ここは“トゲトゲやま”の頂上。地上と比べるとますます薄暗く、物寂しい雰囲気を感じてしまう。ポケモンたちの姿も見えないところから推測すると、暮らしていくためにはかなり厳しい環境なのかもしれない。
「あれ。行き止まり……………」
そんなところまでスリープと共に行動してきたルリリだったが、最終的にたどり着いたこの場の景色に急に言い様のない不安を覚えてしまう。
「ねえ、スリープさん。落し物は?落し物はどこにあるの?」
当然のことながら、ルリリがスリープに尋ねる。ところが返ってきた答えは衝撃的なものだった。
「ゴメンな。落し物は………ここには無いんだよ」
「えっ!?………それじゃあお兄ちゃんは?お兄ちゃんは後からすぐ来るんでしょ?」
一段と大きな不安と動揺がルリリを襲う。続けて質問をするが、スリープは表情を変えずに続けた。
「いや。お兄ちゃんも来ないんだ」
「え!?そんな!」
「実はオマエのことを…………騙していたのさ」
「ええっ!?」
スリープに真実を伝えられても、ルリリは理解が追い付かない様子。その小さい瞳からはうっすら涙だって見えるが、今さら後悔しても遅い。せめて自分の身に危険が迫らないように祈るばかりだった。
「それよりちょっと頼みがあるんだ。オマエの真後ろに小さな穴があるだろ?」
「え…………」
スリープに言われて一度背後を確認してみる。確かに自分が入れるかどうかの小さな空洞が壁にあった。しかし一体何が目的なのか、このときのルリリには全くわからなかった。
「あの穴の奥には…………実はある盗賊団が財宝を隠したんじゃないかというウワサがあるんだ。ただ、オレの体じゃ大き過ぎて穴の中には入れねえ。だから………小さなオマエをここに連れてきたというワケさ」
「!!!」
つまり自分は悪事に利用されてる。もちろんそんなことに協力なんてしたくない。
「大丈夫。言うことさえ聞いてくれれば…………、ちゃんと帰してやるからよ」
「ええーっ!!」
スリープの言葉を逆に言うならば、拒否すれば酷い目に遭うことになることを意味していた。叫んだ後に思わず後退りし、体を震えさせた。だが、そんなこと目の前の悪者には関係ない。
「さあ行くんだ!穴の中に入って………財宝を取ってこい!」
「お、お兄ちゃーーーん!」
「こっ……こらっ!待て!」
ルリリは恐怖を抑えきれなかったのだろう。元来た道を戻り、兄であるマリルの名前を叫びながら逃げようとした!しかし、スリープがそれを放っておくはずがない。素早く先回りをしてルリリの前に立ち塞がったのである!!
「全く!ちゃんと帰してやるって言ってるだろっ!言うことを聞かないと…………イタイ目に遭わせるぞっ!」
「た…………助けてっ!!」
「黙れっ!!」
ルリリはもう一度叫んだ。しかしこの頂上には他のポケモンの姿は無い。正に絶体絶命の状況だった。
「待てっ!!」
「なっ!?」
いや、他にもポケモンはいた。そう青いスカーフを首に巻いたぼく、ソラ、ココロによる…………
「そんなことはさせませんよ!」
「そうだ!おとなしくルリリを解放するんだ!」
「お前の悪事は探検隊の間でバレてる!観念するんだ、“おたずねもの”スリープ!!」
探検隊“トゥモロー”だ!!
「な、なぜここが!?」
「私たちは“トゥモロー”!探検隊だよ!」
「悪いヤツは見逃しません!」
スリープと対峙しているとき、特にソラがハート型のしっぽを逆立ててわなわな震えていた。怒りが込み上げているのだろう。一方でスリープは思わぬ相手の登場に動揺を隠せずにいる。
「た、探検隊だとっ!?じゃあオレを捕まえに………あ、あれ?」
…………と、思われたがここで拍子抜けたかのように、ソラに言った。
「もしかして震えているの?オマエ」
「それくらいソラは怒りが込み上げてるってことだ!!」
「ススムさん…………」
あたしはススムさんが本当のことに気づいていないんだと思いました。確かに全身の毛が逆立っているけれど、違和感は拭えませんでした。きっとスリープも同じように考えていたのでしょう。だからこのように言ったのです。
「…………そうか。わかったぞ。オマエたち、探検隊と言ってもまだ新米なんだな」
「!?」
「ううう…………」
そう。“おたずねもの”と呼ばれている連中はバトルの実力もそれなりにあるので、少しでも萎縮する姿を見せればバレてしまうのです。今回はあたしとススムさんはなんとか誤魔化せたものの、元々臆病だというソラさんは隠しきれなかったのです。
(全く…………また足を引っ張ってるじゃない。ススムさんも困っているわ。どうするつもりなのよ……!)
