全編書き下ろし。
超人気作家たちが2年の歳月をかけて“つないだ”前代未聞のリレーミステリーアンソロジー。
リレー小説の定義とはなんぞや。
僕は勝手に、複数の作家が一章ずつ物語を書いていってひとつの長編小説を作るものだと思っている。
たとえば、二階堂黎人、柴田よしき、北森鴻、歌野晶午、愛川晶、芦辺拓らが繋いだリレーミステリ「堕天使殺人事件」。
たとえば、石持浅海、黒田研二、高田崇史、鳥飼否宇、松尾由美らの「EDS緊急推理解決院」。
極めつけは、笠井潔、岩崎正吾、北村薫、若竹七海、法月綸太郎、巽昌章の「吹雪の山荘 赤い死の影の下に」。
各作家たちが誇るレギュラー探偵&ワトソンが活躍するという豪華リレーミステリ。
僕がパッと思いつくのはこのくらいだけれども、これら3冊いずれも全く面白くなかった。
かなりのメンバーを集めているにもかかわらず、本当にもうびっくりするくらい面白くなかった。
プロ中のプロたちが書いている作品なのに、そのままどこかの新人賞に応募してもせいぜい一次突破くらいが関の山だろうなあと思った。
それだけリレー小説っていうのは難しいのだろうなあと思う。
さて本作であるが、トップバッターは日本を代表するストーリーテラーの宮部みゆきさん。
この天才をもってしても面白くならないなら、たぶんリレー小説には未来はないと思う。
で、読んでみた。
やば。チョー面白い。
イラッとさせられる同僚についての愚痴を言い合う先輩と後輩。
居酒屋でよく見かけるシーンからはじまって、自然な流れで後輩君が「人でないもの」についての話をはじめる。
彼が少年であったころに遭遇した、「家」にまつわる恐怖の物語。
そして、先輩にはとうとう語らなかったけれど、その「家」の物語のもっともっと恐ろしい結末。
いやーホラーだわー。本当に。
ホラーってやっぱり語り口が一番大事だよね。題材ではなくて、どう語るか。
ミヤベさんのストーリーテリングの力だよ。
で、この作品からバトンを渡されたのが同じ女流ミステリ作家の辻村深月さん。
あ、リレー小説っていってもストーリーとキャラクターを引き継いで物語を続けていくわけじゃなくて、プロットを繋いでいくっていう意味での「リレー小説」なわけね。
でもね、講談社に教えてあげたい。
これは「リレー小説」じゃなくて「アンソロジー」っていうんだよ、って。
(って思ったらオビには「リレー・ミステリーアンソロジー」って書いてあった。やり口がキタナイな)
……まあ、でも一般的なリレー小説とは違って失敗しないよねこのスタイルなら。
辻村深月さんの「ママ・はは」はミヤベさんの紡いだ物語から「ホラー」「変化する写真」という要素を引き継ぎ、さらに「正常であったように思われた語り手が、実はそうではなかった」というスタイルのオチまで踏襲するという、まさにこれはリレーと言っていいでしょう。
ミヤベさんのプロットをしっかりと引き継ぎながらも質の高いホラー小説になっています。
第二走者も優秀で、これは僕が考えていたリレー小説とはちょっと違うけれど、アンソロジーとしては非常にレベルが高い。
と思ったのはここまで。
後続の薬丸岳、東山彰良、宮内悠介はそれぞれ、
「リレーしているのはホラーってことだけ」
「それだとリレーアンソロジーではなくてただのアンソロジー」
「そもそも本質的にホラー小説の意味がわかっているのか」
などとツッコミを入れたくなるような出来で、せっかくの第一走者と第二走者の好走がまったくの無駄。
そういう意味ではたぶんバトンを放り投げて明後日の方角に走り出したのは三走をつとめた薬丸岳で、彼の責任は非常に大きい。
人選を誤ったな講談社。