「さっきバトルして感じたんだ!アイツの“ねんりき”に負けない強い技をぶつけて防げるかもってね!!」
「そうか、だったら三匹の力を合わせれば、逆に弾き返せるかもってことだよね?」
「だったらこのプランはどうでしょう?」
「?」
スリープが“ねんりき”が放った直後、ぼくたち三匹はこんな会話をしていた。ここでもココロが何かアイディアが浮かんできたのか、技を放とうとしたぼくとソラに声をかけてきた。正直相手の技が到達するまでの猶予はほとんど無く、じっくり検討は出来ない。それでも彼女のことだからその辺りはちゃんと考えてるはず。
「ソラさん、ススムさんと二人で一緒
に技を放つのです」
「え!?ススムと…………///////?」
予想外の意見に思わず赤面してしまうソラ。その姿に少しだけココロが寂しげな表情を浮かべているのが、なんだかぼくとしてはスッキリ来ない。しかし今はそんな細かいことを気にしても仕方ない。
「幸いなことにあなたたちはある程度離れた場所からでも攻撃できる技もありますし、同一タイプの技だからパワーもより上がるはずですから…………きっとあの“ねんりき”を追い越せるはずです!」
「ココロはどうするんだい?」
「あたしは……相手が一瞬怯んだ隙を狙って、直接攻撃を加えます!」
「そうか…………それじゃあよろしく頼んだよ」
ココロのプランを聞くとぼくは小さくうなずいた。恐らく仮に反撃を受けたとしても、彼女が身を挺してぼくやソラの身代わりになるつもりなんだろう。その証拠に彼女は何か覚悟を決めたかのように、まっすぐな視線でぼくを見つめていた。時間は無い。とにかく自分たちに求められているのは、ココロが攻撃を加えて退避する時間を作ることだ。
「よし!!いくぞ!!“ひのこ”!!」
「“でんきショック”!!」
ぼくたちの想いを乗せた火の玉、そして電撃が、スリープが繰り出した“ねんりき”に向かっていく!!。いくら相手よりバトル経験が未熟と言っても、二つのエネルギーが合体すれば、やはりそれなりのパワーになっているだろう。その証拠に微妙に“ねんりき”のエネルギーを押し返しているようにも見えた。
「うおおおおおお!!」
「いっけええぇぇ!!」
本来ならば連続して同じ技を繰り出すほど、いつかは技のエネルギーや体力も底を尽いていく。もちろんそれは技のパワーが弱くなることも意味していた。でも、ぼくはそんな先のことを考えている余裕なんか存在しない。
きっとソラも同じだろう…………なんて思いながら、ふと彼女の方を見てみる。
「うっ…………くっ…………」
(ソラ?)
技を出し続けてエネルギーが尽き始めているのか?始めはそのように感じていたぼく。いや、それにしては早すぎる。先にぼくよりスリープとバトルした影響?いや、ついさっきまでそんな事も感じないくらい元気な姿を見せていたし…………。
と、そんなときだ。後ろからルリリが叫んできたのである。
「ピカチュウのお姉ちゃん、“どくガス”を吸っちゃったんだ!!」
「え!!」
「何ですって!!」
正直理解が追いつかなかった。どくタイプやむしタイプのポケモンがいるなら、毒で犯してしまう技を持っているかもしれないが、少なくともこの頂上にはエスパータイプのスリープ以外のポケモンがいる様子は無い。だから毒に犯されてしまう要素が無いように感じたのだ。
「ススムさん、気をつけてください!あのスリープ、“どくガス“を放てるみたいですよ!」
「え!?」
「スリープはレベルが高くなると、自力で取得できる技なんですよ!」
「そうなのか…………」
ぼくは知識の乏しさに歯がゆさを感じていた。ココロがいなければ、この情報を得ることも出来ずに動揺を抑えられなかっただろう。
(きっとぼくたちが地中を移動していたときにやられたんだな…………。ぼくらに気を遣っていたのか)
ぼくは自らに反省する。同時に“リーダー”としての未熟さも痛感して。そしてココロにこのように伝えたのである。
「だったら、ソラに“モモンのみ”を食べさせてよう!!道具箱にあるはずだから!」
「え?そんなことしたら“ねんりき”のエネルギーに押されて飲み込まれてしまいます!」
「そんなことはわかってる。でも、ソラを放っておくわけにはいかないだろう?」
「ススム…………」
「ススムさん…………」
