「では、そういうことで...。いいかい?」

ウィルの言葉に皆が頷いた。ジェフが立ち上がると未緒も立ち上がった。


「とりあえず、僕らは帰るよ。また連絡する。」

「あぁ、こちらも準備ができたら連絡する。そうだ、正面は記者がウヨウヨしてるからヘリを用意しておいた。」

「ありがとう。あ~。」

ジェフが困った声を出したのでウィルが聞き返した。

「何か?」

「いや、そうなるとサイラスに文句を言われるな。ヘリの降りれそうなところに薔薇があるんだ。」

「あ~。それは大変だ。でも、ここ以上に記者がいるぞ。どうする?」

未緒が笑って答えた。

「仕方ないです。私も一緒に謝ってもとに戻るまで手伝います。」

ジェフは未緒が手伝うと言えば、サイラスも機嫌を直すだろうと考えた。

「そうかい?すまないね。僕も手伝うよ。」

「本当に?」

未緒が疑わしげな声で聞いた。ジェフとガーデニングは結びつかない。自分でもそう思ったのかジェフは情けない声を出した。

「...できるだけね。」

「意外と主導権は未緒が握っているんだな。」

ジェフと未緒のやり取りを見ていたウィルがからかうように言った。

「そんなことは!」

ジェフが慌てて否定したがますます怪しまれる結果になった。未緒もジェーンもジェフの慌てた様子に笑いをかみ殺す。

「わかった。わかった。そういうことにしておこう。それが夫婦円満の秘訣だ。そろそろ出かけたほうがいい。」

「そうね。帰るなら早い方がいいわ。...ジェフ。」

ジェーンが名を呼ぶ前に間があったことに気づいたジェフが言った。

「好きに呼んでくれて構わない。ジェフでも...ブルームでも...。」

ジェフの言葉にジェーンは目に涙が溢れた。




それから二人は家で過ごした。

薔薇はヘリのおこした風で多少傷ついてしまった。未緒は手伝うと言ったが、記者が望遠レンズで狙っていたのでサイラスは断った。アガサもサイラスも未緒やジェフのことが記事にされても態度は変わらなかった。そのおかげで二人は家にいても寛いで過ごせた。家の中にいれば門前の記者はどこか他人事のようにも思えるほどだった。アガサは買い出しのたびに記者に囲まれて苦労しているようだが...。心配していたマッドの会社にはさほど影響はなかったので胸をなでおろした。ミランダは事務所で仕事ができずにプリプリしていたが、ジェフが例の件を頼むとそういうことならと瞳を輝かせた。

何日もジェフの家にもジェーンの家にも記者がはりついていた。ジェーンとジェフのことは当事者が口を開かないので新たな事実が出てこず、『?』つきの憶測が飛び交っていた。『本郷』の件については日本で散々記事にされており、その記事がこちらでも蒸し返される形になった。父が逮捕され刑に服することで終息を迎えているので一通りの報道がされてしまったあとは静かになった。

報道することが無くなると、ジェフと未緒の結婚についてが記事にされた。ジェフはプレイボーイで独身主義と見られていたのに電撃的に結婚したのは何故なのかとか、仕事はできるけれど非社交的な未緒のどこに惹かれたのかとか、面白おかしく書かれていた。中には未緒の「魔性の女」説まであり、さすがにこれには開いた口が塞がらなかった。


