藤沢周平さんの原作を山田洋次監督が脚色した時代劇。

激しい剣げきのシーンに加えて、下級武士たちの生活や

その内面をリアルに活写した異色の映画です。

 

タイトル 「たそがれ清兵衛」

キャスト  井口清兵衛(真田 広之)

      飯沼朋江(宮沢 りえ)

      甲田豊太郎(大杉 漣)

監督   山田 洋次

原作   藤沢 周平

 

庄内地方の海坂藩で御蔵役を務める井口清兵衛は

禄高三十石の下級武士。―――

彼は認知症の老母と幼い二人の娘の世話や、

病死した妻の薬代で嵩(かさ)んだ借金を返済するため、

夕刻の太鼓の音を聞くと真っすぐに自宅に帰り

家事と内職に精を出していた。

またその貧乏暮らしで身なりは薄汚れ、

同僚たちの中には彼を「たそがれ清兵衛」と呼んで

小馬鹿にする者もいた・・・。

 

ある日清兵衛は親友の飯沼倫之丞と再会。―――

彼は妹の朋江が酒乱の夫・甲田豊太郎に

度々暴力を振るわれるため、

離縁させたことを清兵衛に打ち明ける。

その後しばらくして彼女は幼馴染みだった

清兵衛の家を度々訪れる。―――

朋江は幼い頃一緒に遊んでくれた清兵衛に

再び淡い恋心を抱き始める・・・。

 

実は清兵衛も親友の妹である朋江に

好意を寄せていました。

彼女は週に三度、四度と自分の家を訪れては、

嫌な顔一つせずに二人の幼い娘や老母の面倒を見てくれる。

 

とは言え彼女の家柄は上級の武家。―――

今の自分の貧しい境遇を思うと、

とても彼女と夫婦になることはできない。

清兵衛はそう思い彼女との将来を諦めてもいました・・・。

 

そんなときに清兵衛は彼女の元夫である甲田から

果し合いの申し出を受けます。

彼女の実家に押し寄せ乱暴をした甲田を

清兵衛が諫(いさ)めたからです。

 

これに続く彼らの果し合いの場面は

本編中盤のハイライト。―――

真剣で勝負を挑んだ甲田に対し、

清兵衛は短い棒切れ一つ。

 

しかしながら清兵衛は小太刀の名手でした。

激闘数太刀。―――

やがて清兵衛は棒切れで甲田の真剣を

奪い取り決着を見ます。

 

さて清兵衛に扮する真田さんは(皆さんご存知のとおり)

剣げきの名人でもあります。

かつてハリウッド映画「ラストサムライ」でも

その達人ぶりを見事に発揮。―――

映画のスタッフたちを驚かせたと言います・・・。

 

ラストの会戦シーンでは彼の凄まじい殺陣姿が

主役のトム・クルーズより目立ってしまったことから、

真田さんの登場シーンを大幅に削ったとのこと。―――

本編でもそのカッコよさは際立っています。

 

また真田さんはもともとその演技力にも定評のあるお方。―――

ハリウッド俳優でもある彼は英語に変えて

本編では地元山形の「庄内弁」をごく自然に語る芸達者ぶり。

朴訥ながらも芯の強い男を魅力的に演じていました。

 

ところで映画のラストシーンで

清兵衛は藩内随一の剣人・余吾善右衛門と対決。―――

この場面の冒頭では藩命を受けて討手となった清兵衛が、

暗い屋敷のなかで相手と静かに対話するシーンが続きます。

 

ドラマのテンポを緩めたこともあってか、

従来の時代劇ファンのなかには違和感を感じる方が

いらっしゃるような気もします。

山田監督は颯爽とした躍動感を多少犠牲にしても、

男二人の内面を描きたかったように思われますが、

このあたりは好き嫌いの別れるところかも知れません(?)。

 

2002年  松竹

 

井口 清兵衛(真田 広之)

余呉善右衛門は切腹を命じられながらも、それを拒絶したばかり

か討手を斬殺。自らの屋敷にたてこもっていた。新たな討手に命

じられた清兵衛は、決闘を前して朋江に秘めていた想いを打ち明

ける。しかし朋江は先ごろ清兵衛にそれとなく縁談を断られた後、

会津の有力な家中との縁談を受けてしまっていた・・・。