってきた女性SingerHoni Gordonと作者のHammond本人がDuetしておりやす。この曲は、HammondのTribeからのリーダー作『Reflections In The Sea Of Nurnen』でも取り上げられている。
Sy JohnsonによってArrangeされたRetro-Bebopな“Wee”。メンバーも水を得た魚のように弾けておりやす。
George Adams作の“Flowers For A Lady”はLatinのRhythmにのってHamptonTrumpetが素晴らしい。Pullenのソロも良いですなあ。
Don Pullen作の“Newcomer”は愛娘に捧げられたナンバー。Fluteが効果的なModalなナンバー。
最後をシメる“Opus 3”は10分を越える大熱演。Cluster Note連発どころか得意の手の甲奏法でギャンギャン暴れるPullenと、ど根性BlowのAdamsがぶちかます。実は、ニンマリ微笑むMingusの手の平の上でド派手にやらかしているのが何となく微笑ましい。

74年7月のイタリア Piazza Del Popoloで行われた Umbria Jazz Festivalのステージから。
Hamiet BluiettRonald Hamptonに代わって参加している。
Opus 3/Charles Mingus 5tet

(Hit-C Fiore)