「私、魔性の女ですか?大なべで蝙蝠を煮てると思われているんでしょうか?」

記事を見ながら、そう呟いた未緒を見てジェフは噴出した。

「はは。それじゃ昔話の魔法使いだよ。そうではなくて『魔性の女』。男を虜にして狂わせる。当たってるんじゃないか?独身主義のプレイボーイを陥落したんだから...。」

未緒に近づこうとしたジェフの瞳に不埒なものが浮かんでいるのを見て未緒はニンマリと笑った。

「あら、それでは自分がプレイボーイと認めるんですね?」

ジェフは痛いところをつかれて一瞬動きを止めたがすぐに体制を立て直すと未緒を抱き寄せる。

「ちゃんと相手は選んでたよ。それに1度に一人きりだ。ちょっと...付き合う期間が短いこともあったかもしれない。それがプレイボーイと思われてただけだ。」

「そういうのをプレイボーイと言うんですよ。」

「なんにしろ過去の話だよ。今は妻だけだ。」

『今は』という単語が無期限イコール永遠ではないということを未緒に思い出させる。ジェフの手が不埒に動き始めたので、未緒は体を離して話題を変えた。


「そろそろですか?」

その一言でジェフは真面目な顔に戻った。

「あぁ。」







☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


9月はですね。毎年、うつっぽくなるんですよ。

仕事できないとか、朝起きれない、食べたくないとか、そういうことはないんですけど。

なんとなくイライラするんです。周りに気づかれるほどではないですが。

なんなんですかね?季節の変わり目だからかしら?

そんなわけで(?)更新してなかったのですが、だいぶ落ち着いてきたので更新していこうと思います。

あぁ、でもしばらくお邪魔してなかった他サイト様を読みふけって書けないかも...。



用意された部屋に入るとジェフはドサリとソファーに腰を下ろした。そのままピクリとも動かない。未緒はコーヒーを淹れるとジェフの前に置いた。沈黙がその場を支配する。未緒はジェフが口を開くまで何時間でも待つ覚悟だった。何か慰めの言葉をかけたかったが何も思い浮かばず未緒には『待つ』ことしかできない。ずっと膝に置かれていたジェフの手を見ていた未緒がふとジェフの顔に視線をうつすと頬に涙が流れていた。驚いた未緒はジェフに近づきおそるおそるジェフを抱きしめた。ジェフは為すがままにされていたが、やがて誰にともなく呟いた。


「僕が...僕があんなことを言わなければ赤ん坊は死なずに済んだかもしれないのに...。」

「それは誰にもわからないわ。」

「僕は捨てられたんだと、いらない子どもだったんだと思っていたんだ。」

「そうね。そう思わせられていたのね。」

「どうして...。」

ジェフがもっともな疑問を口にすると、未緒はジェフを抱く手に力を込めた。

「先代のジェフがいない今となってはわからないわ。未婚の母になる孫娘を恥じたのか、それとも世間から守ろうとしたのか...。」

「恥じたのではなく守る?」

「えぇ、そういう風にも考えられるでしょう。30年前なら今よりもシングルマザーは肩身が狭かったわ。しかも、ティーンエイジャーで上流階級。どんな風に世間に見られるか容易く想像がつくでしょう?」

「守る...。」

「少なくともあなたはジェーンに愛されていたのよ。いいえ、愛されているのよ。」

「僕が?」

「えぇ。でなければ、あんな状況で自分が母親だと告白できないでしょう?」

ジェフはジェーンがパーティーで自分が母親だと言った光景を思い出した。あれは子を守る母の行動だった...。ジェフは未緒をきつく抱きしめ返した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



朝、目覚めると未緒はひとりでベッドで寝ていた。ベッドに移動した覚えはないから、いつの間にか眠ってしまった未緒をジェフが運んでくれたのだろう。未緒は手早く身支度を整えリビングへと足を向けた。リビングに続くバルコニーへのドアが開け放たれていてそこにはどこかぎこちなく抱き合うジェフとジェーンがいた。


「あれが親子に見えるかい?僕が勘違いしても仕方ないだろう?」

いつの間にか未緒の後ろにいたウィルが渋面で声をかけた。ジェフが30歳だからジェーンは46歳だ。だが、ジェーンはとても40歳を過ぎているようには見えないくらいに若く美しい。

「ブルームは大人びていたからね。15歳の時には20歳くらいに見えた。血筋なのかな...若いころに老けて見えてもそのまま変わらないから実年齢が見た目を超えたあたりからは年々若く見える。」

