北欧スウェーデンの作家アンデシュ・ルースルンドと

ベリエ・ヘルストレムの共著による犯罪小説です。

異常な暑さに見舞われたスウェーデンで、

服役中の囚人が護送中に脱走。―――

ここから悪夢のような物語りが展開していきます。

 

暴行・殺人の罪で服役しているルンドは、

ストックホルム市内の救急病院に護送されている途中で

警備の隙をついて逃走した。

彼は四年前に二人の女児を殺害した男。―――

ふたたび幼い少女が犠牲になる危険が大きいことから、

ストックホルム市警のベテラン刑事・

グレーンス警部は懸命にその行方を追う・・・。

 

ちょうどその頃テレビでその報道を見た

作家のフレドリックは凄まじい衝撃を受けていた。

彼はつい今しがた五歳の娘を

保育園に送り届けたばかり。―――

そのとき彼は園の前のベンチにその男が

じっと座っているのを目撃していた。

彼は祈るようにわが子のもとへ急ぐが・・・。

 

自分は今までに北欧系作家の

ミステリーを何冊か読んでいます。

それらはどちらかと言うとシリアスで

重たい物語が多かったような気がします。

 

ただしその一方で(時おり顔を見せる)

ユーモアあふれる描写がとても魅力的な作品もまた

多かったように記憶しています。

本書を一読したあとで、

はからずも自分はそれらと同じ感想を持ちました。

 

あらすじのご紹介は控えた方がよいと

思いますのでその詳細は省きますが、

本書のプロットの流れはだいだい次のようなものです。

 

怪物とも言えそうな犯罪者ルンドの登場。―――

刑務所から脱走したその男は、

女児を狙って卑劣極まる犯罪を繰り返そうとします。

事件の暴発。

現場から逃走するルンド。―――

 

やがて娘を奪われた父親フレドリックは

苦しみ抜いた末にある行為を決意します。

そしてさらに続く暴力の連鎖。―――

やがてすべてを無に帰す

カタストロフィが勃発してしまいます。

 

なお本書においては、本筋の事件とは別に

それと並行して複数の物語がリアルタイムで展開。―――

やがてそれらは本書のタイトル「制裁」の意味を含みつつ、

悲劇的なエンディングに収れんします。

 

たしか作者は本作がデヴュー作とのこと。―――

とは言えこの辺りの緻密極まるプロットの組み立ては、

とても新人作家の手によるものとは思えません。

 

さて本書における「探偵役」は

スウェーデン市警のグレーンス警部という御仁。―――

彼は定年まじかの頑固者で怒りっぽいことこの上なく、

他人に対して歯に衣着せぬ物言いを辞さない、

という「変わり者」です。

 

そんな彼が同僚や検察官、刑務官らと交わす

会話の数々に触れて、思わずニヤリと笑ってしまう

のは自分だけではないような気がします。

 

たしかに本書はシリアスで重たい作品かも知れません。

作品中にはスウェーデンが抱えている

犯罪者の更生などに関する鋭い指摘も含まれていて、

読み方によっては

社会派ミステリーと言えなくもありません。

 

とは言えグレーンス警部というユニークな

キャラクターが醸し出すユーモラスな雰囲気もまた、

本書の大きなチャームポイントに

なっているような気がしました(?)。

 

令和6年5月31日  読了 B  (ハヤカワ文庫)

 

アンデシュ・ルースルンド & ベリエ・ヘルストレム

「制裁」

フレドリックが娘のマリーを保育園に送り届けるため園のな

かに入ったとき、門のすぐ外にあるベンチに男がひとり座っ

ていた。何となく見覚えのある顔なので、子供たちの誰かの

父親かも知れない、とフレドリックは思った。が、この建物

の中にいる子供たちのどの顔とも結びつかなかった・・・。