3 白靴下団と仔熊団そして燻製BBQ その1
34年振りにMLB(メジャーリーグベースボール)観戦する日の朝、興奮していたのか早い時間に目が覚めてしまった。
8時になるのを待って朝食を買いにホテルから出ると、冬の様な冷たい風が吹いていた。寒さに負けてホテルと同じビル内にあったスターバックスコーヒーに入る。ミディアムサイズ(日本ではトール)のドリップコーヒーとソーセージエッグマフィンを$6でテイクアウトして部屋で朝食とする。
スタバのドリップコーヒーは物価高のアメリカでは日本より安価な数少ないもの(ミディアムが約¥250)で、それ以降ニューヨークやワシントンD. C.で何度も通うこととなる。一般的にスタッフの愛想が悪い店が多いアメリカでも、スタバは別で感じ良くフレンドリーな接客をしていた。
シカゴホワイトソックス対ミネソタツインズ戦は13時開始なので、午前中はミシガン湖近くの公園を散歩した後、早めの昼食を取って球場へ向かおうと考えていた。
9時半にホテルを出発、ブラウンラインに乗りランドルフ/ワバッシュ駅で下車した。ミシガン湖沿いにある、広大なマギーデイリーパークの一角をぶらりと散歩した。
テレビの天気予報によると、早朝は気温が3度と低かったようだが、昼には17〜8度と暖かくなるらしい。少しずつ気温が上がって来てあまり風が吹いていないこと、そして日曜日もあって公園近くのカフェはテラス席でブランチを楽しむ人々が多かった。
シカゴで一番人気のあるミレニアムパークを歩いてみる。この公園から見る摩天楼のビル群は、古い石造りのビルと新しいカーテンウォールのビルが上手く混じり合っていて、街の風景の一部となっていた。
ミレニアムパークには種々のアート作品が置かれていて有名な場所と聞いていた。
「クラウンファウンテン」は直方体の側面液晶にシカゴ市民の顔を映し出すアート作品の噴水だった。クラウンさんが寄付したので、彼の名前が付けられているそうだ。残念ながら定期メンテンス中の様で、液晶で市民の顔だけを見ることが出来た。
「クラウドゲート(通称:ビーン)」はティファニーのアクセサリービーンズを大きくした豆のような形状のアート作品だ。その形が雲の門を表すのか、ステンレスの表面に映し出される雲を門と捉えるのか、それとも両方の意味なのか考えてしまう。ビーンは見る角度によって曲面に映り込む景色が変わっていくので、しばらく戯れてしまった。
13時が試合開始なので、11時少し前に昼食を取ろうと公園横にある「名軒(ミンヒン)」という広東料理店に入った。店内のインテリアが香港島セントラルにあるような感じで、一瞬シカゴにいることを忘れてしまった。この店は飲茶を終日提供している様で、写真が印刷されたパンフ状のメニューにオーダー数を書いて渡すシステムだった。私は皮蛋(ピータン)粥、排骨豆鼓蒸(スペアリブのトーチー蒸し)、マンゴープリンの3品を注文した。
味は香港風の薄味でとても美味しかったが、ボリュームが日本の倍くらいあり、ここはアメリカだと痛感した。海老腸粉(ライスクレープ)が注文漏れになっていたのは私にとって幸いだった。満腹となりチップ込み$17を支払った。
早い時間に球場へ行き雰囲気に浸りたいと思っていたので11時半には店を出た。レイク駅からレッドラインで行こうと考えて駅を目指し歩いていくと、ループのランドルフ/ワバッシュ駅が見えてきた。大都市に残る鉄道遺産の雰囲気を鉄骨造高架橋と錆が浮き出たトタン屋根が醸し出していて、しばらく見惚れてしまった。
シカゴホワイトソックス(Wソックス)の本拠地「ギャランティードレートフィールド(前年まではUSセルラーフィールド)」は、シカゴ南側の郊外にある。今年からネーミングライツで携帯電話会社から住宅ローン会社へ移り、14年振りに名称が変わった。Wソックスはアメリカンリーグ中地区に属し、かつて高津臣吾(元ヤクルト)や井口資仁(現ロッテ監督)が在籍していた。
レッドラインの電車が地上に出て15分位で、最寄り駅「SO X−35T H」に着いた。球場アクセス駅にしてはホームや改札口が小規模で、帰りに観客が集中したらさばき切れるのか‥という感じだった。(実際大した混雑もなく1本見送り乗車出来た)
ユニホームを着たグループに付いて行かなくても、駅の近くにフィールド(球場)の入口が見えた。
チケットのバーコードをスキャンして入場する。東京ドームのように座席カテゴリー別入場口ではなく、一ヶ所から入場する西武ドームのようなスタイルだった。
私の座席は4階席でホームベース後方の上だったが、試合全体を見渡すには良い席だろう。座席確認後に球場内をざっと歩いてみる。目についたのは飲食物価格の高さで、ビール$8.75(ミラーやクアーズ)か$9.75(コロナ)、ホットドッグ$6.75、ピーナッツ$4.75といった具合だった。売り子からビールを買う時はチップ込みで$10渡す人が多く、小瓶ビールが千円以上とは日本だとホテル価格と同じだ。昼食後で満腹だったこともあり、ここでは飲食無しで野球観戦に集中することにした。
やがて先発選手が大きなLEDボードに写真・プロフィールとともに発表された。先発投手は、Wソックスがキンターナ、ツインズがサンタナとヒスパニック系の似た名前の2人だった。
34年前にシアトル(当時はキングドーム)で生まれて初めてMLBを観戦した時も、マリナーズ対ツインズだったので、何かの縁があるのかも知れない。
この日はWソックスのシカゴ本拠地開幕ウイーク中だったようで、試合開始前にミリタリーセレモニーや市の幹部による始球式が行われた。
試合開始時間になると、パーク内の全員が自然に起立脱帽して女性歌手を先導に国歌斉唱となった。それは野球を通じ観客全員が一体感を感じる「凛」とした時間だったと思えた。
ゲームが進むに連れて試合展開に気持ちが集中していった。シカゴの先発とセットアッパーが1本ずつホームランを打たれ、1対4でWソックスが敗れた。ホーム側にホームランが出なかったので、名物の「バックスクリーン上の風車回転」を見られずに残念だった。
しかし7イニングストレッチで「ボールパークに連れてって」を他の観客と合唱したりと楽しい時間を過ごすことが出来た。帰り際に球場の階段テラスから見たシカゴ摩天楼の景色は美しく、忘れがたいものになるだろう。