「和解したんですね...。」

ボソリと未緒が漏らすとウィルは笑って答えた。

「そのようだな。もともとボタンのかけ違いだからそれに気づけば丸く収まるのは早いよ。」

「お二人は大丈夫なんですか?」

未緒が心配そうにウィルを見た。昨夜の様子から二人が愛し合っているのはわかったけれどそれでも聞かずにはいられなかった。

「あぁ、それなら心配はいらない。昨日の話で僕の胸につかえていたものが綺麗になくなったからね。ジェーンも隠し事が無くなってほっとしたようだよ。」

「その...。他の男性を愛していた女性を愛せるのですか?」

ウィルは未緒の表情をよむように見つめてからシタリ顔で言った。

「愛する人は生涯ただひとり...ってことかい?それなら、ライアンには悪いがジェーンの真の相手は僕だったんだ。15歳のジェーンはそれなりに彼を愛していたのかもしれないけど僕はその時のジェーンもひっくるめて彼女を愛している。僕と出会うためのプロセスだったんだ。」

ウィルはジェーンには秘密だと言って未緒にウィンクした。


ジェフが部屋に入ってきた未緒とウィルに気づいたときウィルは未緒にウィンクして微笑み合っていた。ウィルがジェーンを愛しているのはわかっているけれど、それでも自分がいないところで未緒と穏やかに微笑み合っているのは許せなかった。

「おはようございます。昨夜はすみませんでした。」

ジェフが未緒とウィルの間に割って入って未緒を抱き寄せ、こめかみにキスをする。

「未緒、おはよう。」

未緒はなんとなく気恥ずかしくてジェフから体を離そうとしたがジェフの腕はそれを許さなかった。ジェフの様子にウィルはおかしそうに口角をあげて挨拶を返す。

「おはよう、我が息子よ。」

ジェフはウィルの言葉に驚いて目を丸くしたがウィルはそんなジェフにかまわず、ジェーンを抱き寄せてこめかみにキスをした。

「おはよう、僕の愛しい人。」

ジェーンを腕に抱いたまま、ウィルは未緒に顔を近づけて頬にキスをした。

「おはよう、僕のかわいい御嬢さん。」

ふいのことで未緒もジェフも動けずにいたが、ジェフがウィルを睨むと笑って言った。

「いいじゃないか。ブルームの妻なら僕の娘だろう?挨拶のキスくらいでむくれるなよ。」


ウィルのちょっとしたおふざけで場は一気に和んだ。ウィルがジェフを『息子』、未緒を『娘』と認めたことで新しい家族ができた。誰もそれ以上は何も言わなかったが全員が自分たちは家族であると認識した。


朝食後に書斎で初めての家族会議が開かれた。






「嘘だ!嘘だ!!嘘だ!!!」

ジェフが叫び声をあげた。ジェフがこんな風に人前で感情を爆発させたのは初めてだった。ジェフがロナルドと出会ったころも荒れてはいたが、どこか大人を馬鹿にしたシニカルな感じだった。もっともそんなジェフを知っているのはミランダとスマイリーぐらいのものだが...。


ジェーンは声を震わせてはいたが決然と言った。


「嘘じゃないわ。厩舎の不正も事故のこともネットで検索すれば見つかるわ。私が...あなたを手放したことは、ずっと悔やんでいる。」


ジェフが憎しみを込めた低い声で聞いた。

「なら、どうして先代のジェフが亡くなったときにどうにかしようとしなかった?」

「あなたは、いつ私が産みの母だと知ったの?」

「先代ジェフが亡くなる少し前に、出生証明書をたまたま見つけて問いただした。」

「その時にライアンの記事を見せられたのね?」

「あぁ。」

「そして、私があなたを捨てたと聞かされたのね?」

「あぁ。」

「だから、あの頃から私を避け始めたのね...。」

ジェーンはたまらずに嗚咽を漏らし始めた。



「あの時、彼女は流産したんだよ。」

そこでウィルが話を継いだ。未緒はもちろんジェフも初めて聞く話に息をのんだ。

「先代ジェフの死でジェーンは君の後見人になった。でも、それは始めから決まっていたことではない。先代は君を後継ぎにという遺言は残していたけど、未成年の君の後見人までは指定していなかった。あの時スレイドが後見人になると言い張ったんだ。長女の婿だからとね。僕は人間的にはスマイリーがなるのが妥当だと思ったけれど、彼はスレイドが長女の婿を理由にしたので引き下がったんだ。そういうところは家長制を大事にするイタリア人だったよ。僕はそれならスレイドがやればいいと思った。何か企んではいそうだったけど僕には関係ないからね。」


