「となり町戦争」 三崎亜記 集英社 ★★★☆ | 水底の本棚

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ある日、突然にとなり町との戦争がはじまった。だが、銃声も聞こえず、目に見える流血もなく、人々は平穏な日常を送っていた。

それでも、町の広報紙に発表される戦死者数は静かに増え続ける。

そんな戦争に現実感を抱けずにいた「僕」に、町役場から一通の任命書が届いた…。

見えない戦争を描き第17回小説すばる新人賞を受賞した作品。


となり町戦争 (集英社文庫)


僕は梗概を読んで「バトルロワイヤル」のような、


日常の中に突然訪れた異常事態の物語を想像した。


昨日まで平和に暮らしていた普通の人々が、血で血を洗う戦いを繰り広げる、そんなSF物語なのかと思った。


しかし、その想像は意外な形で裏切られた。


戦争は確かに起こっている。


主人公のもとに届く町の広報誌には「戦死者」の数がはっきりと記載され、その数はどんどん増えていく。


けれど、戦いの様子はまったく描かれない。主人公もまったく身の危険を感じることもなく、普通にとなり町を通過して出勤していく。


この戦争は、町おこしで行われるお祭りと同じように、事業の一環なのだと説明がある。


確かに「軍需」という言葉があるように、戦争は経済を活性化させる。


町の人たちの気持ちを一体化させ、地元への愛着を持たせるという効果も期待できる。


考え方としては合理的だし、正しい。


だが、一体これは何の冗談なのだと、主人公同様、読んでいる僕も戸惑った。


そうこうしているうちに、主人公は、町役場で最初に応対をしてくれた香西さんという女性とかりそめの婚姻関係を結び「戦争推進室の分室」としてとなり町に潜入し暮らすことになる。


となり町の査察から逃げるために、ファイルを抱えてとなり町を疾走するシーンが唯一、戦争らしいといえば戦争らしいが、


それでも主人公の目の前で誰かが殺されたりするわけではないし、


とてもじゃないが、危機感も緊迫感も出るわけがない。




だが、実はその裏では、主人公の青年を逃がすために佐々木さんという人が亡くなっているし、


香西さんの弟も戦いでその命を散らしている。




この辺で、僕はやっと気がつく。


これは本当に戦争なのだと。


そして今、現実に起こっている戦争とはまさにこういうものなのだと。


今、僕がこうして読書感想文など書いている間にも、


どこかの国では戦争に苦しんでいる人たちがいる。


奪いたくない命を奪い、奪われたくない命を奪われている人たちがいる。


日本がどこかの国に攻め込んだりしているわけではないが、自衛隊だって海外派遣された。


そして、その自衛隊を作ったのも、海外派遣を認めたのも僕たちなのだ。


だが、僕にとってはそれはちっともリアルじゃない。


目の前で人が死んでいるわけじゃないし、僕の命が危険にさらされているわけでもない。


まして、僕が直接、誰かの命を奪っているわけでもない。


僕が今、置かれている立場と、主人公が置かれた状況と、一体、何の違いがあるというのだ。



この物語はSFではない。



今の戦争のリアルがここには書かれているのだ。