2005年8月。火の国熊本を車で旅した。熊本県の菊水町(現・和水町)に父方の菩提寺があり随分久しぶりに墓参りをした。蝉時雨に包まれる境内は閑かだった。納骨堂に立ち並ぶ納骨壇の一つに父方のオリジンがあった。祭壇に手を合わせながら少し祖先のことを考えた。
その日は玉名立願寺温泉に泊まり馬刺しと球磨焼酎を堪能し、翌日熊本市内へ移動した。上通りや下通りは北九州より遥かに賑やかで南国の都会のイメージがあった。昔買ったNOVAのVOICEチケットが残っていたのでフラッとNOVA下通り校のVOICEに入った。
それにしても暑かった。その日の気温は36℃を超えており、受付の女性に「暑いですねぇ~」と声をかけると「今日は涼しい方ですよ!」と涼しい顔で答えた。「ここはどんな街や!?」と思った。
VOICEには数名の生徒がいた。平日ではあったが学生・社会人ともグループ①が多かった。なおこのグルーピングについては「続・英語の散歩道(その3)-電子辞書とレベル3・4の群像」に記載している。
熊本の生徒たちと英会話を重ねるうち熊本県民のある気質がわかってきた。一言でいえば閉鎖的、排他的かつ頑固だった。私が「北九州市出身」と口にすると会話の内容が何となくよそよそしくなった。「こいつはよそ者だ!」という態度が会話から感じられた。
暫くして「博多出身」の男子生徒がVOICEに入ってきた。今度は一転、全員が彼に対して攻撃的な態度をとり始めた。明らかな対抗意識が感じられた。「料簡(了見)の狭い奴らだ!」と感じたが、何処か父を彷彿とさせるところがあった。
状況はやや異なるが、安田火災の新入社員研修で以下のようなことがあった。同期に熊本大・空手部出身の男がいた。その日の研修は班に分かれてあるテーマに対するディベート(討論)とプレゼン(発表)だった。嫌でもとにかく人に負けじとしゃべらなければならない。
当日のディベート・プレゼンが終了して新入社員各自が当日の感想を述べる時間となった。熊本大の彼の感想を今も思い出す。
「私は父母から『男は女みたいにベラベラしゃべるな!』と言われて続けて育ちました。今日の研修で私が父母の教えに従ってしゃべらずにいるとスタッフの方は『○○!何かしゃべれよ!』と急きたてます。私は自分がどうして良いのかわからなくなりました。」
場違いとは言え、父母の教えを尊重する彼の意見に共感できた。また、口が達者な都会出身の輩たちに敵意に近いものを感じており、心の中で彼にエールを贈った。
世に「肥後もっこす」という言葉がある。Wikipediaによれば「①純粋で正義感が強く一度決めたら梃子でも動かないほど頑固で妥協しない男性的な性質を指す。」とあった。
その一方で「②自己顕示欲が強く議論が好き。異なる意見には何が何でも反論し、たとえ自分が間違っていると判っても自分の意見を押し通す。」と続いていた。
さらに「③短気で感情的かつ強情っぱりで九州男児そのものだが、意外と気の小さいところもあるのが特徴。」そして「④プライドや競争心が強く特に恥やメンツにこだわる傾向がある。」と結論付けていた。
よくよく考えてみると ……、この気質は父を彷彿とさせるどころか、まさに私自身を言い当てたものであった。