今年は人生で一番仕事をした年かもしれない。ありがたいことに、この何年か仕事の量は増え続けている。仕事をした分、自分の好きなことも思い切り楽しみたいところだが、残念ながら時間というのは限られているのだ。だからこそ、好きなことをする時間はかけがえのない至福の瞬間の連続なのだ。自分へのご褒美は何かといえば選びに選んだ好きなMusicianのLiveを観にいくこと、そして今年はなんといってもGentle Giantの30枚組Box。これが売れているというから驚きだ。ようやく時代が彼らに追いついたというべきか。彼らが約半世紀前にやっていたPolyrhythmやPolytornalといった手法や交錯する内的宇宙が生み出す映像的で時空を超えた多元的、多層的音楽がJazzやRock、Pops、Soulの世界でもようやく楽しんでもらえるようになったのが大きい。Solangeの新作『When I Get Home』は、そういった後者の手法に明らかに共鳴するものだ。さらに、性別や国籍、時代を軽々と超越してしまうかのごとく、ありとあらゆるBorderを越えていこうとする音楽、正しくHermeto PascoalのいうところのUniversal Musicなのだ。決してChillやAmbientなどという安易な言葉では語れないSolangeの新作は、そういう意味で歴史的な作品だ(映像も含めて)。こうして音圧と音数で圧倒しようとする中身のない音楽、猛威を振るうかに見えた極端でMachismoで暴力的ともいえる手法は明らかに古びたものとなり終焉を告げることになったのだ。そして、もはやサビとかAメロとか、そんなことを意識するのはどうでも良くなっている自分がいる。Imaginativeで心地良くChord ProgressionやRhythmやStructureから解き放たれAtmosphereを重視する音楽。映像や風景、感情、香りや懐かしい思い出を喚起させる音楽、そこでは、時代や人種や性別を越えたさまざまな人々の想いやさまざまな物語が時空を超えて交錯していくのだ。それが可能になったのはSamplingを用いたHip Hopや音楽制作でDAWが普及し、創造性さえあれば従来困難で実現不可能であった音の構築が思いのままに組み立てられるようになったことが大きい。
それにしても、この10年で自分の作曲方法は大きく変化した。勿論、上述のようなTechnologyの進歩によって楽曲の制作方法も大きく変わったこともある。そこで、作曲という行為は、まず何から始まるかといえば、数々のパターンがある。旋律が思い浮かぶと、まずはピアノやギターで鳴らしてみる。最初から、そこに和声が同時に思い浮かんでいる場合もあれば、そうでない時もある。あるいは、ベースのRiffやあるパターンのドラムスから始まって、そこに思いついた心地良い上モノをのせていく場合や最初に歌詞があって、そこに旋律や和声をつけていく場合、AccordionやTrombone、Vibraphoneなどの響きがあって、それらの旋律や和声をつけていく場合などがある。最初に漠然としたImageがあって、それに旋律や和声、相応しい音響を創り出すこともある。そしてそういった様々な作曲過程や方法があって、自分としては、なるべく自然な思いつきを重視するようになってきている。この5年は旋律重視、和声は必要最小限、そして浮かび上がっていく旋律のまま、ギターで作曲することが増えている。ギターという、鍵盤よりも制限のある楽器、だからこそ、そこから新しくて面白い、思いつかないようなものが生まれてくるのだ。Acousticでは、それはずっと感じていたが、今年はElectricでもさらなる様々な可能性を思いついた年でもあった。振り返ってみれば、3年連続のHermeto Pascoal e Grupoの来日公演に創作のエネルギーをもらい、Lage LundとPedro Martinsの新作に新しい可能性を感じ、Philip CatherineとFlávio Venturiniの未だ衰えを知らぬ創作意欲、Itiberê親子のすべてのBorderを越えたCreativeな音楽愛に改めて音楽の奥深さと素晴らしさを深く心に刻み込んだ年であった。
(Live部門) 月日順で2019年に観たLiveから選出
Miroslav Vitouš Trio
3月7日@ Cotton Club
Guinga & Mônica Salmaso Japan Tour 2019
4月10日@ 練馬文化センター
Hermeto Pascoal e Grupo Música Universal Japão Tour 2019
5月11日@ FUJI & SUN
5月13日@ Billboard Live Tokyo
Jazz Rock Legends Vol.1
Area/Arti & Mestieri
5月18日@ Club Citta'
Sukiyaki Tokyo 2019
Aca Seca Trio
8月28日@ 渋谷 WWW X
André Mehmari Piano Solo 2019
9月13日@ Meguro Persimmon Hall
Ralph Towner
9月29日@ 高崎芸術劇場 スタジオシアター
Embryo
10月13~14日@ 東高円寺U.F.O. CLUB
Tom Zé
10月31日@ 三鷹市公会堂 光のホール
Itiberê Orquestra Família Japão
11月3日@ FESTIVAL de FRUE 2019
(新譜部門)
Terrible Animals/Lage Lund
When I Get Home/Solange
Paraíso/Flávio Venturini e Neto Bellotto DoContra
La Belle Vie/Bex, Catherine, Romano
Vox/Pedro Martins
This Is How You Smile/Helado Negro
Manoir de mes Rêves/Philip Catherine, Paulo Morello, Sven Faller
Rã/André Mehmari, Bernardo Maranhão Alexandre Andrés
Piñata Interior/Agustina Cortés
Little Electric Chicken Heart/Ana Frango Elétrico
(再発&発掘部門)
Unburied Treasure/Gentle Giant
Shades Of Blue/Don Rendell Ian Carr Quintet
Two Concerts (Lagos 1979 & Bochum 1990) /Volker Kriegel
Welcome To The Vault/Steve Miller Band
Torrid Zone (The Vertigo Recordings 1970 - 1975) /Nucleus & Ian Carr
Rischkas Soul/The Wolfgang Dauner Group
On A Misty Night/Karin Krog & Georgie Fame
Cristo Redentor/Harvey Mandel
On King 1957-1959 Plus Her 1954-1956 Blue Lake & Chess Recordings/Lorez Alexandria
Consequences/Lol Creme Kevin Godley
本年一年ありがとうございました。
来年が皆さまにとって良い年でありますように。
◎Hard Eights/The Lage Lund Trio
◎Things I Imagined / Down with the Clique/Solange
◎December/Bex, Catherine, Romano
◎Viniente/Agustina Cortés
◎So Sincere/Gentle Giant
(Hit-C Fiore)