スリープに見破られたときから、ススムさんはソラさんを気にしてばかりでした。これでは状況が不利になるでしょう。案の定、相手も薄笑いを浮かべてこのように言いました。
「フフッ、確かにオレは“おたずねもの”だよ。でもオマエたちに出来るのかな?その“おたずねもの”を…………捕まえることが!」
「ううう………」
「ソラ…………」
完全にスリープから見下されてしまったせいか、ソラはすっかり萎縮しているのがぼくにも伝わった。正直この状態だとバトルに影響が出ないか不安になってくる。
しかしその不安は無用だった。彼女だって少しずつ成長していたのだ。
「い、いや。出来る!出来るさ!」
「ソラ…………うん、大丈夫。きっと大丈夫さ!」
「そうですね!一緒に頑張っていきましょう!」
小さな勇気を振り絞る姿に、ぼくもココロも自分を奮起させる。
「みんながいるんだ。だから、お前みたいな悪いヤツに負けるワケにはいかない!」
ぼくたちの後押しを受けて、ソラはますます
気持ちを強く保とうとしていた。ところが、スリープは動じる様子がない。むしろ大笑いをしてこのように言ったのだ。
「ハハハハ!今まで色んな探検隊に追われてきたが………こんな弱そうな探検隊は初めて見たよ!」
「ううっ………」
再び自信を失いかけるソラ。しかしもう後戻りは出来ない。
「面白い。オマエたちがオレを倒せるかどうか…………試してもらおうッ!!」
「来た!行くよ!!」
こうして初めての“おたずねもの”退治が幕を開けた!!
「“でんこうせっか”!!」
「ソラ!!」
真っ先に攻撃を仕掛けたのはソラである。一番スリープに見下されて、相当なイラつきがあったのかもしれない。これまでの自分の指示を尊重して行動してきた姿を見てきただけに、これにはぼくも驚かされてしまった。しかし!
スカッ!!
「え!?」
「どうして!?攻撃が当たらなかった!!」
「ククク………」
なんと技が命中しなかったのだ。ほぼ確実にダメージを与えられる得意技を繰り出しただけに、この失敗はソラを動揺させてしまう。対してスリープは気味の悪い笑いを浮かべるばかり。
「もしかして…………“よちむ”かも!」
「え!?」
「何だい、それは?」
少し離れたところにいたココロが何かに気づいたのか、小さく呟いた。ハッとしたソラが後ろを振り返る。しかしぼくにはさっぱりわからない。するとココロはこのように説明してくれたのである。
「“よちむ”というのはスリープや、他の種族の何種類かが携えてる特性ですよ、ススムさん。相手ポケモンの技を読み取って自分の回避能力を高める効果があるんです」
「なんだって?だとしたらソラの“でんこうせっか”がアイツに当たらなかったのは…………」
「恐らく読まれていたんでしょうね。あたしたちとやり取りしている間に…………」
ココロの推測通りだとすると、かなり厄介な相手になりそうだな……………ぼくはそのように感じた。何たってソラだけでなく、自分やココロの技も同じように読み取られている可能性があるのだ。下手に攻めることも出来ない。
「おやおや?たった一撃が上手くいかなかっただけで、怖じ気づいたのか?だったら遠慮無く攻撃させてもらうぜ?」
「そうはさせるかよ!!思い切り腕を振った“ひっかく”をお見舞いしてやる!!」
スリープが両方の手のひらを向けてきた。直感的にマズイとかんじたぼくは、とにかく何か打破しなければという焦りからか、突発的に直接打撃に出てしまったのである!!
