変な題名ですね。
ベルリンフィルの架空の女性主席指揮者である主人公の名前です。
この映画 私のようにケイト・ブランシェットとクラシック音楽のファンであれば否が応でも興味をそそられる映画なのですが、逆に興味を持っていない人にとっては最後まで見ることは苦痛以外の何ものでもないという映画です。
そもそもそういう人は最初から見るわけもないのですが…
とにかくいきなりエンドクレジットから始まり、その後彼女の経歴を説明するインタビューアーの声が流れ彼女がこの分野では最高の位置に君臨する才能ある指揮者であることを説明しその後もインタビューシーンが延々と続きます。
最初の質問は演奏家の性差別についてというところがこの物語のキーポイントを暗示しています。
専門的な話が続き興味もない人は大体導入部で眠ってしまうでしょう。
一見ミステリー映画の様であり、オーケストラ界の実態を暴露したような映画であり、そこに同性愛の話も絡み、頭をフル回転させ各シーンや画面の意味を理解し推理しながら見ないと全く訳が分からない映画でネタバレ解説を見て初めて理解しそれを踏まえてもう一回見るといった映画なのです。
この主人公は自らレズビアンであることを公言し、妻役の楽団の女性コンサートマスターと家庭を持ち子ども(養子)もいます。
この映画は彼女の女性遍歴?を軸としてストーリーが展開していくわけですが、それらしい直接的なシーンは無いけれどそれを前提として見て色々詮索しないと話が全く理解できません。
因みに、この主人公はパパ役を務めていることを表現するために字幕が敢えて男言葉にしているというのが何とも違和感があります。
フルトヴェングラーが戦後ナチスに協力したことを追求されクラシック界から追放された話(映画の中では否定する意見も述べられています)やシャルル・ドュトワやベルリンフィルの常任指揮者だったジェームズ・レバインが過去のセクハラ疑惑で音楽界から追放された話も出てきます。
先日NHK交響楽団の歴史をETVで放送していました。
その中で歴代の客演指揮者や常任指揮者のビデオ映像が多数流されていましたがその中にシャルル・ドュトワは全く登場しませんでした。
彼はカナダのモントリオール交響楽団の指揮者としてロンドンレーベルから発売したCDが次々とヒットし、クラシック界ではまさに「時の人」的存在であったのをNHK交響楽団の常任指揮者として招聘されたのです。
数々の演奏会をこなすだけではなく様々な番組にも登場しまさに当時NHKでのこの分野のスターであったはずなのですが…。
そう言えば彼の妻は高名なピアニスト マルタ・アルゲリッチ。
来日する飛行機の中で激しい夫婦げんかをしてアルゲリッチが日本に到着するや否やそのまま帰ってしまいその後離婚しましたが、多分喧嘩の原因はドュトワの浮気だったのではないでしょうか。知らんけど
この映画の中でバッハを嫌っている指揮者志望の学生相手に主人公の彼女が説教するシーンがあります。
彼はバッハは白人で女性差別主義者で多くの女性に20人もの子供を産ませたことを毛嫌いして彼の曲を聞くことも演奏することも拒否しているわけですが、彼女は性別や出生地や性的能力でバッハを過小評価するなら君もそうされるぞと糾すのです。
この映画はその舞台がベルリンフィルで、彼女の振る舞いは何となくカラヤンの権威主義と傲慢さを彷彿とさせるものがあります。
フルトヴェングラーがナチに協力したという噂を流し、彼をベルリンフィルから追い出した裏には後釜を狙ったカラヤンの働きかけがあったと言われています。
この映画の中で主人公が若い女性チェリストに惹かれて抜擢する話は、楽団員を無視してカラヤンお気に入りのクラリネット奏者ザビーネ・マイヤーを入団させた事件にかぶるし、彼女の地位を脅かそうとする副指揮者を破滅させ死に追いやったことで楽団から追放されるという結末も、最後には楽団員からそっぽを向かれ帝王カラヤンが追い出されるという事実を意識せざるを得ません。
今は亡き両性愛者バーンスタインを師と仰ぐ彼女ですが、クラシック界にはLGBTが多いという示唆なのかもしれません。
それにしてもこの映画を詳細に解説しているブロガーがいて、ただただその観察眼の鋭さと博識さに脱帽。
一例として、この映画でターに誰かから送られたというプレゼントが届きます。
その包みを開けるとそれはヴィタ・サックヴィル=ウェストの「挑戦(Challenge)」という本です。
そうしてターはこの本を破り捨ててしまいます。
このシーンを見て意味を理解できた人は相当博識な人でしょう。
このブロガーはきちんとこの場面の意味を説明してくれています。
このような場面がいくつも登場し、まるで謎解きをしているような感覚ですがその一つ一つを見事に解説しています。
一体これを書くのにどれくらい時間をかけたんでしょうか。
「TAR ター」 ネタバレ解説1 底なしに深い映画を時系列に沿って解読・考察! | MOJIの映画レビュー (ameblo.jp)