続・英語の散歩道(その13)-香水漂う翻訳の世界 | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

2005年に入った。この年はあまり印象が無いがGEOSでの英会話学習は継続したまま、DHCの翻訳の通信教育を受講してちょっとだけ翻訳の世界を覗いてみた。

 

「英日実務翻訳ビジネスコース」というものでビジネス文書の英文和訳のコースだった。受講すると分厚いビジネス英和/和英辞典が付いてくる特典があり辞書欲しさに受講した。受講修了の証として翻訳「認定証」らしきものが送られてきたが手許に残っていない。

 

当時「翻訳」と言えば「英文和訳」イメージがあったが、課題の英文和訳を手書きするのが面倒でWORDに打って印刷し解答用紙に貼り付けて提出した。「翻訳って面倒くさい!」という印象だけが残った。

 

 

その頃、ネットを検索していて福岡市のある翻訳会社(フリーランス翻訳者設立の個人企業)が翻訳者を募集していることを知りトライアル(TRIAL)に応募してみた。英文和訳である。暫くしてトライアル問題が送られてきた。

 

なお、トライアルとは翻訳会社(委託者)などが翻訳者(受託者)を募集するにあたって課す試験のことで、このトライアルに合格すると、翻訳者は自らが十分な翻訳スキルを持っていることを証明することができ、翻訳業務を受託することができるようになる。

 

翻訳言語(英語、ドイツ語、中国語など)、翻訳分野(法務、金融、特許、環境、電気・機械など)及び翻訳方向(英⇒日・日⇒英など)により複数の問題が課されるのが普通である。

 

送られてきたトライアルの英文は、自動車のある部品(?)の組み立て方を記述したものだった。全く未経験かつ畑違いのものだったが、とにかく和訳して送ってみた。英文から日産自動車関連の文書であることが推測できた。

 

暫くすると先方から返信があった。履歴書・職務経歴書を送ってほしいという。書類を送ると電話が入り面接したいと言ってきた。

 

その翻訳事務所は福岡市の西鉄大橋駅近辺にあった。事務所に入ると40代半ばの女性がデスクに座っていた。スラっとした方で女性編集長然とした雰囲気があった。フリーランス翻訳者数名でその事務所を経営しているらしい。事務所内にはあまり強くない香水の香が漂っていた。

 

彼女は私に翻訳者の資質が十分にあることを告げると、今後OJTのつもりで翻訳の仕事を受けてみませんか、のような話をした。私は少し考えさせてほしい旨告げて事務所を後にした。会社員たる身、副業は会社の許可を得る必要があった。その一方で、自分の英語力が金になるかも知れないという少し甘い誘惑を感じていた。

 

 

帰宅してから調べてみると ……、当時社員に副業を認めている会社は殆ど無かった。もちろん私が勤務する会社も就業規則で副業を禁止していた。ましてや私は、従業員にそんな規則を遵守させるべき管理部に所属していた。

 

他にも管理部のISO対応のために、セミナーの受講や内部監査員資格の取得などを控えており、結局「今はタイミング的に無理!」と先方に連絡してお断りした。

 

 

しかし、それから3年余りが経った2008年。自分が複数の翻訳会社の和文英訳のトライアルに同時に挑戦している姿など当時は想像することもできなかった。