-その6(№6482.)から続く-
今回は、「花の万博」の15年後、2005年3月25日から同年9月25日までの185日間にわたって愛知県下で開催された「2005年日本国際博覧会」、通称「愛・地球博」について取り上げます。以下では当該博覧会の名称を「愛・地球博」で統一します。
「愛・地球博」開催に関しては、開催コンセプトそのものが「自然の叡智」とされ、かつ管理者のBIE(国際博覧会事務局)が1994年「国際博覧会は地球規模の課題の解決に貢献しなければならない」という、現在のSDGsに通じる方針を打ち出したことなどから、観覧客輸送に当たっても、公共交通の利用を促す方針が取られています。
「愛・地球博」開催については、この方針との関係で開催場所の選定などに紆余曲折があったのですが(当初計画予定地の『海上(かいしょ)の森』にオオタカの営巣地が見つかったなど)、当連載の趣旨とは外れますので、そのことは詳述いたしません。
ただし当初計画と開催場所が異なってしまったことで、観覧客輸送の計画も変更を余儀なくされました。当初計画では瀬戸市エリアの「瀬戸会場」を中心に考えられていたのですが、これが上記オオタカ営巣地の発見などの影響により縮小、別途愛知青少年公園をメインとする「長久手会場」が追加され、アクセスルートとなる愛知環状鉄道(愛環)の計画も変更されています。当初計画では、愛環の路線上の瀬戸会場最寄りとなる場所に仮の新駅を設置するものでしたが(当時の国鉄常磐線の万博中央駅と同じ)、長久手会場の設置が決まったこともあり、両会場から1~2kmの八草駅(こちらは既存の駅)を拠点とすることにし、同駅から瀬戸・長久手両会場と結ぶシャトルバスを設定することに決定しました。
なお八草駅は「愛・地球博」開催期間中は「万博八草」に改称、案内に役立てられています。これは1970年に開催された「大阪万博」で、国鉄茨木駅に「万博東口」という副名称をつけて案内していたのですが、正式に駅名変更や副名称付与の手続きをしなかったため、国鉄当局は勿論旅行会社も大っぴらな案内ができず、乗客の方も混乱を来したという、「誰も得しなかった」一連の出来事について、愛環が教訓として生かした結果と思われます。
愛環では、高蔵寺駅の配線を変更してJR名古屋方面からの直通列車を受け入れ可能とし、さらに路線を一部複線化することで増発にも対応させています。このような設備面での改善は、「愛・地球博」開催の前年までに順次進められました。
また愛環とは別に、藤ヶ丘(藤が丘)から八草へ向けて、愛知高速交通東部丘陵線(以下単に「東部丘陵線」又は「リニモ」という)の路線を建設することも決定しています。こちらは2001年に軌道法に準拠した「特許」を取得、建設・開業にこぎつけました。
東部丘陵線は、普通鉄道とは異なる走行方式であり、広い意味での新交通システム(AGT)の一種ですが、普通鉄道に比べて輸送力では一歩譲るため、あくまで補助的な位置づけとされました。東部丘陵線の万博会場駅(現:愛・地球博記念公園駅)が長久手会場の北ゲートに直結、瀬戸会場からは離れているため同駅から同会場までのシャトルバスが設定されました。
東部丘陵線が何故「広い意味でのAGTの一種」という、何とも奥歯に物の挟まったような言い方をしたかというと、同線が「HSST」(HSSTとはHigh Speed Surface Trainの頭文字を取ったもの)という「磁気浮上式鉄道」だから。「HSST」の原理そのものは中央リニア新幹線と同じで、車体が磁力により浮上している点も同じですが、リニア新幹線ほどの高速走行は必要でないことから、磁性体を冷却する「超電導」ではなく通常の温度の範囲内で走行を行う「常電導リニア」となっています。ちなみに「リニア地下鉄」も案内軌条が線路であり浮上走行をしないだけで、「常電導リニア」と同じ仕組みです。東部丘陵線の案内上の愛称が「リニモ(Linimo)」となっているのは、それにちなんだものでもあります。
「愛・地球博」への観覧客輸送は、予想入場者数を1500万人として対策が進められました。
観覧客輸送には上記BIEの方針から、公共交通がメインに据えられたことは勿論ですが、鉄道に関して言えば
① JR中央本線~愛環で万博矢草駅利用 約37%
② 名古屋市営地下鉄東山線~東部丘陵線で万博会場駅利用 約15%
③ 名古屋駅・名鉄瀬戸線尾張瀬戸駅・名鉄豊田線黒笹駅からシャトルバス利用 約7%
の合計59%と予想し、輸送計画を立てました。残りの41%は道路(自家用車・貸切バスなど)の利用が見込まれ、道路環境の整備も並行して進められています。
JR東海は名古屋~万博八草間を直通する快速「エキスポシャトル」を設定、約20分おきに運行、1日40往復という設定本数で、名古屋~万博八草間を最短38分で結びました。車両は、当時新鋭だった211系ロングシート車。「愛・地球博」開幕当初は7連でしたが、観覧客が増えて混雑が激しくなると編成が増強され、最長で10連までになりました。211系は、ロングシート車ならではの収容力の高さとも相まって、多くの観覧客輸送に貢献しています。
また鉄道趣味的視点から見て興味深いのは、GW(4/29~5/8)や夏休みから万博閉幕にかけて(7/16~9/25)の期間限定ですが、国鉄型113系の10連も「エキスポシャトル」に充当されたこと。JR東海の113系は「愛・地球博」開催の2年後の2007年に全廃されているため、同系にとってはまさに「最後の晴れ舞台」といえる運用でした。
また一部の「(ワイドビュー)しなの」について、高蔵寺へ臨時停車させて愛環との乗り換えの便宜を図っています(上下各4本)。
切符に関しても、JR北海道以外の5社が「新幹線愛知万博往復きっぷ」を発売。これは新幹線や特急を使って名古屋駅に向かい、JR中央本線・愛環経由でリニモの万博会場駅まで往復できるものでした。購入には「愛・地球博」の入場券又は入場引換券との同時購入、もしくはそれらを呈示することが条件でしたが、単純な運賃・料金の加算に比べて約15%割り引かれた設定となっていました。
これら往復切符は、実は愛環経由に観覧客を誘導し、混雑を平準化する意図もありました。名古屋駅からであれば、地下鉄東山線とリニモの乗換えが最短ルートですが、いずれも輸送力が限られ、特にリニモのパンクを危惧した結果、このような乗車券を発売することになったと思われます。
最後に、会期中の万博八草駅の利用者数は延べ507万1487人、リニモの利用は万博会場駅が藤が丘方面から399万7604人、八草方面から433万6488人だったとのこと。愛環単独での37%の予測は下回ったものの、全体として鉄道利用が自動車利用を上回ったとされています。このあたりは「環境万博」の面目を施したというところでしょう。
ちなみに、愛環への直通快速ですが、本数は減少したものの運転そのものは現在まで継続されており、これはまさに「愛・地球博」の遺産というべきものです。
次回は、「愛・地球博」開催から20年後の今年、大阪で開催された「大阪・関西万博」について取り上げます。
-その8に続く-