「ガハハハ!!エスパータイプのオレに力任せが上手くいくと思ったのか!?“ねんりき”!!」
「う!?ぐっ!!前に………進めない!」
「ススム!?」
スリープの繰り出した“ねんりき”は想像以上のエネルギーがあったように感じる。いや、そもそも今回がエスパータイプとは初めてのバトル。それなのに戦略が上手くイメージ出来る前に行動してしまっては、そりゃ自らの首を絞めてしまうのも当然だった。
「うぅぅ…………ススムを離してぇぇぇ!!」
ソラは自責の念が強くなってしまったのだろう。既にスリープに読み取られているのにも関わらず、再び“でんこうせっか”を繰り出したのである!!
「!?………クククッ、懲りないヤツめ。オマエならそうやって来ると思ったぜ!!“かなしばり”!!」
「え!?きゃっ…………!動けないッ!!ススム!ススムーーー!」
「ソ、ソラ!!」
そんなソラの奇襲に一瞬スリープはビックリした表情を浮かべた。それでもやはり“よちむ”の効果からだろうか、すぐに彼女のことを返り討ちにしてしまったのである!ただ、返り討ちと言っても攻撃技を繰り出した訳ではない。ぼくへの“ねんりき”とは異なってはいるが、“かなしばり”によって、やはり動きを封じてしまったのである!!
必死に体いっぱいもがいて“かなしばり”を強引に振り払おうと懸命になったソラ。ところが抵抗虚しく段々と体力が削られて苦しくなるばかりだった。それでも小さな右腕を伸ばして、何とか自分に近づこうとする姿に、ぼくは心が痛くなってしまった。
そんなぼくたちの様子を見ながら、スリープは更に嫌な笑みを浮かべた。そしてこんなことを言ってきたのである。
「ククク、そんなに一緒にいたいか。だったら望み、叶えさせてやるよ!」
「な、何する気だ!?ソラを手を出したら許さないぞ!」
「そんな正義のヒーローみたく、ごちゃごちゃ言っている余裕なんかあるのかな?
ぼくはとてつもなく嫌な予感がして思わず叫んだ!当然のことながら、それだけでスリープが行動を止めるはずもない。そればかりか更に状況は悪化するばかりだった。
フワッ……………
「な、なんだ!?か、体が宙に浮いてる!?」
「ススム!」
「ススムさん!?」
そんな状況がしばらく続いたときだった。まるで風船のように、突然ぼくの体が浮いたのである。しかもそれだけでは済まされない。よくよく見ると少しずつソラの方へと近づいているではないか!!
(このままだとぶつかっちゃう!!だからといって、ソラも身動き出来ない!)
ぼくは焦りを隠せなかった。なるほど、スリープの言う「一緒にいさせてやる」というのは、こういうことだったのか。自分の手を汚すこと無く、信頼している者同士を傷つけるには最適な方法だろう。それでもダンジョンに住むポケモンたちから、攻撃されたときよりはマシなのかもしれない。だって彼女が好きだから。ソラがどんな風に思っているかは別にして。
「そんなこと、させるものですか~~!!」
「何!?」
『!?』
そのときだった。ココロがスリープに向けて骨を振り下ろしたのは!ぼくたちよりも更に後方で、しかも相手の意識の死角状態。彼女にとっては絶好のチャンスだった。
「あっ!!動けるようになった!」
「やった!!」
「げげっ!」
一瞬スリープからのエネルギーが途切れたようだ。間一髪でぼくとソラは身動きが取れるようになった。これでひとまずひと安心出来るかと思われた…………しかし!
「えっ//////!?」
「あっ/////!!」
衝突を避けるまでの猶予がなかったためか、とっさにぼくもソラも身を守るような動作をしたのだが、これが結果的にお互いの体を強く抱きしめる態勢になってしまったのだ。
当然ながら予想外の出来事、二匹とも頭の中が真っ白になり、これでもかと赤面していた。だけど悪い気分ではない。時間の経過と共に、ぼくは気持ちが癒されていくのを感じた。
(ソラの体、凄くふわふわする………。なんだろう、安心する…………。甘えたい…………。離れたくないな………//////)
ススムの心臓が鼓動する音を耳にしながら、私は瞳を潤ませていました。
(ううう………恥ずかしい………。またココロちゃんに変な風に思われちゃうよ………//////)
正直少しだけ彼が自分の体を動かしているのは知っていたし、その仕草が甘えを意味するのも理解していました。私だって本音は彼とこれ以上無いくらい一緒になって嬉しい気分でした。だけど周りの目線を考えると素直にその感情を受け入れ難い状況だったのです。
「お願い!離れて!!嫌ッ!!」
「ぐあっ!!!」
「ススムさん!?」
そんな複雑な感情は結果的に、雌として………女の子として本能的な恐怖を生み出してしまったのです。つまり、とっさに強い電撃を………本当は好きでたまらないススムに対して放ってしまったのです!
