この国は戦争に負けたのだそうだ。
占領軍の先発隊がやってきて、町の人間はそわそわ、おどおどしている。
はるか昔にも鉄国に負けたらしいけれど、戦争に負けるのがどういうことなのか、町の人間は経験がないからわからない。
人間より寿命が短いのだから、猫の僕だって当然わからない──。
これは猫と戦争と、そして何より、世界の秘密のおはなし。
どこか不思議になつかしいような、誰も一度も読んだことのない、破格の小説をお届けします。
ジャンル分け不要不可、渾身の傑作。伊坂幸太郎が放つ、10作目の書き下ろし長編。
なんだろうか。
ちょっと懐かしいような気がした。
この読後感は「オーデュボンの祈り」に似ているかもしれない。
冒頭、まず領民たちに慕われている冠人という国王が、鉄国の兵士たちに殺害される。
戦争に負けるということはこういうことか。
何をどうされても文句が言えない状態になるということか。
そこにはただただ恐怖がある。
そして、場面は変わって。
その国とはまったく関係ない、おそらく僕らが生活している現代日本で当たり前に生きているフツーの男が、草むらで、蔓に縛られ身動きがとれなくなっている。
そして、その男に猫が話かけている。
その猫の話というのが、冒頭の国王殺害のシーンから始まる、長い長い物語だ。
猫の話は結構訳が分からない。
その国には「クーパーの兵士」という習慣(?)があって、毎年、兵士が選抜されて、クーパーというものを倒しに行くという。
クーパーってなんだというと、杉の樹が変化した化け物で、なんでもクーパーの樹液(?)を浴びると、兵士たちは透明になってしまうらしい。
で、そんな風習のある国が、鉄国に戦争で負け、そして支配されているという。
本当によくわからないんだ。伊坂節。
でも、その国民たちのキャラクターがシンプルにわかりやすく愉快に描かれていて、
よく読むとかなり悲惨なことも書いてあったりするのに、ついつい笑ってしまう。
国王の息子である酸人の裏切りっぷりとか、人非人ぶりとか、狡猾なところとか、これでもかっていうくらいに悪役として描かれていて、いっそ清々しいくらいである。
わけがわからん。この物語はどこにたどり着くんだと思っているのに、
知らず知らずのうちに物語世界に引きずり込まれ、何の違和感も覚えずに読んでいる自分に気がつく。
伊坂幸太郎さんの作品っていうのはだいたいがこんな感じだ。
異色のファタジーだと思って読み進めていると、ラストでびっくりさせられること請け合い。
たいしたトリックじゃなくて、よくある感じの仕掛けなのだけれど、
そもそもこの物語にそんなミステリ的な仕掛けがあるなんて想像もしていないし。
※このあたりからちょっとだけねたばらしをします。
立派だと思われていた国王は自己保身しか考えていないダメ人間だったし、
鉄国の兵士だと思っていた者たちは元クーパーの兵士だったし、
そもそもクーパーなんて存在していなかったし、
塀に囲まれたちいさな国の中で平和にのんびりと暮らしていたら知らなかったことがたくさんあって、
いろいろな真実が語られ、世界を見る目が変わります。
変わらないのは、酸人はやっぱりどうしようもない奴だっていうことくらい(笑)
知ろうとしなければ知らないままいくらでも生きていける。
それはたぶん現実も同じ。