その9(№892.)から続く


東武日光線開業以来の、東武の対日光観光客輸送の歴史を取り上げた本連載。
最終回としての今回は、今後の展望について考えていきたいと思います。


まず大前提としなければならないのは、


東武の特急はもはや対日光の観光客輸送だけでは立ち行かない


ということです。もちろん高齢化に伴う熟年人口の増加により新たに旅行に出るようになる層の増加も期待できますが、それよりも少子化により全体的な輸送需要のパイそのものが小さくなっていくことが問題だと思います。
そうすると、東武特急の戦略としては、


観光輸送に軸足を置きつつ栃木・鹿沼方面へのビジネス・用務客も取り込む


というのが正しかろうと思われます。

なぜ「観光輸送に軸足を置く」ことを求めているかというと、過去の小田急の苦い経験があるからです。小田急は、平成8(1996)年に30000形「EXE」を就役させた際に、この車両が箱根や江ノ島ではなく都会(≒新宿)をイメージした内外装だったのが仇になり、「あんな車両では箱根に行く気がしない」という、利用客からの大ブーイングが巻き起こってしまいました。このときの小田急の轍を、東武は踏んではなりません。列車や車両をあまりビジネスライクなものにしてしまうと、観光客にとっては味気ないと感じられるようなので、その点は「譲れない一線」とした方が良いと思います。
もっとも、そのためには、日光や鬼怒川について観光地としての魅力、言い換えれば「一度は行ってみたくなる観光地」「何度も行きたくなる観光地」としての魅力が増さないと、「笛吹けど踊らず」の状況に陥ってしまいます。このあたりは地元の自治体に期待するところが大きいのですが、東武もより積極的にコミットしていく必要があると思います。


さらに、具体的な集客として「回遊ルート」の創出も考えられます。
まずひとつは、野岩・会津鉄道と組み合わせた鬼怒川・会津の回遊ルート。これは、東武とJRとの相互直通運転が始まり、両者の関係が緊密になっていることから、実現へのハードルはかつてほど高くなくなったように思われます。幸いにして野岩~会津ルートには魅力的な温泉地がたくさんありますので、それとタイアップした売り出しも期待できます。現在でもやっているようですが、是非継続してほしいと思います。野岩・会津鉄道は存廃が問題になる可能性もありますので。
これよりももっとやりやすいのは、最近の市町村合併で同じ市町村になった足尾地区との回遊ルートです。このルートだと足尾へは相老まで同じ東武の伊勢崎線を使えますので、JRの協力を仰ぐ必要がないからです。このルートはわたらせ渓谷鉄道(旧国鉄足尾線)の活性化にもなりますので、その意味でもメリットは大きいと思います。最近の「JTB時刻表」でもわたらせ渓谷鉄道と日光方面へのバスが同じページに載るようになりましたので、そのような利用をあるいは期待しているのかもしれませんが、回遊型の割引乗車券などで大々的に売り込んでもよいのではないかと思います。この回遊ルートのメリットは、日光線系統の特急だけではなく、本庄早稲田駅開業で館林・太田方面への乗客が減少している「りょうもう」の活性化策にもなることです。「りょうもう」のルートは、観光地としては失礼ながらメジャーなところはないので、この回遊ルートを売り込むのが活性化策としてはよいのでは、と思います。


そして最大の問題は、現在の100系「スペーシア」が新造後20年目に達するということです。現在のところ、特に内外装のリニューアルなどは行われていないようです。目立つのはオーディオシステムの廃止くらいで、それ以外は手が加わっていません。もちろん、当初の設計が優秀ですので、現在でも十分に通用するということはいえますが、時間の経過による老朽化には対応する必要があります。仮に物理的な老朽化とはいえなくとも、バブル絶頂期に絶賛された内装ですから、現在の基準では「ゴテゴテしすぎ」「無駄に豪華」という評価となる危険性もあります。そうなるとやはり、現在の基準に即したリニューアルは不可避ではないかと思います。
あるいは、完全な新造車両を投入することも考えられますが、「スペーシア」の物理的な寿命が来ているとはいえない状況下で全面置き換えは非現実的でしょう。考えられるのは、JRとの相互直通運転の拡大と予備車の確保を見込んで新型車を1~2編成投入することでしょう。ただこの場合は、かつてDRCと「白帯車」でみられた内装・料金の格差の問題が生じる可能性もあり、それに配慮する必要が出てきます。また浅草発着・JR乗り入れと運用を固定せざるを得なくなる可能性が高く、かえって柔軟な車両運用を阻害する危険性だってないとはいえません。そしてそもそも、東武という会社の財務上の問題(北関東に赤字ローカル線を抱えていることから収益率が同業他社に比べ低い)から、車両に大規模な設備投資が出来かねるという問題があります。

そう考えてくると、現在の「スペーシア」をリニューアルしつつ継続使用するのが、当面は最良の選択肢といえます。
ではJRはどうするのか? 現在使用している485系は、同系の最新グループとはいえ製造後30年前後を経過しており、予備車の189系も同じくらいの年数を経過していますから、両者について老朽化の問題が早晩浮上することは必定です。現在JR東日本は「成田エクスプレス」用253系の置き換えを発表しており、その中から平成14(2002)年にW杯輸送対応用として増備された最後期車(2編成)を東武直通用に転用するという噂がありますが、真偽の程は分かりません。まさか東武直通のためだけに完全な新型車を用意するとは思えませんが、案外「踊り子」などに使用中の185系の置き換え計画とも絡んでくるような気がします。


この点に関連して、果たしてJR直通列車が現行の4往復体制から増えることがあるのかですが、東武側も予備車の余裕がないことや、新宿-池袋-大宮間の線路容量が限界に近いことから難しいのではないかと思われます。ということは、東武は浅草発着の列車もおろそかにはできないでしょう。


ここまで東武の対日光観光輸送を振り返ってきましたが、管理人の力量で果たしてこのテーマを御しきれているかどうか、はなはだ心もとないのものがあります。その判断はやはり、読者の皆様の評価に委ねざるを得ません。
長らくのお付き合い、誠にありがとうございました。


-完-