「もうっ!ススムの馬鹿!!私の気持ち、考えてよ!」
「ごめん…………」
ソラが怒るのも無理は無い。スリープからルリリを助けなきゃいけないって大事なときに、ぼくは自らの強すぎる恋愛感情…………いや、雄として………男としての本能的部分に負けてしまったのである。彼女の厳しい口調、悲しそうな表情に血の気も失せるほどにショックを受けてしまった。それでなくても度々彼女のことを傷つけてしまうことがあったというのに。
しかも、この出来事がますます事態をややこしくしてしまうことになるのだ。
「しょうがないですか。たまたまそんな態勢になっただけで、ススムさんは本気じゃなかったと思いますよ?」
「え?」
「何ですって…………!!!」
いつの間にかココロが自分の肩に手を添える形で、寄り添ってきたのである。しかも擁護するような発言。これにはソラの怒りの感情に油を注ぐ形となった。
「あなたに何がわかるって言うの!?そこまでしてススムのそばにいたいの!?もう知らない!!だったら二人で行動すれば良いじゃない!!」
「ソラ、待ってくれ!!」
「ほっときましょう。そもそも“パートナー”のくせに“リーダー”の指示の前に行動したのが、全ての始まりなんですから………」
「ココロ…………」
「自分はあなたに自信を失って欲しくありませんし………もっと頼って欲しいんです」
ココロはカラカラ特有の厳しい目付きで語る。しかしその言葉は優しく、ソラとは違う温かみを出していた。
確かにココロの意見は真っ当だ。確かにソラはスリープに見下されてしまう原因を作ったり、勢い任せで攻撃もしかけている。あんな風に変に抱きしめあうような格好になったのも、ぼくが思わず甘えるような仕草をしてしまったのも、彼女が悪いんじゃないかって思う。
「それよりもスリープはどこですか!?」
「は、しまった!!」
ぼくたちが揉めあってる間に、スリープが姿を消してしまった。しかもルリリを連れ去って。
「逃がしてしまったら大変なことになってしまいますよ!!」
「ちくしょう!」
何から何まで悪いことが連続してしまった。ソラのことが気がかりではあるものの、まずは与えられた役目を全うするのが先だ!とにかく手がかりを探すべく、ぼくはココロの手を引いて走り出したのである!!
「ス、ススムさん…………//////」
彼は無意識のうちに手を引いたのかもしれません。ですがその手からは彼の温もりが。だから余計に幸せな気分を感じました。出来ることならずっと離さないで欲しい。ソラさんに見せたような仕草をあたしにも見せて欲しい………そんな気持ちにもなってしまったのです。
「あっ!!これは…………」
「ソラさんのバッグ!?」
「なんでこんなところに!?」
「もしかして…………」
走り始めてそんな時間が経たないうちに、ソラさんのバッグが無造作に落ちているのを発見。しかも中身がある程度散乱しているところを見ると、彼女はスリープとバトルになったのかも知れません。三匹でいるときでもかなり怯えている様子でしたから、一匹では身動きも出来なかった可能性もありました。
「とにかく急がないと!!」
「そ、そうですね………!」
じっとバッグを見つめていたかと思うと、ススムさんはすっと左肩へと運びました。そして先ほどよりもさらに強い口調になったのです。
あたしはその姿を見て複雑な気分でした。彼の気持ちはソラさんから離れていないばかりか、むしろ自分のことなんか視野に入っていないんじゃないか…………そんな不安な考えばかり浮ぶのでした。
ピカッ!!
「!?」
「あっちだ!!もしかしたらソラかもしれない!」
「そ、そうですね!!」
そんなときでした!!突然目が眩むような光が飛び込んできたのです。ここは薄暗い山の中。“ふしぎだま”を使ったときに一瞬輝きを放つことはありますが、明らかにその光とも違うもの。当然自発的に光を出す物体や光を放つようなポケモンは存在しません。ススムさんの言うように、ソラさんが技を使っていると考えるのが妥当でした。
(良かった………!そんなに離れていないみたいで!!)
