その1(№5337.)から続く

今回は名阪直通特急と東武特急、そして小田急ロマンスカーの「その後」を取り上げます。

タイトルですが、本当は「名阪直通特急・東武特急・小田急ロマンスカーの『その後』」としたかったのですが、これだとアメーバブログの設定であるタイトルの字数制限をオーバーしてしまうため、内容を正確に反映できていないことは承知の上で、このようなタイトルにしました。


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【『名阪直通特急の半世紀』及び東武の日光・鬼怒川特急を取り上げた『光の射す方へ』】

 

【小田急ロマンスカーを取り上げた『浪漫一刻値千金』】


では順次見て参りましょう。

【名阪直通特急】
名阪直通特急は、連載終了後現在に至るまで、ノンストップ系統(甲特急)が21000系「アーバンライナー」(21020系『アーバンライナーNext』を含む)、主要駅停車の乙特急が汎用車で運転されるという体制はしばらく変わっていませんでした(乙特急に関しては一部例外あり)。今年に入り、名阪甲特急には新型車両80000系「ひのとり」が登場、名阪甲特急の大半の運用を掌握しました。来年3月までには、全ての名阪甲特急が「ひのとり」になる予定です。連載の最終回で「需要拡大の積極策を打つことは可能か」と述べていますが、近鉄の考えた「需要拡大の積極策」のひとつは「ひのとり」投入といえます。
80000系は、それまでの近鉄特急にはなかった深みのある紅色を纏い、メタリック調のカラーとなっています。そして圧巻は何といっても車内設備。この車内設備には、5年前にデビューした観光特急「しまかぜ」50000系のそれが少なからずフィードバックされており、両端をハイデッカー構造のプレミアム車両、中間をレギュラー車両としていますが、両者に共通するのは、座席に「バックシェル」を採用していること。これは「しまかぜ」にもなかった設備で、これによりリクライニング時のストレスを解消しています。またプレミアム車両には、本革張りのフルリクライニングシートを採用し、アーバンライナーのデラックスカーよりも、さらに快適性が高められ、豪華な車内となりました。
もっとも、その代償ということか、プレミアム・レギュラー問わず「ひのとり特別料金」を徴収し、他の特急よりは割高になっていますが、それでもその快適性や先進性を考えれば、割高な料金もやむを得ないことのように思われます。
さて、それでは「ひのとり」に名阪甲特急運用の座を追われた「アーバンライナー」は、退役するのかといえば、勿論そんなことはありません。こちらは名阪乙特急に転用され、来年3月までに名阪乙特急は全て「アーバンライナー」に統一されるということです。
その一方で、長年にわたって近鉄特急の屋台骨を支え続けてきた、12200系「スナックカー」は、「ひのとり」投入と「アーバンライナー」転用などによる他の汎用車の転用により、退役が進められています。同系が退役すると、昭和33(1958)年から連綿と続いてきた、オレンジに紺色(インディゴブルー)の近鉄特急カラーは見られなくなります。
しかし近鉄は30000系「ビスタⅢ世」改め「VistaEX」をいつまで使うんだろ。
ちなみに、これも最終回で述べた「阪神直通の特急」ですが、団体列車では実現を見ているものの、一般旅客が乗ることのできる列車としては、現在まで運転実績はありません。

【東武特急】
こちらは最終回で「観光輸送に軸足を置きつつビジネス需要も取り込むべき」と提言をしておりますが、まさにそのような双方の需要を満たす汎用特急車として、平成29(2017)年、500系「Revaty」が導入されました。500系はまず3連が8本導入され、日光方面と鬼怒川・会津方面の列車を併結する特急運用をメインに活躍を開始しました。その他、汎用特急車であることを生かし、野田線(アーバンパークライン)直通や伊勢崎線方面の列車との併結などが実現しています。特に会津方面への直通特急「リバティ会津」は、以前運転されていた「南会津」の復活でもあり、沿線自治体、特に福島県南会津町がこの列車にかける期待は凄まじく、地元の信用金庫が「リバティ」の名を冠した貯蓄商品を売り出したのは驚きました。
その一方で、浅草から日光・会津方面へ直通していた快速・区間快速が全廃され、このときの運転系統の刷新は、あまりにも露骨な特急誘導ではないかという批判があったのも事実です。しかしこれは、インバウンドを見込み、特急料金の徴収で収益を上げようという目論見であり、企業の姿勢としては当然のことです。もっとも、昨今のコロナ禍により、インバウンドによる収益はほとんど画餅に帰しましたが。
その他最終回で述べているのは、赤城・足尾方面との回遊ルートの創出、100系の代替車投入の必要ですが、前者は当時と変化はありません。後者は、100系のリニューアルこそなされましたが、新車の投入には至っていません。東武は3年前の中期経営計画で「フラッグシップ特急」の導入を明言していますが、昨今の情勢に鑑みると、実現はなかなか厳しいのではないかと思われます。