ぼくの言葉を二匹のパートナーはどのように受け止めたのだろうか。ソラは苦しそうな表情にも小さく笑顔を浮かべ、一方でココロは表情を曇らせる。形式的に役割や立場を平等にしたところで、そう簡単に彼女たちが自分の想いを譲れはしないのだろう。ある程度予想はしていたけど、こうもお互い全面的に協力的にならないところを見ているとやりきれない。
「ソラ、少しだけ辛抱してね。すぐにラクになるから」
一言そうやって告げると、ココロに預けた道具箱へと急ぐぼく。当然ながら一瞬技のエネルギーは途切れることとなり、“ねんりき”がぼくたちを飲み込もうとしていた。
そんな状況の変化に一足早く勝利を確信したのか、スリープは大笑いしながら言った。
「正気か?たった一匹のために他のメンバーにリスクを負わせるなんてよ!探検隊のやることは理解不明だぜ!ガッハッハ!」
「わ、笑うなぁ!!ススムはみんなを思いやる優しい男の子なんだ!!」
「その通り!!あなたに何がわかるんですか!!」
(ソラ。ココロ…………)
二匹の言葉がぼくの心にグッと染みた。まだ思いつきな行動感が否めない自分を否定するような言葉がなかったから。負担をかけてしまった自分に不甲斐なさも感じながら。ソラは力を振り絞って電撃を繰り出していたし、ココロも決してパワーが高いとは言い難い“れいとうビーム”を骨から発射している。すべて自分のために時間稼ぎをしてくれているのだ。
(ごめん。ごめんよ!!)
ぼくは心の中で謝り続けた。
(全く…………また足を引っ張っているんだから)
ソラさんには呆れるばかりでした。攻撃を追っていて万全じゃないのなら、あたしたちが合流したときにでも教えてくれれば良かったのに……………。
正直ススムさんがソラさんのために必死に行動している姿に嫉妬していたと思います。だけど彼はあたしの力も必要としている。それは凄く伝わりました。まるで嫉妬している自分を慰めてくれるかのように。
だからあたしはススムさんの代わりにソラさんを護れたのかもしれません。彼が苦しいときに少しでも寄り添ってあげたかったから。
………そしてここであることに気付いたのです。
(そうだ。ソラさんには出来ないことでススムさんを助けられるように頑張ってみよう)
今まで自分はソラさんに負けないようにって思っていたけど、どんなことでアピールしていけば良いのかわからないまま行動していました。ススムさんの気持ちが離れるのが怖くて。焦りもあったからソラさんの行動が余計に気になって、ちょっとしたことでイライラしていたのかも知れません。
だからソラさんには出来ないことを探して、自分をアピールしてみようと考えたのです。それが何なのか今はわからないけれど。
「よし、あったぞ。これでソラも大丈夫だ」
二匹が頑張ってる間にぼくは道具箱から“モモンのみ”と“オレンのみ”を取り出した。ソラがいつから毒に蝕ばれて体力を削られているかもわからない。だから体力を回復できる“オレンのみ”もセットで持ち出し、万全にするのが無難だろう。
「早いところ戻らないと…………!」
ぼくはフーッと深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、駆け足で二匹のところへ急いだ。
「イヒヒヒ。無駄に抵抗しやがって。新米探検隊に邪魔出来るとでも思ったのか?なめやがって。たっぷり痛め付けてやる」
「うう…………負けるもんか」
「あなたの好きにはさせない………」
「ククク、いつまで踏ん張っていられるかな?」
スリープは自分の優位を段々と感じ始めているようでした。どこにそんな力が残っていたのか、ここに来て何だか今までよりグッと技に伝えるエネルギーが強くなったような気がしたのです。それでも弱みは見せてはいかないと、自分もソラさんも強がりを表現し続けていたのです。
(うう…………このままじゃ押されてしまう)
(ススム………早く戻ってきて…………)
気が付くとあたしたちは相手からの“ねんりき”にどんどん押され気味になっていました。きっと自分たちが繰り出し続けている技のエネルギーが尽き始めているのでしょう。いずれにせよ、このままでは相手にバトルの主導権を譲ってしまうのは明らかでした。もしそうなったら逆転は厳しくなる…………あたしはそんな嫌なシナリオを脳裏に浮かべていました。もはやそれが現実になるのも時間の問題でしょう。
と、そのときでした!あたしたちの目の前を何かが通過し、スリープのお腹にぶつかったのです!!それはルリリでした!