ぼくはひとまずソラが大事には至ってないことに安心した。むしろ一人で奮闘しているであろう現状を早く助けてあげたい………そんな気持ちにさせられたのである!
「ススムさん、ちょっと待ってください!」
「ん!?」
あたしは彼が冷静を見失ってないか不安で相談してみることにしました。何せ相手はこちらの身動きを防げるだけの持ち主。勢い任せで挑もうなら、また同じような結果になるのが明白でしたから。声をかけるのでさえ恥ずかしかったけど、彼はハッとした様子で振り返り、笑顔でお礼を伝えてきたのです。
「…………そうか。自信があるならココロに委ねてみるよ。ありがとう」
「ど、どういたしまして………/////」
改めて彼の表情を目にすると、余計に恥ずかしさや照れくさい気持ちが沸き上がるばかり。しかし、いつまでもそんな感情に浸っているわけにもいきません。あたしはススムさんの顔をじっと見つめながら、彼の手を強く握りました。彼は少し驚いた様子で多少動揺しているようにも感じましたが、自分を信じるような眼差しを向けて見守ってくれているような気がしました。
「それじゃあ行きましょう!!“あなをほる”!!」
なるほど地中に身を潜めるのか。これならスリープに体の自由を奪われる心配もないし、静かに近づける…………いつしかぼくは彼女に気持ちを委ねていた。ソラのときにも度々安心感を覚えてしまうけれど、ココロへの安心感はそれとはまた別のものだ。落ち着きがあって的確な判断をしてくれるところは、熱くなりやすい自分を悪いことから引き離してくれている感じがするのである。さすがは探検活動の経験者。この“トゥモロー”に加入して貰えて本当に心強く感じるばかりだった。
「でも、ココロ。どうやってソラのいる場所を把握するの?」
「安心してください。なぜならソラさんはスリープとバトルしています。だからお互いに技を使ったとき、ダメージを受けて地面に叩きつけられる衝撃などでわかるはずですから」
「なるほど」
そんなに自信があるならきっと大丈夫だろう。あとはソラがいる場所まで近づくのを待つだけ。ぼくは地中を掘り進めるココロに連れられてどんどん先へと進んだ。
ズゥーーーーン………。
「ん?なんか今、少しだけ揺れたような………」
「ですね!じゃあ、そろそろ地上に出てみましょう!!」
ココロはぼくに告げると、視線を正面から頭上…………つまり地上の方へと向ける。この先にソラやルリリがいるはず………ぼくらはそう信じて勢いよく地面を突き上げた!!!
「助けて!!探検隊のお姉ちゃん!!」
「!!!」
ススムの予想外の行動に、ココロちゃんの理不尽な言葉。私はぐちゃぐちゃになった色んな感情を抱えながら走っていました。もう全てがどうでも良い…………そんな投げやりな感情。ところがこの助けを求める声で、ハッと思いとどまることが出来たのです。そしてその声が聞こえた方向に視線を向けてみると。
「お姉ちゃん助けてぇ!!嫌だぁ!!」
「コラッ、うるさいぞ!おとなしくしろ!」
正にスリープがルリリを連れ去ろうとしていたのです!一生懸命泣き叫ぶ幼い子供相手に、これでもかと怒号を浴びせて。きっとススムやココロちゃんの注意が及ばない間に、さらなる悪事を働かせようとしているのは明らかでした。
「ま、待っててね…………!!」
なんとかしなくちゃ…………私はすぐにスリープを止めることを考えました。ところがそんな想いとは裏腹に、自分の体は緊張して動いてくれなかったのです。残念なことに、この場面でも私はスリープに対して怯んでしまったのです。あんなにルリリが助けを求めているにも関わらず。
「どうした、オマエ。そこにいると邪魔になるから退いてくれ」
「い、嫌だ!!ルリリを離すんだ!」
相手は完全に自分を見下している様子でした。そんな風になってしまったのも私の責任。だからどんな目に遭っても、たった一人しかいなくても、ルリリを解放して貰えるまで逃がすわけにいくわけがないでしょう!!
