クーを代役にした撮影はすぐに終わった。クーは引きの画でただキョーコと歩くだけだから造作もない。顔が映らないのをいいことにその表情はかなり緩んではいたが...。
これですべての撮影が終了した。本当ならここで打ち上げという名のパーティーをしたいところだが主役の『久遠』がいないため、パーティーは『久遠』の帰ってくる明日に行われることになっている。ただ、クーもジュリエナも過密スケジュールの合間を縫って来ていたため明日まではいられない。『蓮』も明日には帰ることになっている。そこで、クーとジュリ、蓮とキョーコ、社と緒方で夕食をともにすることになった。
「本当に僕なんかがご一緒してよろしかったんでしょうか?」
緒方が恐縮してクーに話しかけるとクーは笑って言った。
「そんな!こちらこそ、私たちが押しかけてしまってすまないと思っているんだ。少しでも良いものに仕上がっているといいのだが...。」
「とんでもない!素晴らしいですよ。早く日本に帰って編集したくてウズウズしているんです。」
「私たちも楽しみにしているよ。それにしても...。緒方監督のお父さんの伊達監督とも仕事をさせていただいたが、やっぱり親子だね。実に優れた感性をしている。」
緒方のトラウマを知る蓮とキョーコ、社は心配そうに緒方に視線を送った。
「ありがとうございます!」
元気に返事をする緒方を見て3人はほっとする。もう息の根がとまる(?)ことはなさそうだ。
「でも、その感性は全く別の物なんだよなぁ。ダークムーンを見せてもらったが時代背景が違うとはいえ伊達監督ならこういう表現はしなかっただろうなぁと思うところがたくさんあったよ。あぁ、勘違いしないでくれ?どちらがより優れているというわけではないんだ。どちらも、すんなり受け入れられて感情移入がしやすいんだ。そこが似ているところかなぁ?それと飯塚さんと共演したからわかるんだが彼女は一筋縄ではいかないだろう?それを見事に使いこなしているのは流石というかやっぱりといったところだったな。」
クーの賛辞に緒方は嬉しすぎて目に涙を浮かばせる。緒方の涙に気づいたクーが困った顔で聞いた。
「私は何かいけないことを言ってしまったかな?」
「そ...そんなことはないです。僕、嬉しくて。こんな嬉しいこと言ってもらえたのは2度目です。」
「2度目?」
緒方は興奮と緊張のため飲み過ぎたワインの力も手伝って饒舌にしゃべりはじめた。
「えぇ。父の陰におびえていた時に敦賀君に『伊達監督とは違う』って言ってもらえて。親子だから似ているのは仕方ないっていう慰めは何度もいろんな方から聞いていたんですけど、『違う』って言ってもらえたのは初めてであの時、やっと本当に息ができるようになった気がするんです。敦賀君、あの時は本当にありがとう。」
クーとジュリエナは息をのんだ。その言葉の意味するところを知っているため何と言っていいかわからない。久遠として再出発する気になってくれたとはいえ、傷跡は残っているはずだ。恐る恐る蓮を見ると蓮は笑っている。
「そんな感謝されることではありませんよ。ありのままを伝えただけです。それに俺の方が感謝しているんです。ダークムーンで自分を見つめなおすきっかけを与えてもらったんですから。あの作品がなければ、いつまでも自分を偽り続けて今頃おかしくなっていたと思いますから。」
蓮の言葉にジュリも涙を浮かべていた。場にいい意味でしんみりとしたムードが流れ始めたときに緒方が爆弾発言を落とした。
「本当に良かったです。あの時はハラハラしていたんです。だって、膝枕をするほどの仲なのに次々と男性の影がでてくるし、敦賀君は必死に牽制したり相手を蹴散らしているのにキョーコさんは全く気付いてないようだし...。」
緒方は先ほどの涙をナプキンで抑えるのに必死で他の4人の反応には気づかなかった。
蓮は飲みかけのワインを喉につまらせそうになる。キョーコは全身真っ赤になって固まっている。クーとジュリはそんな二人を見てニヤニヤがとまらない。
社は驚いて声をあげる。
「お前、膝枕なんていつの間にしてたんだ?ダークムーンの時と言えばキョーコちゃんはまだ高校生じゃないか!?キョーコちゃんをマンションに泊めたときもしれっとモデルウォークを教えてただけだなんて言ってたけど、まさか???」
「なっ、何を人聞きの悪い!やましいことは何一つないですよ!!!」
蓮は頬を染めてそっぽを向いた。本当はやましいことが全くないわけではない。それでも、そのほとんどにキョーコが気付いていないのだ。何もなかったって言ったってかまわないだろうと胸中で勝手な言い訳をする。
「お前のその態度が怪しい。はっ?!まさかカインのときに...?」
「カインとはBJのことだろう。それとキョーコが関係あるのかい?」
クーが確認する。蓮がカインでBJだったことは知っているがキョーコはあの映画には出ていないはずだ。
「それは...。」
流石にクーに話すのはためらわれて言葉を濁す。
「ヤシロサン?私も聞きたいわ?」
ジュリの有無を言わさない声音に社は肝を冷やす。同時に蓮の言ったらただじゃおかないという視線もつきささる。身体窮まった社は視線を泳がせるがキョーコは固まったままだし緒方は何のことかとキョトンとしている。クーは威圧的ではないが興味津々の目で社を見つめている。
「ヤシロサンが教えてくれないならボスに聞こうかしら?」
ジュリは社ではなく蓮に視線をうつした。すると仕方なく蓮が口を開く。社長に聞いたらあることないこと言われるのがオチだ。それなら自分で話した方がましだ。やましいことはない...はずなのだから。
「彼女はカインの妹として撮影の間、俺と一緒にいたんです。俺に食事をさせるために、それだけですよ。」
すかさずジュリが質問する。
「一緒とは、どういう意味?確か正体がわからないようにホテル暮らしだったのでしょう?」
一瞬、蓮は言葉をつまらせたが何気ない風を装って答えた。
「ですから、一緒ですよ。一緒にホテルで生活していたんです。」
「同じ部屋で?」
「はい。兄妹ですから。」
これには真相を知らないクーとジュリ、緒方が驚いた。3人はいまだに『膝枕』発言に固まったままのキョーコを見る。
「本当?京子さん、敦賀君と生活してたの?」
緒方がキョーコに問いかけたことでようやくキョーコは目の焦点があったが何を質問されたかはわからない。
「はい?」
「だからカインの時に敦賀君とホテルの同じ部屋で過ごしてたんですか?」
「えぇ。兄妹ですから。」
キョーコの『なぜそんなことを聞くんですか?』というような答えに全員が心配することは何もなかったのだと安堵した。安堵はしたものの今度は蓮が不憫になってくる。緒方がポツリとつぶやいた。
「敦賀君、かわいそう...。」
緒方に本気で同情されて蓮はいたたまれない気持ちになった。
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
百瀬さんにはすぐに日本に帰ってもらいました。彼女は売れっ子女優で忙しいんです。多分...。
本音は私が書ききれないというだけですが (;´▽`A``
この回は無くても何の問題もないんですが思い浮かんだので書いちゃいました。