ドガッ!!!
「ぐあっ!!なんだ!?」
「ルリリ!!」
「大丈夫ですか!?」
とはいっても攻撃したルリリはそこまで攻撃力が高い種族ではないので、スリープもさほど大きなダメージは受けていないはずでした。にも関わらずお腹を庇いながら苦しそうにしているところを見ると、予想外の出来事に動揺しているのが伝わってきました。しかも“ねんりき”も途切れ、自由に身動き出来るようになったのです。
「てめえ…………よくもやりやがったな!!」
「危ない!!こっちに逃げて!」
「怖い!怖いよ!お兄ちゃん!!」
スリープに睨まれたせいか、ルリリは恐怖で体が固まっている様子でした。ソラさんが懸命に呼び掛けると、泣きながら彼女のそばに駆け寄ったのです!!
「待ちやがれ!“ねんりき”!!」
「させるものですか!!“ホネブーメラン”!」
「なっ!?」
スリープはルリリへ再び“ねんりき”を放ち、その身動きを封じようとしていました。しかし意識がそのことの一点に集中していたので、あたしにとっては絶好のチャンス!すかさず手にしていた骨をスリープに投げたのです!!
「ぐっ!!ぐあっ!!」
技名にブーメランという言葉があるように、一度スリープにぶつかった骨は途中でUターンしてきて、再度スリープにぶつかりました。当然その間逃げる暇なんて全く存在せず、相手はぶつかった箇所を抑えて痛みを堪えるのが精一杯だったのです。
これで完全に自分たちが優位になる………ようやく緊張が解けそうになったそのときでした!!
「ちくしょうめが!!俺をなめやがって!!“れいとうパンチ”!!!」
「えっ?きゃああああ!!」
「ココロちゃん!」
既に彼女は宙を舞っていました。スリープはお腹を抱えて苦しそうな雰囲気だったのですが、一瞬の隙をついて思いっきり殴ってきたのです。しかもじめんタイプには致命的な“れいとうパンチ”を。やはり指名手配されているおたずね者。バトルの実力は自分たちより何枚も上回っている相手に、勝手に優位になったと勘違いしたことに情けなさを感じました。
「よくもココロちゃんのことを!」
「何言ってやがる。そもそもアイツが攻撃できたのもルリリが手助けしてくれたからだろ?お前も含めて、自力で俺を追い詰めた訳じゃないくせに何を偉そうに振る舞ってるんだ?」
「そ、それは…………」
スリープからの思わぬ正論に私は動揺しました。確かにあのまま“ねんりき”が途切れずにいたら、きっと多少時間がかかったとしても、私たちは押し切られていたことでしょう。
それだけでなく、スリープからルリリを助けるとマリルと約束したのにも関わらず、実際には自分たちの身を守るのさえやっとな状況。これでは相手から「自力で追い詰めた訳じゃないくせに」と言われても仕方ないような気がしました。
「未熟なくせに俺を捕えようなんて馬鹿馬鹿しい。大人しくそのルリリと一緒に俺の命令に従いやがれ!!」
「そんな……………」
「嫌に決まってるだろう!!」
半ば諦めの気持ちが生まれかけた…………そのときでした!!ずっと聞きたかった声を合図にするかのように、火の玉がスリープを襲いかかったのです!!