「何だと?あのカラカラが助太刀してくれて、命拾いしただけのヤツが何言ってるんだ?」
「う、ううぅ…………」
「そもそも元々コイツがおとなしく言うことを聞いていれば良かっただけの話なんだぜ?自分のことじゃねぇのに、わざわざ手助けしようなんて物好きなヤツだな?」
「!!」
「どうせ自己満足を満たすためにやっているだけなんだろ?」
私は衝撃を覚えました。それと同時に降りかかった虚無感。確かにスリープの言う通り、自分は実力も無いのに見ず知らずのポケモンの人助けをしている………それには一体何の意味があるのかと。
(私は自分の宝物の正体が分かれば、それだけで良いのにな………)
「さ、わかったらさっさとそこを退け。じゃないとオマエもひどい目に遭わせるぞ?」
(でも、ルリリのことを待っている兄弟がいるんだ………)
「聞こえてるのか?退けろって言ってるんだよ!!」
(助けられなかったらきっと、ススムが責められちゃうんだ…………)
「…………どうしても退けたくないんだな?」
(一番早くこの状況を知ったのは、ススムなのに…………。あのとき一生懸命言っていたのを信じていれば、こんなことにならなかったのに………)
「だったらお望み通り、ひどい目に遭わせてやる!!」
(そんなの嫌だ!!ススムに悲しい気持ちをさせたくない!!)
「!?」
やっぱり自分はススムが好きなんだ…………。さっきは動揺して怒ったけれど、あんなに甘えられて、彼に頼られている感じがして嬉しかったのも事実。それにススムを上手くサポートしているココロちゃんに嫉妬を感じているし、これ以上自分が何も出来ないなんて思われるのは絶対に嫌でした。だからこそここでスリープを食い止めようと決心したのです。同じギルドの仲間からすれば「探検隊としての自覚」よりも、「自分たちの気持ち」を優先するとは何事かと怒られそうですが。
…………次に目覚めると、私は元いた場所から随分と離れた場所で仰向けで倒れていたようでした。モクモクと黒煙が立ち込めてる上、かなり埃っぽい感じから推測するに、相当な爆発が起きたんだと思いました。恐らく相手の技と自分の技がぶつかりあったんだとも。
(ス、スリープは?ルリリは…………!?)
ハッとした私は周囲をキョロキョロ見渡しました。するとルリリは自分の隣で気を失っている様子。スリープがどこにもいないのが気になりましたが、今のうちにルリリを脱出させるのが先。そのように考えた私はバッジを天井に向けて高く掲げたのです!
「もうすぐお兄ちゃんのところに帰れるからね………!」
「お姉ちゃん!後ろ!!」
「!?」
慌てて後ろを振り返ってみると、そこにはスリープの姿が!!それもかなり殺気に満ちた表情をしていたせいか、より一層恐怖を感じたのです。一気に体の震えが止まらず、頭の中も真っ白になってしまったのです。
「“どくガス”!!」
「!!」
このままじゃいけない………。私は“どくガス”に巻き込まれちゃいけないと思い、とっさにルリリをかばう態勢をとりました。みるみるうちに辺りはガスに包まれてしまい、呼吸をするのも苦しい状態でした。
「お姉ちゃん!大丈夫!?」
「だ、大丈夫だよ…………。絶対にお兄ちゃんのところに帰れるから…………頑張ろうね?」
「う、うん!!」
ルリリに言い聞かせると、再び私はスリープの方に振り返りました。
「あなたには絶対負けない!!ここに来てからたくさんの事を乗り越えてきたんだ!!だから………だから悪者になんか負けないぞ!」
正直物凄い怖い気持ちだったのは変わらないけれど、敢えて強気な発言をしてその気持ちを紛らわそうと考えた私。思いきって電撃を放とうとしたそのときでした!!
「その通りだ、ソラ!!」
「みんなで力を合わせましょう!!」
「ススム!!ココロちゃん!?」
突然近くの地面が盛り上がり、そして突き破る形で二匹が姿を見せたのです!!もちろん役割を果たすべく集中力を高めていたこともあったでしょうが、重い空気はそこには無く、むしろより一層結束力が強くなっている感じもしたのです。
「ちっ!!イキがりやがって!!“ねんりき”!!」
「来ました!!気を付けて下さい!」
「大丈夫!!」
「ぼくたちは負けないよ!!」