久々の歌舞伎座である。この狂言は、三代目猿之助により1981年に演じられた新作歌舞伎で、43年ぶりに甦ることとなった。諸般の事情から四代目が演じる事は叶わず、今回は、縁、薄からぬ高麗屋三代等が演ずる事となった。
狂言で有る・・・。「太閤記」と聞いてこれを史劇と見たら大間違いで有る。確かに、歌舞伎の時代物には史実として語られるものと創作として「騙られる」ものとが有るが、この作品に限ってみれば「破天荒な創作」と言えるであろう。いくつもの常識破りが見られる。主立ったものを挙げても・・・
○明智光秀の実父は松永久秀であった。
○織田信長の嫡男信忠の妻、三法師の母は光秀の妹だった。
○鉄砲の名手鈴木(雑賀)孫市は秀吉の家臣になった。
○「中国大返し」は海路であった。
「寅に翼」風に言えば大きな「はて?」が付く処だが、決して「すん!」となって立ち尽くす事が無いのは、力技でねじ伏せて行こうという演出の強さだろう。何せ、「新三国志」において劉備玄徳を女性としたスーパー歌舞伎の系譜に属す作品である。
「太閤記」と言いながらも、そこにワンダーランドを出現させたいなら、使える手立ては何でも使う!
○戦国最大の「ヒール役者」松永久秀の最期はどうしても描きたい!それなら、色々取り沙汰される光秀謀反の原因をこの人に担わせれば、名場面「平蜘蛛の茶釜爆破事件」を堂々と描け、そこから時代物の名作「時今也桔梗旗揚」の「馬盥(ばだらい)」の場面にもすんなり繋がる。
○信忠の正室が誰かは疑問が多いので、出自が解らない光秀の妹とくっつけよう!
○戦国ヒーローの1人で有りながら実像が不明の雑賀孫市を「天王山」に登場させよう!
○「中国大返し」を海路にすれば、スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」の弟橘媛(オトタチバナヒメ)入水のシーンへのオマージュが図れる。それなら、やってみよーと云う処だ。
話は、大規模な合戦シーンが出来ない舞台の制約を木端微塵にしながら力尽くで進む。2幕目の「海路大返し」では、波を静めるために三法師の母が秀吉に子供を託し入水・・・、そこに大綿津見神が現れ波は静まる。ここで、船上の秀吉(幸四郎)孫市(染五郎)海上の大綿津見神(白鸚)の高麗屋三代揃い踏みが完成する。その後、船は空を飛び?!、光秀(松也)VS秀吉・孫市の本水を使った大立周りとなる。
更に、大詰めに至っては力技の極み!天界が舞台となり、天帝や西遊記の登場人物が出て来て立ち回りの末に、悟空(幸四郎)の宙乗り!結局その場面は「夢落ち」ということで済ませる。「何だ、宙乗りをしたかっただけじゃん!」とも思うが、これも力技で納得させる。そして大団円!舞台は大阪城・・・、前田利家(松也)毛利輝元(尾上右近)宇喜多秀家(染五郎)豊臣秀吉(幸四郎)加藤清正(巳之助)そして徳川家康(中車)などの登場と言えば、これは場所や人物を換えての「清洲会議か???」と思うが、何と単なる「所作事」(踊りだけ)に・・・、しかし、これが凄い!何せ染五郎・幸四郎親子に右近・巳之助・松也の五人による「三番叟」である。こんなにエネルギッシュな三番叟は見たことが無い!もう、納得するしかない。
幕間を除いてもたっぷりも三時間!私にとっては、どんなテーマパークをも凌駕するワンダーランドだった!