「うわっ!!アチチチ!」
やっとの想いで二匹に合流した。スリープに放った“ひのこ”は見事に命中し、しかも追加効果でやけども負わせることが出来た。これでしばらく反撃はしてこないだろう。
だけど彼女たちは先程より傷を負い、これ以上バトルを続けさせるのも厳しいような気がした。それでも何とか踏ん張ってくれただけでもありがたい。ぼくはワガママを受け入れてくれたココロ、それから毒に耐え続けたソラにお礼を言った。
「ありがとう、ココロ…………ソラ」
「ススムさん………」
「良かった………また会えて」
きっと心細かったのだろう。傷ついた身体を一生懸命動かし、二匹が抱きついてきた。次の瞬間にホッとしたような表情を見せる。ぼくは頭を撫でて、より安心感を与えられるように努力した。
「だけどまだ終わりじゃないよ。スリープを倒さないと。ね」
「うん!」
「もう少しだけ頑張りましょう!」
良かった。二匹とも元気を取り戻してくれたようだ。それから“モモンのみ”と“オレンのみ”の二つをソラを手渡した。しかし“モモンのみ”は嬉しそうに食べたけれど、“オレンのみ”はキョトンと見つめるだけだ。一体どうしてなのだろうかなんて考えていると、彼女は笑顔で言った。
「はい、ココロちゃん♪」
「え、良いんですか?」
ソラは硬い”オレンのみ”に弱い電撃を浴びせて柔らかくすると、半分にしてココロに手渡した。びっくりした表情を見せる彼女へ言葉を続ける。
「うん。だってココロちゃんが頑張ってくれたから私も頑張れたんだよ♪それにさっきの“れいとうパンチ”のダメージもあるだろうし、回復させなきゃいけないでしょ?」
「そ、そうですね」
ココロは頷いて受け取ると、口の中に放り込んだ。ソラも同じように。温かな光が身体を包み込む。二匹とも完全に回復…………とまではいかないだろうけど、気持ち的には全然違うだろう。何はともあれ、これでスリープとバトルにまた挑める。今度は三匹みんなで。
「よくもやりやがったな!!コイツがどうなっても良いんだな!?」
「しまった!」
どうやらやけどが引いてしまったらしい。ぼくたちが和やかな雰囲気になっている隙に、スリープは再びルリリを人質にしていた。グーグー眠っているところを見ると、スリープはルリリに“さいみんじゅつ”で動きを封じたようだ。
「ルリリを離せ!!“ひのこ”…………!?」
「どうしたの、ススム!?」
「技が…………出せない!」
「え!?どうして?大丈夫?」
ぼくはもう一度“ひのこ”を放とうと考えたが、突然体が氷漬けになったかのように動かなくなった。今までなかった異変である。心配して声をかけてくれたソラも頭が真っ白になったようで、その場を右往左往するだけ。するとココロが思い出したように言った。
「もしかして…………“かなしばり”!?」
「ククク…………どうやら気付いたようだな。お前たちが和気あいあいと話し込んでいる間に仕込んだんだよ」
「何だって!?だったらソラやココロも?」
「当然だろ?」
「ちくしょう…………!!」
ココロから“かなしばり”という技名が出た瞬間、ぼくは自分に情けなさを感じた。あまりにも無防備すぎたのである。自分たちの技が相手に封じられてしまっては、ルリリを助けることはおろか、何にも出来ないことを意味している。例え一方的な攻撃を受けたとしても、二匹を守ることすら出来ないのである。“リーダー”としては最悪だった。
「ようやく事の重大さに気付いたか。だがもう遅い。残念だったな!」
「来た!!二人とも逃げてくれ!」
「え?」
「そんなこと出来ないよ!!」
スリープはこれまで以上に自分たちを追い詰めてきた。ジリジリと近づいてくる。一体何をするのだろう。ぼくがあれこれ考えていると、突然ダダッとダッシュしてきた!!本来ならばここで得意技で応戦したいところだが、“かなしばり”が解けた訳じゃない。だからといって道具箱がそばにある訳でもない。どのみち無抵抗状態のままなのだ。だからぼくは二匹に逃げるように指示したのだが、彼女たちは自分の元を離れまいとがっちり両肩に寄りかかったままだ。一体どうすれば良いのか…………全然わからなくなってしまった。
「くっそー!!お前の好き放題にされてたまるか!!」
「ススム!!」
「無茶しないでください!!」
「無駄無駄!!余計に自分の首を締めるだけだぞ!?」
「ぐわっ!!」
だからといってこのままじゃダメだ。ぼくは自分にそうやって言い聞かせると、彼女たちを振り払って勢い任せでスリープに突っ込んでいった。だけど当然それだけで形勢逆転となるはずもない。むしろその後“ずつき”をモロにお腹に受けてしまい、空中へと投げ飛ばされて、そのまま地面に叩きつけられた。衝撃によって激痛が身体中を駆け巡る。再び二匹がぼくの近くへ駆け寄ってきた。