【小田急ロマンスカー】
こちらは最終回で①今後の車両の陣容、②江ノ島線系統への「テコ入れ」について述べていますが、まず①については、連載の翌々年、バリアフリー対応が困難なHiSE10000形・RSE20000形がそれぞれ退役し、「あさぎり」も御殿場-沼津間がカットされ、新宿-御殿場間の運転に変更されました。使用車両もMSE60000形に変更され、基本編成の6連のみが御殿場線に乗り入れる形態となっています。「あさぎり」はその後、平成30(2018)年3月のダイヤ改正で「ふじさん」と改称しています。
HiSEの退役で、展望席を持つロマンスカーはLSE7000形とVSE50000形のみになりましたが、LSEも落成後40年近くが経過し、性能・車内設備双方での陳腐化が顕著であったことから、平成30年、新たな展望席を持つ70000形GSEによって置き換えられました。GSEのGは「優雅」を表すGracefulの頭文字ですが、GSEがそれまでのロマンスカーと大きく異なるのは、展望席を有しながら、連接構造ではなく通常のボギー車であること。なおかつ車体色は紅色ともオレンジ色ともつかない、撮り鉄泣かせの微妙な色調となっています。
なお、LSEは平成30年のダイヤ改正実施時は生き延びたものの、その後の7月で定期運用から離脱、その後はイベント列車に使用され、退役しています。
次に②の江ノ島線系統へのテコ入れですが、地下鉄直通のロマンスカー「メトロえのしま」が平成30年のダイヤ改正から運転を開始しました。この列車は観光需要に応えるものであるためか、土休日のみの運転とされており、停車駅も通常の「えのしま」が停車しない成城学園前に停車する一方、「えのしま」が停車する大和は通過するなどの差異があります。ただし、他社のライナー列車のような着席通勤列車、あるいは南海「サザン」のような自由席車と指定席車を混結した列車は世に出ませんでした。このあたりはやはり、「ロマンスカー」のブランドイメージを守るためだと思われます。
なお、上記平成30年のダイヤ改正においては、GSE使用列車である下りの「スーパーはこね」について、新宿-小田原間60分運転が実現しています。これは昭和32(1957)年に3000形SE車を投入したときの最終目標で、そのために車体を軽量化し、連接構造を採用するなど、高速性能に意を用いたのがSE車。しかし実際には、その後の列車ダイヤの過密化その他の要因により、「新宿-小田原60分」は実現しないまま、SE車は平成4(1992)年に退役しました。それが実現したのは、SE(→SSE)退役から26年後、通常のボギー構造であるGSEによる列車。これは、制御・駆動系の長足の進歩があったことで、連接構造など特殊な構造にする必要がなくなったことと、代々木上原-登戸間の複々線化完成により線路容量に余裕ができたことが主な要因となっています。
そして残念なのは、VSE限定で行われていた、軽食・茶菓のシートサービスが平成28(2016)年限りで停止されてしまったこと。これは飲食物の調達チャンネルの多様化による売り上げ減少、あるいはロマンスカー利用客が観光客に限られなくなったことなどが理由ですが、やはりああいうサービスは定期列車では成り立ちにくいのでしょうか。
今後は小田急線内各駅へのホームドア整備計画の絡みもあり、VSEの去就が懸念されていますが、何とか活躍を続けてほしいものです。

以上、駆け足ですが近鉄、東武、小田急の各私鉄特急について「その後」を概観して参りました。前向きな変化、後ろ向きの変化、それぞれあるところですが、鉄道利用のますますの隆盛を期待したいものです。

次回は、「還暦のM・傘寿のS」の続編、「古稀のM・卒寿のS」と参ります。

その3(№5352.)に続く