ウィルはジェーンをチラリと横目で見ると話を続けた。

「ところがジェーンが自分が後見人になると言い出したんだ。僕は驚いたね。確かに二人とも先代ジェフのもとで育ったのは知っていたが、ほとんど一緒に暮らしたことはないと聞いていたし家族の集まりでもよそよそしくて仲がいいとはとてもいい難かったのにってね。それで、僕は二人のことを...。まぁ、僕が考えていたのとはだいぶ違っていたけど...。」

ウィルはコホンと咳払いをして仕切り直しをすると話を続けた。

「とにかくブルーム、君の後見人争いでジェーンはひどく疲れていたんだ。僕も君たちの仲を疑っていたから手も貸さなかったし...。」


ウィルの後を今度はジェーンが引き継いだ。涙のあとはあるが嗚咽はやんでいる。

「スマイリーがなってくれるなら、あんなに無茶はしなかったと思うけれど彼はすぐに手を引いてしまった。私は昔からスレイドのあの目が嫌いだった。おじい様が亡くなって、やっと遅まきながらあなたを抱きしめられると思ったの。でもムシが良すぎたのね。遺品の整理で館に行ったときにあなたに母親だなんて認めないと言われて気づいたわ。あなたは私を汚いものでも見るようになってしまって...。せめて後見人になってあなたが引き継ぐべきものを守りたかった。」


「そんな時に彼女は流産したんだ。よっぽどストレスがかかっていたんだろう...。僕が気付いた時にはもう...。そんな身体でもまだ無茶をしようとしたから、僕は仕方なく手伝ったんだ。ジェーンが君の後見人になれるように弁護団を差し向けてね。」

「ウィルのお蔭であなたの後見人にはなれたけれど、お腹の子を失くしてしまった。私は母にはなってはいけないんだと神様に言われた気がしたわ。」


「流産って?ストレスって?まさか...。」

青くなったジェフにジェーンだけが正しく彼の想像を読み取った。

「違うの。それは、関係ないの。私が無茶をしたのがいけなかっただけなのよ。」

「僕が...。僕が母親だって認めないって言ったからか?あのとき...あのときお腹を押さえていた。僕は苦しそうなジェーンを置き去りにして部屋を出たんだ...。まさかあのときに?」

「違うわ、流産したのはそれから数日後よ。でもその前から時々痛んでいたの、その時にすぐに病院に行けば良かったの。そうすれば助かったかもしれない。でも、ダメだったかもしれない。それは神様にしかわからないわ。それでも誰かが悪いとしたらそれは無茶をした私だわ。」

ウィルはジェーンの肩を抱いてそっと囁いた。

「違う。誰も悪くない。きっといい子すぎて神様が僕たちのもとへやるのが惜しくなったんだ。」


衝撃的な告白を聞いているにも関わらず、未緒はどこか冷めていた。辛い話をしながらも寄り添うウィルとジェーンは本当に愛し合っているのが見てとれる。ウィルの態度を見ればわかる。きっとこの二人はこれを機に一層お互いの信頼を深めるだろう。それに比べて自分たちはどうだろう。自分の出生にまつわる衝撃的な事実に打ちのめされているジェフを慰めてあげたいのに、かける言葉がみつからない。未緒は今日ほど自分を不甲斐なく情けなく感じたことはなかった。早くこの場からジェフを解放してあげたかった。


「ジェフ?」

未緒はジェフの手に自分の手を重ね優しく声をかけたが、ジェフは下を向いたまま微動だにしない。

「ジェフ、部屋へ行きましょうか?」

未緒がウィルとジェーンを見ると二人は頷いてウィルが立ち上がった。未緒はジェフの手をひっぱり立たせると二人はウィルの後に続いて部屋を出た。ソファーに残されたジェーンが出ていくジェフに「愛しているの」と震える声で言ったがジェフに届いたどうかはわからなかった。



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


あれ?和解するはずが増々、暗くなってしまった...。

どうやって和解しよう (°д°;)