「ススム!」
「大丈夫ですか!?」
「うう………ありがとう」
本当は自分が彼女たちを守らなきゃいけなかったはずなのに、逆になってしまった。何とも情けない話である。何とかして“かなしばり”が解ける間は辛抱しなくちゃ…………ぼくは攻めることを止め、一旦守りに入ろうと考えた。
だが、二匹のパートナーは違った。
「ススムさん、あたしたちに任せてください」
「え?でも、技が使えないんだったら意味が無いんじゃ」
「確かに私たちも“かなしばり”状態だけど、技だけが攻撃手段では無いよ」
「?」
ぼくは二匹の言葉にキョトンとする。けれど自分に策が出てこない以上、ここは決断するしかない。
「わ、 わかった。そこまで言うなら任せるよ。だけどくれぐれも無茶はしないでね?」
「うん、ありがとう」
ぼくは二匹に命運を託す。こうしている間にもスリープは次の一撃を準備していた。時間がない。
「何考えているんだか知らねぇけど、無駄な足掻きには変わらないぞ!このまま“ねんりき”に巻き込まれてしまえ!!」
「来たよ!!」
私たちはススムに意志を伝えると、お互いの顔を見て頷きました。その間にスリープの“ねんりき”を繰り出したことをススムから伝えられましたが、臆することはありませんでした。しっかりと狙いを定めて、それぞれ拳に握っていた道具を投げつけたのです!
「いきますよ!」
「えーい!!」
「なっ!?うわああ!?」
「よっしゃ!すごいね、二匹とも!」
耳に飛び込んできたのはススムさんの喜ぶ声でした。本音は嬉しかったけれど、好きな相手に頑張りを喜んで貰えたことに恥ずかしかったのも事実。対してスリープは想定外の出来事に慌てるばかりでした。なぜならあたしからは“いしのつぶて”、そしてソラさんからは“きのえだ”が飛んできたのですから。避けようにも手遅れだったのです。
「だけどいつの間にそんな道具を?」
「実はですね…………」
「さっき倒れたときに見つけたんだよ♪」
ススムさんが尋ねてきました。あたしは嬉しくなって得意気に答えようと思ったのですが、ソラさんに先を越されてしまったのです。せっかく彼と仲を深めるチャンスだったのに…………。
「私もビックリしたんだ。だけどもしかしたらこの場所って、他の探検隊が何度もやってきたのかも知れないね」
「どういうこと?」
「最初スリープがいた場所近くに、たくさん使い古しの道具が転がっていたんだよ。ということは、みんな狙っていたのかもしれない。あの小さな穴の先にあるお宝を…………」
「なるほど。確かに納得出来る推測かも知れない」
ソラさんの説明に興味深そうに耳を傾けるススムさん。あたしはそんな二匹の姿に嫉妬心を抱かないわけがありませんでした。
(いや。周りを気にしちゃダメよ、ココロ。ソラさんに出来ないことを見つけるんじゃなかったの?)
焦る気持ちを抑えるように自分に言い聞かせるあたし。そういえばルリリは無事なのかしら?………………気持ちが落ち着きを取り戻していく間に、ふとその事が頭に過りました。まだ解放できたわけじゃないのですから。
「スリープ!もうあなたは劣勢です!早くルリリを放しなさい!!」
「そうだ!浮かれてる場合じゃないや!」
スリープへ警告すると、ススムさんの表情がまた真剣なものに変化しました。もちろんソラさんとのやり取りも中断。意図した訳じゃないけど、彼女の“一人占め”状態が中断したことで、何だかあたしはホッとした感覚になりました。またススムさんと一緒の時間が増えるのですから。
「そんなこと出来るかよ!むしろコイツをどうするかも、オレの自由だってことを忘れるなよ!」
「何するんだ!?」
「うるせぇ!黙って見てろってんだ!」
「何だって!?うわあっ!!」
スリープが良からぬことを考えているのは確かだった。使命感からか勝手に身体が動くが、闇雲な突撃だけではどうにもならない。ぼくは“ねんりき”によって簡単に跳ね返されてしまったのである。
「大丈夫ですか!?」
「もう、いい加減にしてよ!」
「生意気な!同じ手がそう簡単に通じると思うなよ!」
「きゃあ!!」
「ソラさん!」
ぼくに続くようにソラも“きのえだ”を感情任せに投げる。しかしこれもまた“ねんりき”で跳ね返され、逆に自分の体にぶつかることになってしまった!!思わぬダメージに悲鳴を上げる彼女へ駆け寄ったココロに、スリープは言った。
「お前も何かする気か?無駄になるだけだぞ?」
「無駄ですって!?」
あたしは自分の中の忌まわしい記憶が蘇るような、嫌な感覚がした。だけど人間だった頃の姿なんて全く覚えてもないのに、なぜ?
