新ヒーロー誕生! 極上の長編ミステリ!
都内で起きた不可解な連続殺人事件。次の犯行現場は、超一級ホテル・コルテシア東京らしい。
殺人を阻止するため、警察は潜入捜査を開始し…。
1行たりとも読み飛ばせない、東野ミステリの最高峰。
警察にせよ、名探偵にせよ、彼らの仕事というのは基本的には後追いで、事件が起きてからが活躍の場となる。
その場合、彼らが追う謎は多くの場合、「犯人は誰か」ということである。
「動機」や「犯行現場」「手段」が謎になっていることもあるが、それらは犯人を確定させるための前提条件としての謎である場合が多い。
(もちろん、犯人が判明していて「動機」だけがわからない……というようなミステリもあるのだが)
ところが、本作では、事件が起きる前に警察が動き出している。
彼らが阻止しようとしているのは、連続殺人の4件目だから、厳密に言えば事件が起きる前ではないのだが、それでもこれから起こる事件を未然に防ごうとしていることに変わりはない。
この時点で警察にわかっているのは「犯行現場」だけ。
「犯人」もわからない。「手段」もわからない。いつ起こるかもわからない。もっと言えば「被害者」が誰かもわからない。
やむを得ず警察は「犯行現場」となるホテル・コルテシア東京に潜入捜査をする……という変わった趣向のミステリ。
読者としては、何が起きるのかもよくわらないのでただただ物語に翻弄されながら、ページを繰っていくしかない。
僕はもともと結末を推理しながら読むタイプではないので、あまり関係ないのだが、作者との知恵比べが好きなタイプの読者にはつらいかも(笑)
ときどき「すわ、事件か!」というようなアクシデントが起こるけれど、実はそうではなかったりして……ほっとしつつも拍子抜けする。
というわけで、前半はほとんど東野圭吾的ミステリの面白さはない。
敢えてミステリに分類するなら、「日常の謎」ミステリだろう。
もっと言えば、ドラマ「HOTEL」のほうが近い。
今にも高嶋政伸が出てきて「姉さん、事件です」とか言い出しそうな感じ。
したがって、前半部分では一流のホテルウーマン、山岸尚美がホテルで起こるトラブルにどんな対応をするかを楽しむのが正しかろう。
同じサービス業に従事する者として頭が下がるばかりだ。
「一流のサービス」とはこういうことを言うのだとつくづく思った。
まさかウチの本屋に一流ホテルと同じサービスを求めるお客様もいないだろうけれど、その「プロ精神」は見習わねばならないと思った。
……って、なんで僕はミステリ読んで、仕事の反省をしてるんだ?(笑)
ただ、後半部分がかなりぐだぐだなので(犯罪そのものが無茶だし回りくどい。よく読むとつじつまも合っていない気がする)、真に楽しむべきはやはり前半。
何を差し置いてもお客様のことを信じ尊重するホテルマンと、人を疑うことが仕事である刑事。
この対極にある二人がそれぞれの能力を出しあい、欠点を補い合ってさまざまなトラブルに挑んでいく様はなかなか興味深い。
いいコンビだと思う。
いいコンビだと思うが……集英社の宣伝文句にあるように「加賀、湯川に次ぐ第三の男登場!」という印象はまったく受けない。
本作で探偵役をつとめる新田刑事がガリレオ先生のようにレギュラー化するキャラクターとは思えないんだよなあ。
あり得るとしたら尚美とのコンビでということになるのだろうけれど……そうすると毎回舞台はホテルなのか?
それも変だろ。
いち書店員の立場で言えば、東野作品は放っておいても売れるんだから、余計な宣伝文句は要らない!
って、ところだろうか。