「嘘だ!嘘だ!!嘘だ!!!」
ジェフが叫び声をあげた。ジェフがこんな風に人前で感情を爆発させたのは初めてだった。ジェフがロナルドと出会ったころも荒れてはいたが、どこか大人を馬鹿にしたシニカルな感じだった。もっともそんなジェフを知っているのはミランダとスマイリーぐらいのものだが...。
ジェーンは声を震わせてはいたが決然と言った。
「嘘じゃないわ。厩舎の不正も事故のこともネットで検索すれば見つかるわ。私が...あなたを手放したことは、ずっと悔やんでいる。」
ジェフが憎しみを込めた低い声で聞いた。
「なら、どうして先代のジェフが亡くなったときにどうにかしようとしなかった?」
「あなたは、いつ私が産みの母だと知ったの?」
「先代ジェフが亡くなる少し前に、出生証明書をたまたま見つけて問いただした。」
「その時にライアンの記事を見せられたのね?」
「あぁ。」
「そして、私があなたを捨てたと聞かされたのね?」
「あぁ。」
「だから、あの頃から私を避け始めたのね...。」
ジェーンはたまらずに嗚咽を漏らし始めた。
「あの時、彼女は流産したんだよ。」
そこでウィルが話を継いだ。未緒はもちろんジェフも初めて聞く話に息をのんだ。
「先代ジェフの死でジェーンは君の後見人になった。でも、それは始めから決まっていたことではない。先代は君を後継ぎにという遺言は残していたけど、未成年の君の後見人までは指定していなかった。あの時スレイドが後見人になると言い張ったんだ。長女の婿だからとね。僕は人間的にはスマイリーがなるのが妥当だと思ったけれど、彼はスレイドが長女の婿を理由にしたので引き下がったんだ。そういうところは家長制を大事にするイタリア人だったよ。僕はそれならスレイドがやればいいと思った。何か企んではいそうだったけど僕には関係ないからね。」
ウィルはジェーンをチラリと横目で見ると話を続けた。
「ところがジェーンが自分が後見人になると言い出したんだ。僕は驚いたね。確かに二人とも先代ジェフのもとで育ったのは知っていたが、ほとんど一緒に暮らしたことはないと聞いていたし家族の集まりでもよそよそしくて仲がいいとはとてもいい難かったのにってね。それで、僕は二人のことを...。まぁ、僕が考えていたのとはだいぶ違っていたけど...。」
ウィルはコホンと咳払いをして仕切り直しをすると話を続けた。
「とにかくブルーム、君の後見人争いでジェーンはひどく疲れていたんだ。僕も君たちの仲を疑っていたから手も貸さなかったし...。」
ウィルの後を今度はジェーンが引き継いだ。涙のあとはあるが嗚咽はやんでいる。
「スマイリーがなってくれるなら、あんなに無茶はしなかったと思うけれど彼はすぐに手を引いてしまった。私は昔からスレイドのあの目が嫌いだった。おじい様が亡くなって、やっと遅まきながらあなたを抱きしめられると思ったの。でもムシが良すぎたのね。遺品の整理で館に行ったときにあなたに母親だなんて認めないと言われて気づいたわ。あなたは私を汚いものでも見るようになってしまって...。せめて後見人になってあなたが引き継ぐべきものを守りたかった。」
「そんな時に彼女は流産したんだ。よっぽどストレスがかかっていたんだろう...。僕が気付いた時にはもう...。そんな身体でもまだ無茶をしようとしたから、僕は仕方なく手伝ったんだ。ジェーンが君の後見人になれるように弁護団を差し向けてね。」
「ウィルのお蔭であなたの後見人にはなれたけれど、お腹の子を失くしてしまった。私は母にはなってはいけないんだと神様に言われた気がしたわ。」
「流産って?ストレスって?まさか...。」
青くなったジェフにジェーンだけが正しく彼の想像を読み取った。
「違うの。それは、関係ないの。私が無茶をしたのがいけなかっただけなのよ。」
「僕が...。僕が母親だって認めないって言ったからか?あのとき...あのときお腹を押さえていた。僕は苦しそうなジェーンを置き去りにして部屋を出たんだ...。まさかあのときに?」
「違うわ、流産したのはそれから数日後よ。でもその前から時々痛んでいたの、その時にすぐに病院に行けば良かったの。そうすれば助かったかもしれない。でも、ダメだったかもしれない。それは神様にしかわからないわ。それでも誰かが悪いとしたらそれは無茶をした私だわ。」
ウィルはジェーンの肩を抱いてそっと囁いた。
「違う。誰も悪くない。きっといい子すぎて神様が僕たちのもとへやるのが惜しくなったんだ。」
衝撃的な告白を聞いているにも関わらず、未緒はどこか冷めていた。辛い話をしながらも寄り添うウィルとジェーンは本当に愛し合っているのが見てとれる。ウィルの態度を見ればわかる。きっとこの二人はこれを機に一層お互いの信頼を深めるだろう。それに比べて自分たちはどうだろう。自分の出生にまつわる衝撃的な事実に打ちのめされているジェフを慰めてあげたいのに、かける言葉がみつからない。未緒は今日ほど自分を不甲斐なく情けなく感じたことはなかった。早くこの場からジェフを解放してあげたかった。
「ジェフ?」
未緒はジェフの手に自分の手を重ね優しく声をかけたが、ジェフは下を向いたまま微動だにしない。
「ジェフ、部屋へ行きましょうか?」
未緒がウィルとジェーンを見ると二人は頷いてウィルが立ち上がった。未緒はジェフの手をひっぱり立たせると二人はウィルの後に続いて部屋を出た。ソファーに残されたジェーンが出ていくジェフに「愛しているの」と震える声で言ったがジェフに届いたどうかはわからなかった。
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
あれ?和解するはずが増々、暗くなってしまった...。
どうやって和解しよう (°д°;)