車椅子に移乗させる妹を見て、初めて病院側は、妹が看護師であることを知りました。

この病気は、身体の自由を奪い、車椅子に移動するのでさえ、リハビリで訓練をしなければ

難しいのです。

当時は、急性期の母を動かすにはまだ早く、転院させるのは無理でした。

ここは病院なのになぜ、呆れると同時に、自分達で母を守らなければと思いました。

その報告を受けた私は、病院側に怒り心頭し、抗議もしましたが、変わらず、自分達の仕事を

休んだり、早退したりと調整をしながら、病院の監視と、母の世話をする為に、

泊り込みもしました。

看護師の妹と、理学療法士の私には、とても考えられない病院の体制でした。

なかには、しっかり管理され、勉強もよくしていらっしゃる病院のほうが、多いのですが・・・

たまたま悪い病院にあたってしまった、看護師もアルバイトの方が多かったです。

申し送りもきちんとされてなく、看護師同士の疎通もできていない、どの人が師長なのかも

わかりませんでした。人手がなく、スタッフも忙しかったのでしょうか。

責任感をぜんぜん感じない病院でした。


母が倒れてからは、毎日病院に通いました。

ベットに横になって、いかにも病人になっていく母の手を、必死で揉み解し、出来る限りの

リハビリをやりました。

昔は、とにかく落ち着くまでは、安静にするというのが合言葉のようでしたが、今の医学では

早い段階から、リハビリをする、倒れてすぐが、勝負なんです。

早め早めの処置が、望まれます。

母が入院した病院は、自宅の近くにある町医者で、待遇も施設も整っていない病院で、

詳しい検査はできない所でした。

病気をして最初のころは、急性期と言って、病人を無闇に転院させたり、動かしては

いけないのです。

今まで、大きな病気をしたことのない母の入院は、すごいショックでした。


入院日から、母の腕には、点滴の針が刺され、日に日に麻痺していく右側、ポータブルトイレが

用意され、ベットの横に置かれたトイレにも立てなくなる母がいて、ある夜トイレに立った母が

バランスを崩し、ベットとロッカーの間に挟まる格好で朝まで、誰にも気づかれずいたことが

あったそうです。この病院は、完全看護をうたっていて、面会時間が過ぎれば、帰らなければ

いけないんです。

立てない母が、転んだままの格好で、やっと掴んだナースコールを押して、看護師を呼んでも

朝まで誰一人助けに来てくれなかったんです。

報告を受けた時には、びっくりしました。

それも病院関係者から聞いたのではなく、同室の患者さんからです。

病院は、隠ぺいしたんです。

言葉も不自由になっていた母は、私たちには、そういうことがあったことは、内緒にしていたのです。

考えられない事が起こったのです。

看護師の夜間見回りがされていなかったのです。

発見される朝まで、何時間もその格好のままでいたのです。

そんな事故がおきて、不信感が沸いていました。


そんな時です。その日は妹が付き添っていたなですが、病室に入ってきた看護師が、

母の麻痺の状態も把握していず、病名すらわかっていなかったのか、いきなり「検査です。立てるでしょ。」

と言ったそうです。

それを聞いた妹は、ADL(自可同運動範囲、どのくらい自力で動かせるか)も把握していないのかと驚き

妹が車椅子に移動させ、検査室まで連れて行ったと言うのです。


                                                つづく

続き


その晩,私はまた仕事に出掛け、翌朝帰りました。

すると、母がいないんです。

いつも、朝帰宅する私の顔を見て、食事の支度をして、出掛ける母なのに

変だなと感じていました。


昼近くに帰ってきた母の顔色は、夜勤明けの私でもわかるくらい、悪かったんです。

母の口から出た言葉に、驚きました。

「私、入院しなきゃ・・・」えっ!


普通ではない具合の悪さに、近くの病院に診てもらったら、即入院と言われ、

それでも一度帰って息子にも相談したいと言って、途中パジャマなど買いこみ戻ってきたんです。

(後でわかったことですが、すでにその時、脳梗塞だったのです。)

当時、母は67歳でした。

「早く、病院に行こう。」

即、病院につれていきました。


病院に着くや否や、腰が抜けるかのように、倒れました。

原因はわからなかった。

私も、遠い昔とは言え、医療現場にいた人間です。

母のろれつがおかしいことに、気づくべきでした。自分に腹が立ちました。


それが即入院から少しづつ、右半身に麻痺が現れだしたんです。

医者は、脳梗塞の疑いと言うのです。

兄弟にすぐ連絡を入れ、状況を伝えました。

病気とは無縁だった母だけに、その晩は妹とこれからどうしていこうと、一晩中眠れず相談し悩みました。





                                            つづく