その10(№977.)から続く


前回までの10回にわたり、近鉄特急、特に名阪直通特急の半世紀の歴史を概観してきました。
今回は最終回となりますが、これからの近鉄特急はいかにあるべきか、将来の展望といったものを論じてみたいと思います。


1 阪神への直通は?


今年3月、阪神にとっては40年来の悲願だった西大阪線が全通し、「阪神なんば線」として開業、近鉄奈良線との相互直通運転が始まりました。

現在のところ、直通運転をする列車は快速急行以下の列車であり(阪神尼崎以西へ達する列車は全て阪神線内快速急行)、特急列車の乗り入れは行われていません。

しかし近鉄は、将来的な課題として、特急列車の阪神乗り入れ、さらにそこから先の神戸高速・山陽電鉄乗り入れも視野に入れて、様々な検討を行っているようです。

ただし、車両面で具体化されたものはまだなく、今年デビューした22600系についても、従来の22000系などと同じ車体寸法であり、特に阪神乗り入れを考慮した形跡は見られません。確かに現在、近鉄の大型車両は阪神三宮まで入れるようになっていますから、この車両もその気になれば阪神線を三宮まで乗り入れることはできるのでしょうが(ただし阪神用保安装置などの搭載は必要)、今のところそのような動きはないようです。
愛好家の願望や妄想を抜きにして考えた場合、三宮(神戸)は魅力的な集客エリアですから、そこまで近鉄特急が乗り入れるのは十分成算がありそうです。


では三宮発着とするとして、行先をどこにするか。パッと思いつくのは奈良、宇治山田、名古屋ですが、奈良は快速急行があり、両都市を結ぶ観光需要はあるのでしょうが、有料特急を運転する区間としては、ややパンチ不足の感は否めません。しかし、平日夕方のホームライナー的な需要はあるでしょうし、総じて堅実な需要が見込めそうな気がします。

これに対して伊勢志摩や名古屋はどうか。

まず伊勢志摩ですが、神戸発着の伊勢志摩特急というのも、観光列車としては大いに魅力的です。ただ乗車時間が長くなりますので、その点はマイカーや高速バスとの競合を考えた場合どうなのでしょうか。とりあえず土曜・休日を中心に多客期限定で運転してみるのがいいのかもしれません。

これに対して、名古屋をターゲットにすれば、名古屋から神戸への観光需要は勿論、名神間の都市間需要も取り込むことができます。また新幹線と比べた場合でも、新幹線の新神戸駅は神戸の中心部へのアクセスに難があり、神戸の都心部へほぼ直行できる近鉄特急は、有力な選択肢たり得そうな気がします。ただ、所要時間は恐らく、名阪間ノンストップだとしても2時間45分くらいになるのではないかと思われ、四日市・津・名張など三重県内の途中駅の需要を取り込もうとすると、所要時間が3時間の大台に乗ってくる可能性もあります。そうなると、同じくらいの所要時間なら安い高速バスに乗客が流れてしまうのではないでしょうか(近鉄は系列会社の名阪近鉄高速バスが名古屋-神戸間の都市間高速バスを運転している)。そうなると、名神間の都市間需要があるとしても、それは限定的になるのではないかと思われます。

愛好家の間では、山陽姫路発近鉄名古屋・賢島行きなどという私鉄の運転区間最長の特急列車が登場しないかなどということが、願望をもって語られていますが、管理人はその実現の可能性は低いと見ています。理由は、阪神や山陽の車両定規に合致した小型の特急車を作らざるを得ず、近鉄線内での運用効率を考えると、この車両が車両運用上の桎梏になる危険もあるからです。これに対して三宮発着の特急なら、近鉄の大型車が入っていますから、保安装置の搭載など小規模な改造で入線することができるからです。


そう考えてくると、阪神との直通特急は、


・三宮・名古屋間を朝夕に発車する列車
・平日夕方、あるいは土休日の三宮-奈良間列車
・土休日の伊勢志摩方面行き(不定期で1~2本。朝三宮発、夜三宮着)


くらいが現実的ではないかと思います。


2 需要拡大の積極策を打つことは可能か?


少子高齢化に伴い鉄道輸送のパイそのものが縮小していくことが確実な状況に鑑みると、やはり需要拡大の積極策を打つことが必要だと思います。

かつて、そのような積極策の一環として、名阪ノンストップ特急の乗客にポータブルDVDプレイヤーとソフトを貸し出していたことがあります(現在は廃止)。それよりも、ビジネス客を取り込むなら列車内で無線LANが使用できるようにするのがいいのでしょうが、青山峠の山間部でも使えるようにするとなると、かなりの設備投資が必要ですね。

そうなれば、むしろ割引切符の充実などで集客を図った方がいいように思います。具体的には、名阪間はビジネス需要の大きい区間なので、回数券などを充実させれば、企業のまとめ買いなども取り込むことができます。
それと管理人が個人的に実現しないかと思っているのは、企業による列車の座席の年間(あるいは月間)借り切りです。発想としては野球やサッカーの年間シートと同じものですが、通勤ならともかく(通勤用のこのような取り組みは、JR四国が行っている)、やはり刻々と予定が変わるビジネス需要に使用するのには無理がありますかね。

ただし、「割引切符の充実」とはいっても、こと観光地に関する限り、東武の連載記事で述べた繰り返しですが、そもそも目的地としての観光地に「行ってみたくなる」「何度でも行きたくなる」と思えるような魅力がないと、集客の努力も徒労に終わると思います。このあたりは観光地を抱える自治体や各観光施設の自助努力の問題であり、近鉄という一民間企業が取り組むのには限界がありますが、それでも積極的なかかわり合いそのものは、絶対に必要だと思います。


3 最後に


近鉄特急の歴史は、管理人は昭和5(1930)年の大阪上本町-宇治山田間の直通運転開始から始まったと思っています。その中でも「名阪直通特急」の歴史も長く、昭和22(1947)の運転開始以来62年、その12年後に名古屋線改軌が完成して本当の意味での直通特急が運転を開始しましたが、それからちょうど50年の節目となります。
管理人なりに、その節目を切り取ってきたつもりですが、ひょっとしたら間違いや思い違いなどあるかもしれません。そのときには御遠慮なく御指摘を賜れれば幸いです。


近鉄特急のますますの隆盛を祈念し、本連載を終了します。長らくのお付き合いありがとうございました。

-完-