ソウルの地下鉄の駅名は、韓国語(ハングル)の他に、アルファベットと漢字とカタカナで表記されています。漢字は中国語圏の人のためのもの、カタカナは日本語話者のためのものでしょう。
実はこの漢字表記、昔から中国語圏の人のための簡体字だったわけではありません。以前は漢字世代の韓国人のためのものでした。その当時は、韓国人のためのハングルと漢字世代の韓国人&日本人&中国語圏のための漢字(旧字)、外国人のためのアルファベットでした。
ところが世代がかわり、今の現役世代はほとんど漢字に馴染みのない世代。そのため、漢字=中国語のためのものという認識に変わってしまったようです。おそらく私達がアラビア文字やキリル文字、またはタイ文字をみて、ああ、アラビアの人が読むためのものだとか、タイの人のために書いてあるものね、というふうに思うような感じで漢字をみているようです。なので、アラビア圏のための表記に古代アラビア文字を使わないように、韓国の漢字表記は古い漢字ではなく簡体字になってるようです。 しかし、漢字は大陸だけじゃなくて台湾や日本などでもつかわれてるし、何より韓国の中の漢字世代はまだ死に絶えてないのだからせめて韓国で長年使われてきた旧字で書いて欲しい
そのため現在は、ハングルの他にアルファベットと簡体字とカタカナでの表記になっています。
ところが!
このカタカナ表記が日本人たちに評判悪い 役に立たないとか変だとか、とにかく評判悪い
トンデムンヨッサムンファゴンウォン
って書いてあったら、日本人のうちどれくらいがスラスラ読めるでしょう。
トンデムンヨッサムンファゴンウォン
よりかは
東大門歴史文化公園
にしたほうが意味もわかるし、ストレス少ない…とおもったことがある人多いんじゃないですかね。
そのため在住者やリピーターさんの間であのカタカナ表記おかしいという話題は定期的に提起されます。
カタカナ表記でいつも槍玉に挙げられるのは
トンデムンヨッサムンファゴンウォン
コソクターミナル
ヤッス
オッス
ほぼ4強(ベスト4)入りの常連たちです。
確かにこれら、漢字で書いてくれたりしたほうがわかりやすいかも
東大門歴史文化公園
高速ターミナル
薬水
玉水
でもですよ。漢字にすればよりわかりやすいかといえばそうもいえないこともあります。だって、漢字で書いてあったら確実にその漢字を日本語読みして、会話として通じなくなると思いますよ。つまり
ヨンサンのかわりに龍山とかいてあったら、龍山という看板をみてどれだけの人がヨンサンと読めるでしょうか。
台湾や沖縄に行った時に感じたのと同じ感覚に感じるだろうなぁ。
アングクと聞き慣れてる場所が安國と書いてあったら、それがアングクであると気づかない人も出てきそうですよね。そうするとやはりカタカナ表記のほうがいいのかなぁ。というふうにカタカナ表記がいいか漢字表記がいいのかで日本語話者の意見も割れるわけです。
しかし、その前に考えなきゃならないことがあるように思えます。
それは、日本語話者と韓国語話者で単語の脳内インプットの方法が全然ちがうということです。
日本語話者の場合、例えば新しく知り合った人に名前を聞いた後、どういう漢字を書くか聞きます。つまり音+文字のセットで脳内にインプットされます。だからなかなか名刺文化が廃れない。
新しい固有名詞は音と文字の2種類の情報を取り入れて連結させることで記憶していくのが日本語話者の覚え方、なのです。
よく『カタカナは苦手だ』という日本語話者のおじさまおばさまがいます。あれは、カタカナの読解が下手なのではなくて、意味のわからない音の羅列は記憶にとどめにくいってことなんじゃないかな。だから意味を印象づけるために音の前か後に文字でインプットする作業が必要なのです。ところが、こういう文字世界の人って世界的にみたら少数派。韓国も、昔の漢字&ハングル世代はともかく、今の世代(ハングルのみ)は表音文字であるハングルだけで脳内にインプットされているわけです。
ということは、そもそも、文字から意味を推し量るという作業をしようという考えそのものが浮かばないのではないでしょうか。
つまり、箸だけで食事をしている人たちが、食卓についても食事の時にスプーンが必要だ!とは思わず、箸とスプーンが必要な人のニーズに全く気づかないみたいなことが起きているのではないでしょうか。
要するに駅名カタカナ案件は、カタカナがいいか漢字がいいかではなくて、カタカナと漢字の両方(ふりがなであれ併記であれ)が欲しい日本語話者と、ハングルだけでなんの不自由も感じていない現代の韓国語話者の表記世界の感覚の違いから来ているものなのじゃないかな。ということです。
どう思われますか?