「そうさ。無駄だ。さっきも言っただろう?知り合いでも何でもないヤツのために身体を張ってまで努力することに何の意味があるってんだ?」
「それは…………」
「お前も修業の身とは言え、探検隊なんだろう?だったらお宝を探すことだけにエネルギーを注げば良いんじゃねぇか?」
それはスリープの思い込みだ。あたしは自分が人間に戻る手掛かりが欲しくてダンジョンを冒険してきて、その中でススムさんと出逢っただけ。一緒に行動しているのは自分を助けてくれたチームと同じ探検隊、同じポケモンということに運命を感じただけに過ぎない。
「うるさい…………」
「あぁん?何か言ったか?」
ハッキリと反論すべきだったでしょう。だけど込み上げる色んな感情に阻まれてうまく言葉に出来ません。自分でも理由がわからないけれど、今は目の前の相手に何か憎しみみたいな感情を表現しようと、俯きながら「うるさい」と小声で呟き続けたのです。
「ココロ?」
「ココロちゃん、顔色悪いけど………大丈夫?」
ススムも私もココロちゃんが心配になり、声をかけました。表情が急に暗くなっただけでなく、ブルブルと身震いまでし始めたから。しかし彼女からは返事がありません。ますます私たちの心配は増長することになったのです。
「うるさい…………だと?もう一度言ってみやがれ」
「ココロちゃん!」
「危ないぞ!そこから逃げてくれ!!」
スリープが再び攻撃を仕掛けてきました。きっとココロちゃんだって“かなしばり”の効果が切れた訳じゃないはず。このままだと大ダメージを避けられない状況でした。私も、それからススムも必死に叫びましたが、彼女は一歩も動かなかったのです。
「アンタなんかにあたしの“ココロ”がわかるはずないだろう!?なめんじゃねぇよ!!」
「え?」
「ココロちゃん………?」
牙を向けるというのはこういうことを言うのでしょうか。クワッと顔を上げた彼女の姿は正しく牙を向く獣。理性的な部分など感じさせず、本能の戦くまま相手に向かう獣そのものだったのです。私たちは動揺するほかありませんでした。
「なんだと!?生意気な口ききやがって。ぶっ倒してやる!」
そんなことなど気にしないスリープ。むしろ歯向かってくる格下の相手が気に食わず、全ての“ねんりき”のエネルギーをココロに向けて集中させ…………そして放ったのです!!
「そんな簡単にいくかな!?それっ!!」
「な!?は、速い!!」
「一体どうしちゃったの、ココロちゃん!?」
ココロちゃんはしっかりと手に握る骨をガンッと地面に突き刺すと、その反動を使って素早くその場から移動。身軽な動きは私の“でんこうせっか”を彷彿とさせるもので、私たちは本当に別人になったような彼女の姿に驚くばかりでした。
「ち、逃げやがって!!だけど“かなしばり“が解けないんじゃどうにもならねぇだろ!そのうち体力が尽きて身動き出来なくなるだけだ!」
舌打ちをするスリープ。だけど余裕の表情が崩れた訳じゃありません。相手の言うのももっともな話で、決してココロちゃんが優位になったとは言い難い状況だったのです。
「フフ、相手の心配をしてる場合かな!?」
「ココロ!?」
「ココロちゃん!」
それでも彼女は強気な姿勢を崩すことはありませんでした。